世界一不思議な師弟関係?2人の冒険の旅は続くのか
【お騒がせ格闘家が迎える20周年記念興行】
格闘技団体『キングダムエルガイツ』の団体創立20周年興行が今日10月6日(日)、東京・下北沢の北沢タウンホールで行われる。
キングダムエルガイツの前身は、かつて桜庭和志や高山善廣らも所属した『キングダム』。団体の活動休止の際、当時練習生だった入江秀忠(50)が団体名を受け継ぎ、エース兼社長として1999年に旗揚げした。
「格闘技界きってのはぐれ者集団」や「Uの最末端団体」などと揶揄されながらも「インディー格闘技団体の火を消すまじ」と活動を続けてきたキングダムエルガイツ。その20年間の歩みは、入江代表の数々の言動と切り離すことはできない。
その言動は、よく言えば「大胆不敵」であり、普通に言えば「突飛」であり、悪く言えば時に「支離滅裂で滅茶苦茶」であり、端的に言えば「奇行」以外の何ものでもなかったりする。
ヒクソン・グレイシー全盛期にはヒクソンに完璧に黙殺されても意に介さず、執拗に対戦を迫ったり、他のメジャー団体に乱入するのは当たり前、勝手にビッグマッチに乗り込み、自身が「超人イリエマン」に改名したことを宣言したり。
今回は20周年記念大会だけに、さらに大胆不敵度が、いや奇行ぶりが増していた。あおり運転で世間を騒がせた宮崎文夫容疑者が自分に似ていると見るや、コスプレでさらに寄せて「そんなに暴れたいならうちのリングで戦えばいい!」とSNSであおってみたり。N国党・立花孝志党首の会見に乱入してみたり。その合間には年末のビッグマッチ『RIZIN』に自身が出場できるよう、粛々と署名活動を行ってみたり。
【あの師匠の唯一尊敬できるところは…】
いくら何でもアポなしが過ぎる。でも、諭そうものならこっちにも火の粉が飛んできそう。そんな心理が働くのか、入江の言動は遠巻きに静観されたり黙殺されたりするのが常なのだ。
そんな中、おそらく唯一の理解者、いや味方と思われるのが入江の一番弟子である加藤惇(あつし・32)かもしれない。ちなみに、加藤は「一番弟子」の肩書きについて、いつも謙遜する。「違うんです。上の人がどんどんやめていくので、結果的に俺しか残ってないだけです」と。
加藤が入江と出会ったのは今から約8年前であり、それは加藤が格闘技を始めた時期とほぼ重なる。友達と遊び半分で、いわゆる“地下格闘技”的なイベントに出場するようになり、そのノリでキングダムエルガイツの門下生になった。
入江の特異な言動は入門してすぐに気づき「頭がぶっ飛んでるな、この人」と思ったが、酒好きという共通点があり、また自分にも弟子たちにも格闘技ジムにありがちなストイックさを求めなかった。酒と自由。二つをこよなく愛する加藤は、他の弟子が「代表にはとてもついていけない」とやめていく中、とどまった。
2014年にはZST(ゼスト)フェザー級王座のベルトも腰に巻いたが、「他のジムに移籍すれば格闘家としてもっと活躍できるのに」という周囲の声も多かった。それでも丸8年、加藤はとどまり、入江の弟子で居続ける。
「たしかに、おかしな人です」と加藤は師匠について、まずそう前置きし、「でも」と続けた。「でも、なんて言うのかな…あの人の行動力って半端ないんです。それはもう怖いくらいです。だから、あの人といると、自分まで違う世界に行ける気がするっていうか。違う景色が見れるっていうのか」
現在、加藤は横須賀のどぶ板ストリートで3軒のバーのマネジメントを任され、毎日、毎晩忙しい。練習をしないで試合に出ることには抵抗があり、この1年半、リングから遠ざかっていた。
「ただ、今回は団体の20周年だし、だったら少しでも盛り上げられたらなって。あの人が暴走したら止められるのは俺ぐらいですしね」
「おい加藤、最後は一緒に引退しようぜ」
最近になってそう持ちかけられるようになったが、50歳を過ぎても師匠がやめる気配はない。酒と自由。そして冒険。不思議な師匠と不器用な弟子の旅はもう少し続きそうだ。
【―キングダムエルガイツ生誕20周年記念大会―
~FOREVER OF KINGDOM~ 】
日時:10月6日(日) 開場14:30 開始予定15:30
*オープニングバウトは15:00 開始予定
会場:東京・北沢タウンホール