今年で最も日本国民をゲンナリさせた言葉を表彰するとしたら、間違いなく「一億総活躍」が選ばれると思う。流行語大賞ならぬゲンナリ語大賞だ。戦後30年以上経ってから生まれた筆者の世代ですら、「一億」とか「総～」という言葉には戦時中のような時代錯誤感を覚えてしまう。

「活躍」という言葉も、政府から言われると暑苦しいというか押し付けがましい。我々は普通に暮らす生活者であり、オリンピックでのメダル獲得を半強制されているロシア選手ではない。

筆者は前回の記事で「一定年齢を超えたら婚活はやめよう」と書いた。何事にも適齢期がある。とっくに中年になっているのに無理に若作りをして「活動」を続けていると疲れ果てて病んでしまうことが多いからだ。男も女も40代になったら、結婚よりも恋をしよう。身近な人をもっと好きになり、年相応の色気が漂うような中年を目指したい。

これから人口が減っていき、高齢化率は上がっていく日本は、人間で例えれば明らかに中高年だ。安倍政権が掲げる「成長」や「戦略」、「一億総活躍」といった言葉はそぐわないと感じる人は筆者だけではないと思う。政治家の白髪染めに象徴されるような若作りは痛々しいし、歪みも大きくなるからだ。

かといって、「老い支度」や「下山の心得」といった言葉では気分が暗くなり過ぎる。「成長ではなく成熟」と言われれば少しはしっくり来るけれど、どんな大人になれば成熟したといえるのかがわからない（まだ成熟していないのだから仕方ない）。ロールモデルは、とんちんかんな政府目標などではなく、テレビの中にあると思う。

物語上の英雄たちが鍛錬も戦いもせずにひたすらおしゃべりと恋を楽しみ、敵（鬼）とすら仲良くなってしまうauのCMシリーズは長く人気を博している。誰も傷つけない軽い会話と和やかな人間関係が魅力的だ。

最近では、テレビドラマ化された『釣りバカ日誌』が面白い。仕事はイマイチだけれど人柄がいい主人公は親世代からも異性からも愛される。休日出勤して出世や成長を目指すよりも仲良しのスーさんと釣りがしたい、自慢の釣果をなじみの店でキレイな女性に料理してもらっておいしく酒を飲みたい、という生活信念が貫かれている。

キリンビールの『のどこし生』の新CMも斬新だ。キーワードは「なかよし」。学生時代は地味グループと派手グループに分かれていた（いわゆるスクールカースト）男たちが、10年ぶりに再会したら気持ちよく一緒にビールを飲めた、という風景が描かれる。なんとも微笑ましい。筆者のような男性だけでなく、女性からの好感度も高いCMだろう。

これらが指し示す新しい日本男児像は何か。変なこだわりがなく、威張らず、他人を不必要に貶めず、ウソをつかず、明るく笑うことを楽しむ大人である。オーナー社長だと持ち上げられても「社員5人だけどな」と自虐笑いで受け流す矢作に学ぼう。

30代にもならば肩書や年収、容姿、家庭状況などは違って当たり前であり、比較をして「オレはもっと上を目指すぞ」などと対抗心を燃やすのは野暮である。会社の同期にすら競争心を持たない『釣りバカ』の浜ちゃんを見習おう。

朗らかさを保つには、ある程度の健康とお金は必要である。できれば仕事にも精を出したほうが楽しいだろう。しかし、その多寡で自他を格付けするのは子どものやる振る舞いだ。仕事で活躍などできなくても、いつも上機嫌でいること。これからの日本男児が目指す大人像だと思う。