年金生活者への5000円程度の臨時給付金支給。早くも参院選対策との見方が浮上。その裏側で何が…
3月15日、首相官邸で、自民党の茂木敏充幹事長と高市早苗政調会長、公明党の石井啓一幹事長と竹内譲政調会長が、岸田文雄首相に、年金生活者へ5000円程度の臨時給付金を支給する要望書を手渡した。岸田首相は、「政府としてしっかり対応したい」と応じたという。
首相動静によると、この会談は、同日午後2時43分から53分までの10分間だったようだが、この動きから、年金生活者へ臨時給付金を支給する話が、急に注目されることとなった。予算がからむ話で、あと半月しか残されていない年度末も押し迫った時期に、である。
年金生活者への臨時給付金は、過去にも何度か例がある。特に、2014年度から2017年度にかけては、5度(年金生活者以外の低所得者も含む)にわたり一連の「臨時福祉給付金」が支給されている。
特に、今回、この臨時給付金の与党提案が、参議院選挙対策ではないかと想起させる前例が、2016年春に実施された「高齢者向け給付金(年金生活者等支援臨時福祉給付金)」である。
2016年参院選前の給付金
2016年夏には、参議院選挙が予定されていた。そんな最中、2015年12月に編成された2015年度補正予算に、年金生活者等支援臨時福祉給付金が3624億円計上されたのである。時の政権は、第3次安倍晋三内閣。
年金生活者等支援臨時福祉給付金には、障害・遺族年金受給者向けもあるが、2016年度に65歳以上になる高齢者で、2015年度分の住民税が課税されていない人を対象に、1人につき3万円支給するというものである。
年金生活者等支援臨時福祉給付金が盛り込まれた2015年度補正予算政府案は、2015年12月18日に閣議決定され、2016年1月4日に国会に提出されて、1月20日には可決成立した。
しかし、予算成立時点で、2015年度はもうあと2か月少ししか残されていなかった。2か月余でどうやって1人3万円も支給するのか。
そもそも、この年金生活者等支援臨時福祉給付金の予算は、2016年度に繰り越すことを前提にしたものだった。現に、2015年度の決算書には、年金生活者等支援臨時福祉給付金の予算のほぼ全額が2016年度に繰り越されたことが記録されている。
そして、厚生労働省が公表する『「高齢者向け給付金」の申請受付状況』によると、この高齢者向け給付金は、2016年4月から5月にかけて全国各地で約1100万人を対象に、1人3万円支給されたのである。まさに、同年7月10日に投開票された参議院選挙の直前の時期だった。
2016年7月の参議院選挙では、与党は、目標としていた改選議席の過半数である61議席を大きく上回る70議席を獲得して勝利した。
では、今年の給付金は?
そして、2022年の参議院選挙。早くも、自民党の茂木幹事長によると、7月10日に投開票を予定している模様である(奇しくも、2016年と同じ日である)。
今般提案された臨時給付金は、報道によると、新型コロナ対策として2021年度補正予算で実施した低所得世帯(住民税非課税世帯)向けの10万円給付を受けた世帯は対象外とすることとして、約2600万人が対象となるという。
1人に5000円程度支給するとなると、総額は1300億円程度となる。その財源は、2021年度の予備費から捻出するという。
なぜこうした年金生活者向けの臨時給付金を、今になって支給しようという話になったのか。
高齢世代ばかりに恩恵が及ぶ政策では、若年世代が反発することは必至である。それでも敢えて年金生活者向けの臨時給付金の提案が出るというのは、単に参議院選挙対策ばかりではなく、
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