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平幕・逸ノ城が新入幕47場所目で初優勝 衝撃の結末に館内揺れた名古屋 だから相撲はやめられない

飯塚さきスポーツライター
初優勝を飾り、優勝インタビューで笑顔を見せる逸ノ城(写真:日刊スポーツ/アフロ)

逸ノ城は初賜杯に笑顔も! 温かな雰囲気の表彰式

コロナでの激震を受け、荒れに荒れた名古屋場所。優勝争いは3敗の横綱・照ノ富士と逸ノ城、そして4敗で追う大関・貴景勝の3人に絞られた。

逸ノ城は、勝ち越しのかかる宇良との一番。しかし今日の逸ノ城は堂々としていた。立ち合いは左から張り、すぐに上手を取って捕まえた。じわりじわりと十分な形に持っていくと、引きつけながら寄り、そのまま力強く寄って倒した。見事な12勝目。勝って優勝に望みをつなぐ。一方、この時点で貴景勝の優勝の可能性はなくなった。

そして迎えた結び。照ノ富士が勝てば逸ノ城との優勝決定戦という一番だった。

立ち合い。貴景勝が強く当たり、右に動く。照ノ富士は相手を捕まえられない。貴景勝が低く頭から何度もぶつかり、横綱の体が徐々に土俵際に下がっていく。体を左にかわした瞬間、横綱の左足が土俵を割った。貴景勝が最後に大関の意地を見せたと同時に、逸ノ城の初優勝が決定。衝撃の結末に館内が揺れた。

土俵上ではいつもポーカーフェイスな逸ノ城。しかし、花道では笑顔も。優勝インタビューでは「前、13番、14番勝っても優勝できなかったので、優勝できてうれしかったです」と語る。少したどたどしさの残るインタビューは、終始温かい空気に包まれていた。

初優勝を飾った逸ノ城(左)は新型コロナウイルス感染者が出たため休場となった八角理事長の代理を務めた陸奥事業部長から賜杯贈呈を受ける(写真:日刊スポーツ/アフロ)
初優勝を飾った逸ノ城(左)は新型コロナウイルス感染者が出たため休場となった八角理事長の代理を務めた陸奥事業部長から賜杯贈呈を受ける(写真:日刊スポーツ/アフロ)

結末は、場所前おそらく誰も予想しなかったものとなった。しかし、誰かの「初優勝」に立ち会えるときは、やはり何にも代えがたい温かい気持ちにさせられるものだ。新入幕から実に47場所目、29歳での初優勝。これを自信に、おそらく三役に返り咲くであろう来場所以降も、存分に暴れてほしい。また逸ノ城の優しい笑顔が見られますように。

名古屋場所を盛り上げた力士たち

最後まで優勝を争った3人以外にも、今場所を彩った幕内力士たちがいる。活躍を振り返ろう。

まずは、なんといっても照ノ富士を撃破し、優勝争いをかき回した大関・正代。序盤を1勝4敗でスタートしたとは思えない挽回っぷりで、カド番を脱出した。地力のある力士だけに、次からは自身が優勝争いを演じる活躍を期待したい。

平幕で見事二桁勝利を挙げたのは、翠富士・錦富士・阿武咲。特に、錦富士は新入幕での二桁勝利、さらにいきなりの敢闘賞受賞と、大活躍の場所であった。さらに、負け越してはしまったものの、若元春の大健闘は賞賛に値するものであっただろう。「まわし待った」の横綱戦や、取り直しになった霧馬山との一戦は、たしかに結果は不運であったものの、その実力を見せつけるには十分な取組だった。これからも“魅せる”若元春らしい相撲を期待している。

また、コロナの影響による途中休場とはなってしまったものの、翔猿、琴ノ若、錦木、一山本といった好成績だった面々にも拍手を送りたい。不可抗力による途中休場は非常に無念だったであろう。やり場のない悔しさを、ぜひ来場所の土俵にぶつけてほしい。

コロナの打撃を受け、不安に包まれるなかでの開催だった名古屋場所だが、なんとか千秋楽まで走り切った。悔しい思いをした力士も、最後まで土俵に立ち続けた力士も、いまはまずゆっくり休んでほしい。健康第一で過ごしてもらい、また来場所白熱の相撲を多く見せてくれることを願ってやまない。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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