マイナ保険証普及のために、窓口での患者負担増!「医療機関の収入増=国民の負担増」という構図が直撃
政府は、マイナンバーカードに健康保険証の機能を組み入れた「マイナ保険証」を普及させようと、様々な取組みを始めている。
その一環として、マイナ保険証が使える医療機関を受診すると、4月から窓口での医療費の負担が増えることとなった。
具体的には、マイナ保険証が使える医療機関で、マイナ保険証を利用して受診すると、3割自己負担の患者は、初診時に21円、再診時に12円、薬の調剤で9円の負担増となる。おまけに、マイナ保険証を使おうが使うまいが、マイナ保険証が使える医療機関を受診すると、初診時に追加して9円の負担が生じる。
残りの7割分は、我々が月々支払っている保険料や税金で賄われて、医療機関の収入(診療報酬)となる。それも相似拡大的に増える。
逆からみれば、マイナ保険証が使える医療機関にとって、マイナ保険証を利用して受診する患者からは、初診時に70円、再診時に40円、薬の調剤で30円もの収入がより多く得られる、というわけだ。加えて、マイナ保険証を使おうが使うまいが、初診時に30円追加して収入が得られる。
3月までと同じ治療を行っても、4月からはこうなるのだ。
マイナ保険証を普及させようと、患者の医療費負担を増やすのは本末転倒なのだが、医療機関には「おいしい」話になっている。これを「アメ」として、マイナ保険証を普及させたいとの思惑がある。
確かに、現時点で、どの医療機関でもマイナ保険証が使えるわけではない。使えるようにするには、医療機関は、オンライン資格確認システムを導入しなければならない。ところが、3月下旬時点で、全医療機関の14%でしか使えない。
だから、医療機関に、オンライン資格確認システムを導入してもらうよう、「アメ」を与えようとしている。それが、上記のような診療報酬の変更(改定)、というわけだ。
とはいえ、こうした診療報酬改定は、患者の自己負担増を招く。まさに、「医療機関の収入増=国民の負担増」という構図を地で行く話である。
マイナ保険証を普及させたいなら、医療機関のシステム導入だけではだめだ。患者もマイナ保険証を持つインセンティブ(誘因)がないといけない。しかし、患者の負担増は、そうしたインセンティブを削ぐことになる。
思い起こせば、2018年4月に新設されたが後に廃止された「妊婦加算」も、まったく同じ構図だった。妊婦の診療に積極的に取り組む医療機関を増やそうと、妊婦を診察すると、より多く診療報酬が得られるようにしたのが、妊婦加算だった。
しかし、これは妊婦にとっては負担増でしかなかった。この負担増に批判が高まり、2019年1月から加算は凍結され、2020年4月には廃止された。
他のやり方はなかったのか
では、マイナ保険証普及のために、もっと良い方策はなかったのか。
それは、マイナ保険証が使えない医療機関で、初診料や再診料を下げることである。マイナ保険証普及のために、医療機関には「アメ」ではなく、「ムチ」をうつのである。
そうすれば、患者の医療費負担は、むしろ減る。
確かに、患者側には、自己負担がより少ない医療機関を受診しようという動機は生じるが、医療機関側からすれば、マイナ保険証が使えないと収入(診療報酬)が減るとなると、経営に支障をきたすから、マイナ保険証が使えるようオンライン資格確認システムを導入しようとする。
ただでさえ、政府は、オンライン資格確認システムの導入には補助金を出している。これにより、医療機関のシステム導入に伴う費用負担は軽減されており、「アメ」は別途既に用意されている。
残念ながら、こうした方策は採用されなかった。
マイナ保険証を持つと損するばかりではない
このままだと、マイナ保険証を持つと、患者負担が増えて損するばかり、とも思える。しかし、決してそうではない。なぜなら、政府は
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