草なぎ剛の果てしないエネルギーが溢れ出す『バリーターク』が世田谷のシアタートラムで開幕
休憩なしの100分一本勝負
稲垣吾郎と香取慎吾と3人で〈新しい地図〉での活動をはじめて注目されている草なぎ剛が4月から舞台『バリーターク』に出演している。
5月6日までKAAT神奈川芸術劇場で上演を行ったのち、5月12日からは、都内、世田谷のシアタートラムへ場所を変える。
これがずいぶんと実験的で刺激的な作品なのだ。
タイトルの“バリーターク”は架空の国。
まだ見ぬその国を想像しながら暮らしているふたりの男(草なぎ剛、松尾諭)がいる。舞台は彼らが暮らすだだっ広い部屋。広いワンルームのようなデザイン(美術:松井るみ)で、冷蔵庫、ベッド、シャワー、プレーヤー、トレーニング器具……と生活に必要なものはだいたい揃っている。
そこで、30代なかばの男1(草なぎ剛)と40代なかばの男2(松尾諭)が朝起きて、コーンフレークを食べて、シャワーを浴びて、大音量で80年代の音楽をかけて……というようなことを行う。
ふたりはとめどもなくしゃべり、はしゃぎ、部屋のあっちこっちを動き回る。
よくよく見れば、玄関ドアはどこにあるんだろう? と思う。舞台にはそれらしきものがない。
男ふたりは外に出ることなく、ずっとこの奇妙な出口のない部屋にいるのだった。
あるとき、そこへ60代の男3(小林勝也)が極めて鮮烈な形で現れ、ふたりに語りかける。
休憩なしの約100分、男ふたりがあてどなく、ただひたすらに動き回っている姿を、観客は、まるで檻のなかの動物や水槽のなかの魚を見るように見つめ続けることになるが、ふたりの男の律動に退屈をもたらす緩みはなく、ずっと見入ってしまう。
演出家も俳優も、台本に書かれたことを忠実にやっているそうだ。かかる音楽にも指定があるらしい。
草なぎ剛のブラックホール的エネルギーが炸裂
回し車のネズミのように、ひたすら動き回る草なぎ剛から、どんどん熱が放出し、汗が衣裳に滲んでいく。彼が語る長台詞も印象的だが、それ以上に、その肉体が饒舌に見える。言葉にならない彼の熱量が、客席に伝播して、観客の頭の中に侵食してきて、各々の言葉を引きずり出していく。
草なぎ剛はこれまで、つかこうへいの「蒲田行進曲」に代表される、テーマを背負った舞台や映像作品で力を発揮してきたが、今回のような理屈を超えた世界こそ、草なぎ剛のブラックホール的なエネルギーの発露には最高の場であるようにも思えた。
新たな表現の場を得たのではないだろうか。
戯曲を書いたのは、アイルランド、ダブリン生まれ、ロンドン在住のエンダ・ウォルシュ。演出は、白井晃。ポール・オースターやフィリップ・リドリーなど幻想的な海外戯曲の演出に定評がある白井の作り出す、テレビドラマや邦画などでは得ることのできない、舞台空間ならではの自由な作品。
これをわずか約270席のこぶりなスタジオで上演し、スター・草なぎ剛が出演するという試みの面白さは、最初、情報をほとんで入れずに神奈川芸術劇場に来たとき、先入観で、つい、最大約1200席の大劇場のほうに行ってしまったことでも実感できる(私だけ?)。シアタートラムも最大定員248人だ。
草なぎとコンビプレーを行う松尾諭が、草なぎを立てつつ、決して埋没することなく存在しているところにも才能を感じた。それとなんといっても、途中で登場し、ふたりの男に示唆的なことを語る小林勝也の立ち方と声は、ふたりが生きている世界とまったく違う次元で、男ふたりに大きな衝撃を与えていく。そして、それこそ、衝撃のラストへと駆け抜けていく。
男3が男1と2に言う謎の言葉の意味は… バリータークとは…
あれこれ想像を巡らす悦びは、何度もヘビロテしたい好きな音楽のようで、そんなクセになる舞台だった。
バリーターク
作:エンダ・ウォルシュ
翻訳:小宮山智津子
演出:白井 晃
出演:草なぎ 剛 松尾 諭 小林勝也
佐野仁香/筧 礼(ダブルキャスト)
主催:KAAT 神奈川芸術劇場/公益財団法人せたがや文化財団
企画制作:KAAT 神奈川芸術劇場/世田谷パブリックシアター
2018年4月14日(土)~5月6日(日)
神奈川芸術劇場 大スタジオ
5月12日(土)~6月3日(日)
シアタートラム
6月16日(土)、17日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
写真撮影 :細野 晋司