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健康診断中に児童を…麻酔中の患者を… 医師による相次ぐ盗撮事件と、その判決

小川たまかライター
(写真:イメージマート)

●健康診断中に児童を盗撮

「協力医としての立場を悪用し、被害を受けた児童は多数に及んだ」

 11月15日、京都地裁。健康診断中に女子児童らの盗撮を繰り返し、岡山県の迷惑防止条例違反などに問われた医師・藤原大輔被告に対する判決が言い渡された。

 裁判長は「ゆがんだ性癖を児童に向けた経緯にくむべき点ははない」と断じたものの、実刑とはならず、懲役2年6カ月・執行猶予4年の執行猶予判決だった。

 判決理由の中で「開業医としての職を失うなどくむべき事情もある」と情状に触れると、近くに座っていた男性の傍聴者が「アホか」とつぶやくのが聞こえた。

 藤原被告は昨年、京都市内で性風俗サービスを利用した際に盗撮を行って通報され、その際に地元の岡山県内の小中学校で児童・生徒を盗撮していたことが発覚し、逮捕された。2012年から健康診断に携わるようになり、遅くとも2015年から性風俗サービスを利用する際に常習的に盗撮を行っていたことが裁判で指摘されていた。

 健康診断中の犯行は事前に用意したペン型カメラで行われていた。被害に遭った児童・生徒はあわせて26人。

●手術中に患者を盗撮

 11月11日には同じ京都地裁で、全身麻酔中の患者を盗撮した京都府立医科大学附属病院の元医師・新井啓仁被告の判決言い渡しがあり、懲役2年6カ月・保護観察付き執行猶予5年と、こちらも執行猶予付き判決となった。

 「動画の撮影状態にしたスマートフォンを手術着の胸ポケットに入れて盗撮するなど、手口は大胆かつ巧妙」「医師という立場を悪用して患者の信頼を裏切った卑劣で悪質な犯行で、厳しい非難に値する」(NHK NEWS WEB/11月11日より引用)と指摘されているが、一部の被害者と示談が成立していることなどが執行猶予判決の理由となった。

 被害に遭った女性は、児童も含む7人。

●悪質性が高い事件でも執行猶予判決

 2つの事件に共通する点は多い。

・医師がその職業を利用して犯行に及んだ

・被害者からの信頼を利用した

・複数の被害者がいる(犯行に常習性がある)

・被害者に児童が含まれる(迷惑防止条例違反だけではなく、児童ポルノ禁止法違反にも問われている)

 これらは、盗撮の中でも「悪質性が高い」と判断される事情だ。しかしそれでもなお、彼らは執行猶予判決となった。盗撮事件は現状では各都道府県の迷惑防止条例違反、もしくは被害者が児童の場合は児童ポルノ禁止法違反での起訴となることが多く、「初犯」の場合に実刑判決となることは稀と言われる。

 被害者が複数いて常習性が指摘されているとはいえ「初犯」であることは間違いないものの、それをそのまま前科がないからと執行猶予の理由とすることには疑問を覚える。これまで発覚しなかっただけのことだ。

●盗撮は軽い犯罪なのか

 もちろん、刑罰を重くすれば再犯防止につながるかといえばそう単純ではないだろう。藤原被告の場合、弁護側は性嗜好障害(窃視症)と診断されたと主張し、被告は今後も「治療」を続けていくと述べた。

 痴漢や盗撮などの性犯罪は特に「依存症(性依存)」との関連が指摘されており、依存症を治療するためのクリニックでプログラムを受けていることを法廷で反省の証拠として示す被告も少なくない。刑罰よりも再犯防止のためのサポートが重要と言われることもある。

 一方で盗撮や痴漢は性犯罪の中でも「軽い犯罪」と加害者本人が認識している場合がある。盗撮の場合は特に「触っていないのだから誰も傷つけていない」と自分を納得させて犯行を繰り返す加害者がいる。ほとんど実刑判決となることがない現状は、この加害者たちの認知の歪みに拍車をかけることになっていないか。

●撮影罪が新設されれば「3年以下の懲役、300万円以下の罰金」に

 性犯罪に関する刑法の改正試案が10月に発表され、この中では新たに性的姿態の撮影行為を取り締まる「撮影罪」や、その画像を提供する「提供罪・公然陳列罪」「影像送信罪」の新設が盛り込まれている。これらは迷惑防止条例違反と比べて格段に重い罰則となっている。

(試案)

撮影罪…3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金

影像送信罪…5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金

 盗撮は被害者が被害に遭ったことに気づかない場合も多いが、一方で犯行の証拠が残りやすい性犯罪だ。逮捕後の余罪が次々と発覚することも珍しくない。

 警察庁によれば、2021年の盗撮行為の検挙件数は5019件で過去最多。2010年の1741件と比べて、3倍近くまで増えている。スマートフォンの普及はもちろんだが、ネットなどで誰でも気軽に「ペン型カメラ」「メガネ型カメラ」を購入できることも、犯行のハードルを下げているのではないか。厳罰化が抑止力となるかどうか。

 11月中旬の2件の判決から間もない24日には、医師による健康診断中の盗撮事件が新たに報道された。

児童ポルノ禁止法違反などの疑いで逮捕されたのは、兵庫県西宮市に住む医師、佐藤博和(さとうひろかず)容疑者(34)です。

警察によりますと佐藤容疑者は今年3月から4月、大阪府と兵庫県の中学校や高校の健康診断で、上半身が裸の女子生徒ら14人を、携帯電話などで盗撮したなどの疑いがもたれています。

【速報】健康診断中 女子中高生の裸を動画撮影か 医師の男を逮捕「立場を利用して盗撮した」学校に加え会社の健康診断でも犯行か(MBSNEWS/11月24日)

 本来、子どもが安全に守られるはずの場所で行われるこのような犯行は、社会への信頼を著しく損なう。盗撮という犯罪への危機感を、社会全体がもう少し共有するべきではないか。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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