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「アークス浦安パーク」に行ってみた。企業スポーツの意義を見直す?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
人工芝だが硬すぎず、スクラム組みやすいとのこと(著者撮影)

 日本最高峰のラグビートップリーグに加盟するNTTコミュニケーションズシャイニングアークスが、4月24日、千葉県浦安市にできた新たな練習施設の見学会をおこなった。

 名付けて「アークス浦安パーク」。スーツ姿の選手が手分けしてメディアを誘導し、2面ある天然芝のグラウンドや3階建てのクラブハウスの各部屋を紹介する。

沼尻大輝選手が報道陣にロッカールームを紹介
沼尻大輝選手が報道陣にロッカールームを紹介

 チームはもともと市川市の施設を利用していたが、グラウンドが規定より狭いなど改善が急務とされていた。2010年にトップリーグへ初昇格し、ニュージーランド出身のロブ・ペニーヘッドコーチの就任した2014年から一昨季にかけ8、8、5位と成績を上げていた(2017年度は9位)。

 さらなるチーム強化を促したい内山浩文ゼネラルマネージャー(GM)は、「これまでスポーツチームはコストセンターと見られていましたが、プロフィットセンターになるように」とも話す。要は「費用がかかる組織」から「利益を生み出す組織」への転換を図る。企業がスポーツクラブを保有する意義も見直そうとしている。

言い訳のできない設備

 屋上を含めて3階建てのクラブハウスには、定番のウェイトトレーニングルームや食堂などに加えて全選手が対面できる広々としたロッカールームもある。ロッカーが複数列をなす従来の部屋よりも、仲間との会話やストレッチがしやすそうだ。

 身体のケアをするトリートメントルームも、以前より広くなった。「スポーツとICT(情報・通信技術)」の観点から開発されたハイテクウエアで選手の心拍数などを管理でき、けが人の予防にも力を注いでいる。グラウンド直結のフィジオルームにはスイッチひとつで水流ができる温水バスもある。

自慢の温水プール(著者撮影)
自慢の温水プール(著者撮影)

 クッション性抜群の天然芝グラウンドには、国際規格をクリアした高さ17メートルのゴールポストが立つ。照明はLEDで明るいが、高層マンションの建つ周囲への光漏れは最低限に抑えられているという。

 2面あるグラウンドのうちクラブハウス側の1面には、大型ビジョンもついている。各所についたリモートカメラが練習の様子を撮影していて、その様子はマネジメントルームで逐一チェックできる。攻守のフォーメーションの完成度や各選手の仕事量は一目瞭然だ。記者団を案内する選手は「さぼれないようになった」と笑う。

 説明会を前に、内山GMはつぶやいたものだ。「プレッシャーだなぁ。これで結果が出なかったら…」。計画段階で選手たちが出した意見や希望も新施設には反映されている。言い訳はできない。金正奎キャプテンの意見は振るっていた。

「選手に勘違いして欲しくないのは、「この環境があれば強くなるというわけではないということです。僕らが強くなったことで、(周りから認められて)この環境ができた(という側面もある)。これは、選手に言っていきたいと思います」

どうしてラグビー部を持つの? を考える

 国内最高クラスの豪華施設は、強化以外の側面でも活躍しそうだ。チームは今後、この施設を各種イベントの開催などで一般市民に開放する。芝の状態を見て交互に使用されるという2つのグラウンドの隣には、体験会などでの使用を想定した半面程度のスペースがある。地域密着という領域にも、本格的に踏み込む。

 ここでは、選手たちがパーソナルトレーナーを務めるトレーニング体験会などもおこないそうだ。選手の引退後のデュアルキャリアを見据え、プレー以外のキャリアの幅を広げたいとする。内山GMはこうだ。

「アスリートのスキルやノウハウを市民の方に還元する。元気で健康な街づくりに着手したいな、と思っています」

 代表強化を促す観点からプロ選手増加の必要性が叫ばれているが、日本唯一のプロクラブであるサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦)の入場者数は1万人を割っているのが現状だ。2019年以降にトップリーグから移行されるトップリーグネクストにおいても、ここまでの日本ラグビー界を支えてきた企業チームにかかる期待は大きいだろう。

 一方でワールドカップが日本である2019年以降は、各企業がラグビー部を持つ大義が薄れるという危惧が横たわる。先行きが不安な楕円球界にあって、NTTコムは新しい生き様を提示した格好だ。

 地域住民との接点を作れる、元ラグビー選手というはつらつとした人材を育成し、社会に提出できるなど、内山GMの言う「プロフィットセンター」化への入り口を作ったのだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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