今月から法律で“障害者差別”が禁止されましたが・・・あなたは対応できる?
■障害者差別解消法の施行
先々週の4月1日から「女性活躍推進法」と同じく「障害者差別解消法」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が施行されました。
たとえば、この法律の中で「合理的配慮」という表現があるのですが、企業として1人のビジネスパーソンとして、どのように対応をすればよいか理解していますでしょうか。多くの人は、この法律施行さえ知らないだろうし、当事者の方も「結局社会は私たちに何をしてくれるの?」みたいな部分もあると思います。
本稿では私の専門であるCSR(企業の社会的責任)をふまえ、「障害者差別解消法」の企業対応の具体的内容と解説、参考資料の紹介、あわせて障害者に関する課題についてまとめます。
2013年6月制定、2016年4月施行となった「障害者差別解消法」。民間企業などは“努力義務”となっていますが、対応や違反が慢性的にある場合は行政指導や罰金が課せられる可能性がありますので、注意が必要です。
この法律では、「不当な差別的取扱い」として、例えば、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為を禁止しています。また、障害のある方などから何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮を行うことが求められます。この“合理的な配慮”が前述した「合理的配慮」を意味します。
ちなみに、私が「障がい者」ではなく「障害者」という単語を使っている理由については後述します。
■障害者の現状
まずは、日本の障害者を現状を確認しましょう。
内閣府「平成27年版 障害者白書」(2015)によれば、障害者の全体的状況として、身体障害・知的障害・精神障害合わせて787.9万人としています。複数の障害を併せ持つ方もいるため単純な合計にはならないものの、国民のおよそ6%が何らかの障害を有していることになる、ともしています。性的マイノリティのLGBTは7.6%(電通ダイバーシティラボ・LGBT調査2015)と言われていますし、左利き、AB型の人が日本人に占める割合とほぼ同じとも言われています。
感覚としては、左利きの人はよく見かけるのに、障害者の方を見かける割合は…どう考えてもそこまでの頻度はない。LGBTの方もそう。もちろん、外見ではわからないハンディなどを持っている方もいるとは思いますが、統計データがまったく実感が湧かない…。
企業の障害者雇用に関する話題は「事例から学ぶ、障害者雇用とダイバーシティマネジメント論」
、「障害者雇用はCSRなのかー10年連続・過去最高伸び率の先にあるもの」という記事でまとめていますのでご興味がある方はどうぞ。
■障害者差別解消法 Q&A
Q、「合理的配慮」とは何ですか。具体的な例を教えてください。
A、合理的配慮とは、障害のある方が日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、障害のある方に対し、個別の状況に応じて行われる配慮をいいます。典型的な例としては、車いすの方が乗り物に乗る時に手助けをすることや、窓口で障害のある方の障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談、読み上げなど)で対応することなどが挙げられます。
Q、民間事業者による取組がきちんと行われるようにする仕組みはあるのでしょうか。
A、民間事業者の取組が適切に行われるようにするための仕組みとして、この法律では、同一の民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者の事業を担当する大臣が、民間事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導、勧告を行うといった行政措置を行うことができることにしています。
Q、企業などがこの法律に違反した場合、罰則が課せられるのでしょうか。
A、この法律では、民間事業者などによる違反があった場合に、直ちに罰則を課すこととはしていません。ただし、同一の民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者が行う事業を担当している大臣が、民間事業者に対して報告を求めることができることにしており、この求めに対して、虚偽の報告をしたり、報告を怠ったりしたような場合には、罰則(20万円以下の過料)の対象になります。
引用:内閣府|障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>
ちなみに「厚生労働省における障害を理由とする差別の解消の推進」では、福祉・医療・衛生・社会保険労務士の各事業者向けガイドラインを発表していますので、該当企業担当者の方は必ずチェックしましょう。
■障害者とのギャップと課題
○当事者の視点
・障害者差別解消法の施行によって、障害者は配慮される側だけではなく、配慮する側にもなる
当事者視点の説明も非常に勉強になります。ぜひ一読してください。この法律こそ超・実践的なダイバーシティ推進だし、障害者の方への差別や不条理が1つでも社会からなくなることを願います。いや、願ってただけではだめですね。「合理的配慮」を個人としても実践しなければ。
○障害者という表記
物理的な差別以外にも、表現などの差別もあります。NPOや中間支援団体では「障がい者」という表記を見るようになりましたが、僕は官公庁が「障害者」という表記なのでこちらを使っています。サンプルは少ないですが、僕が当事者にヒアリングした所「どっちでもいい。字面ではなく実生活での配慮を。」みたいなことでした。
『「障害」の表記に関する検討結果について』(内閣府、2010、PDF)では、「障害」、「障碍」、「障がい」、「チャレンジド」などの表現があるとしてますが、どの表現も賛否両論あるようで、何とも言えませんな。企業はCSR報告書などで注釈つけて、なぜ私たちはこの漢字を使うのか、という解説があると親切ですね。できるかどうか知りませんが。
表記が差別的なものか、当事者や支援側によって感じ方・考え方は様々であるということだけはわかりました。
■まとめ
障害者を差別しない。頭でわかっていてもいざ仕事の場面で障害者の方に対峙した時どのように対応すればいいのか。
いくつかの事例や資料を紹介してきましたが、「障害者差別解消法」の施行によって、また、2020年の東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツなどを含めて、多くの人が障害者の存在を身近に感じたり考えさせられたりする場面が多くなるのかもしれません。
日本にいる障害者数は約790万人。マイノリティではなく、人口比でも結構います。私生活で出会う確率が低いと感じていたら、それは“見えていない”だけで、その存在を知らないだけです。
法律だから障害者対応をするぜ、みたいな恩着せがましい態度ではなく、いつ自分がそちら側の人間になっても良いように、一人ひとりがイキイキと過ごせる社会を作っていきましょう。
あなたは、もしくは、あなたの会社は、障害者への「合理的配慮」はありますか?
内閣府 参考資料