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まさかのトランプ大統領誕生!読者の皆さんに予測外れの謝罪をいたします。本当にごめんなさい。

山田順作家、ジャーナリスト
NYエンパイアステートビルにライトアップされた選挙速報

11月2日付のこの欄のコラム記事で、私は「トランプが当選できないこれだけの理由」と題して、「トランプの当選は100パーセントない。アメリカ大統領選挙史上、記録的大敗を喫するのではないかと思う」と書きました。結果は、まったくの逆。ヒラリーが記録的大敗を喫して敗けました。

いま、自分の不明を恥じています。本当に申し訳ありませんでした。

以下、愚痴と言い訳になりますが、今回のトランプ当選について、率直に述べさせてください。まず、いまだにこの結果が信じられません。

今年の半ばまで、私はトランプが勝つかもしれない、そうしたら面白いだろうなと野次馬的に思っていました。しかし、先月、アメリカに滞在しているうちに、やはりトランプは、ただの無知で無教養、暴言だけの頑固オヤジに過ぎないと思うようになって、考えを変えました。

彼がいくら白人の貧困層・中間層の不満を代弁しているといっても、それだけで当選していいものかと思ったからです。

テレビ討論でのトランプは、子供じみていて、ヒラリーの話にチャチャを入れ、最後の回では、「ナスティウーマン」(けったいな女だな!)と口走ったので、これはダメだと思いました。このような印象で、予想してはいけないのでしょうが、実際のところ、アメリカのメディアはほぼすべてヒラリー支持でした。

記録のために、以下その主なものをまとめてみます。

まず、CNN、ABC、NBCなどの主要テレビ局。とくにCNNは「クリントン・ニューズ・ネットワーク」と揶揄されたようにヒラリー徹底支持でした。だから、速報のときもペンシルベニアでのヒラリーの敗退を最後まで引き伸ばし、スタジオにいる全員が目の前の結果に明らかにショックを受けていました。

NYタイムズ、ワシントンポスト、WSJ、USAトゥデイなどの主要新聞もすべてヒラリー支持。とくにLAタイムズは、ヒラリーが選挙人352名を獲得し、トランプはたった186名しか取れないと書いていました。

これまでの大統領選をみな当ててきたという調査機関「ファイブ・サーティー・エイト」は、77%から99%の確率でヒラリーの勝利。経済調査機関の「ムーディーズ・アナリティックス」にいたっては、ヒラリーが332名の選挙人を獲得するだろうと予測していました。

いま思うと、これらの予測はなにを根拠にしているのかよくわからず、実際のところ競馬新聞よりひどいと言うしかありません。

しかし、リベラルメディアはプライドが高いので、自分たちが外したことを正当化します。「隠れトランプ支持者が予想外に多かった」とか、「白人の貧困層・中間層の不満が予想以上だった」などです。たしかにその通りでしょう。

しかし、確実に言えるのは、誰もトランプが大統領にふさわしいと思って投票してはおらず、単に現状からのチェンジを望んでトランプに入れたということです。

ところが、トランプは、これを自分の人気と勘違いしそうなので、非常にまずいなと思います。なにより、彼にはビジョンや思想、信条、方針がないので、勘違いしたらなにをやるかわかりません。

ただ、ハナからの金持ちですから、庶民のための政治などしないでしょう。公約だから、減税などのバラマキはしそうですが、それは回り回って庶民の首をしめます。反グローバリズムで保護主義、あなたたちが貧しいのは中国、日本のせい、移民のせいという嘘も、庶民の首をしめます。

アメリカ国民は、まんまと騙されたとしか思えません。それでも、「クリントン・キャッシュ」でカネの亡者、嘘つきというイメージのヒラリーよりマシというなら仕方ないのですが----。

こんなおバカな大統領がホワイトハウスに入ると思うと、アメリカは大丈夫なのかと思います。もっとおバカなメラニアが彼と一緒にホワイトハウスに入り、ファーストレディとして振る舞うことを想像すると、気分が滅入ります。移民・難民を排除すると言っているのに、自分の妻は移民なのです。

トランプは米軍の最高司令官になります。彼のために、血を流してもいいという若者がどれほどいるでしょうか?ワシントンの官僚たちは、彼の命令を聞くでしょうか?

トランプ大統領の誕生で、アメリカという世界覇権国に対する信頼は失われたのではないでしょうか。今後、ロシアも中国も、彼をバカにしてかかるでしょう。とくにプーチンは。

私もまた、アメリカ観が大きく変わってしまいました。失望しました。若い頃から、アメリカに憧れて、アメリカを体験し、そのうえで、政治、社会、歴史などを研究してきましたが、それがいま虚しく思えてきました。

ウェズリーの女学生たちが、ヒラリーの敗戦を聞いて泣き崩れていました。「信じられない」「これから先が不安です」と言う様子が、テレビに映しだされていました。まさにその通り。この先、なにが起こるかわかりません。

ウェズリーをサムカムローディで卒業してファーストレディになったヒラリーですら、ガラスの天井を突き破れなかった失望は大きすぎると思います。

史上最年長で大統領になるトランプを、アメリカの若者たちは支持しませんでした。当然です。勉学に励み、いい大学に行き、そして社会に出て、アメリカ社会になんらかの貢献をすることで、おカネと名誉と喜びを手に入れる。努力すれば、夢は必ず叶う。そうした「アメリカン・ドリーム」を、トランプは破壊するとしか思えないからです。

トランプ当選で、ニューヨークはお通夜状態になりました。エンパイアスエテートビルには、ライトアップで選挙速報が映し出されていましたが、静かに消えていきました。トランプが素晴らしい大統領なる。そんなことがあるのでしょうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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