2024年のESG/サステナビリティの5大トレンド
■2024年のESG/サステナビリティ・トレンド
2022〜2023年で、多くのビジネスパーソンが「SDGs(持続可能な開発目標)」「ESG(環境・社会・企業統治)」「サステナビリティ(持続可能性)」というワード見聞きしてきたかと思います。SDGsは2021年末に新語・流行語大賞にノミネートされるくらいには話題となりました。結論としては、2024年も多くのメディアでこれらのワードが取り上げられると思います、という話です。
ではあなたがビジネスパーソンの一人として、どこまでこれらのビジネス・トレンドを把握すべきかということですが、社会の流れの一つとして頭の片隅に置く程度で良いかと思います。本記事は、詳しく知らなくてもこういう動きがあることは知ってもらいたい、という趣旨でまとめています。
各項目に対する詳しい情報については、信頼できる機関等が発表する情報をリンクしていますので、興味があればチェックしてみてください。やや専門的な情報もありますが、特に上場企業や大手非上場企業のIR・広報・経営企画・購買/調達・リスク管理、などの部門の方は必見です。
■1.欧州のサステナビリティ開示規制が本格スタート
2023年に欧州でサステナビリティ情報開示ガイドラインとなるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)およびESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の開示規則策定が進みました。2024年1月以降、徐々にサステナビリティ開示義務対象企業が広がっていきます。また欧州では、CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス司令)も議論が進んでいます。
問題は日本企業がどうなるかです。CSRDは世界で約5万社が対象になるとされ、日本企業は将来的に800社程度が対象になるとも言われています。そしてEU規則は法定開示のため、厳密で広範囲なサステナビリティ情報開示が求められることとなり、対象企業は情報収集と開示準備が必要になります。具体的にはリソースの確保(予算・人員の確保)なのですが、社内の理解を得るという壁の突破がまず必要です。
■2.生物多様性推進の本命「TNFD」が発表
2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発表されました。従来から生物多様性対応(環境保全活動等)をしてきた企業の一部はすでに開示対応をし始めています。2024年内に公式日本語版が発表されれば一気に普及し、製造業を中心に2025年版のサステナビリティ情報開示から本格対応が始まるでしょう。
国内の動きも活発です。2023年3月には「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定され、4月には環境省より「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて」 が発行、国家戦略および実務の枠組みも確立しています。グローバルでの「SBTs for Nature」「ネイチャー・ポジティブ・イニシアティブ」等のイニシアティブから、国内の「30 by 30」「自然共生サイト」などの枠組みも本格化し、2024年以降は生物多様性全般の対応と開示がさらに求められます。
■3.ISSBがいよいよスタート
2024年1月からIFRSによるサステナビリティ開示基準策定組織であるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の「IFRS S1」「IFRS S2」が適用されます。まだ公式日本語版が発表されておらず、またSSBJ(国内サステナビリティ基準委員会)による国内の枠組みづくりがなされていないため、2024年はもっぱら他社動向を見ながら、2025年発表分のサステナビリティ情報開示の見据えた活動が求められます。現在発表されている情報から考えると、2024年度中(2025年3月末)までに日本基準の公表され、開示実務は2026年からになるようです。世界でもISSBをベースとするサステナビリティ関連情報の開示義務化の動きがあり、シンガポール、イギリス、ブラジル、台湾などが対応確定となっており、今後も対応する国が増えるでしょう。
→SSBJ|現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画
■4.AIによる企業評価が本格化する
2023年3月にOpenAI社の対話型AI「GPT-4」が登場し、一般ユーザーでも高品質なAIの利用が可能になりました。従来からAIツールはさまざまな企業から発表されていましたが、その精度や一般でも使える仕組みが限られており、誰でも使えるという点でも大きな話題となりました。当然、この一年でESG分野でも研究者からアナリストまで日常的にAIを使うようになり、すでに機関投資家も統合報告書やサステナビリティレポート、サステナビリティサイトなどの情報整理や評価にAIを活用しており、2024年にはますます多くのESG評価の場面でAIを活用することになるでしょう。
企業ができることは、ESG情報開示の想定読者を投資家・評価機関・専門家だけではなくAIも含めることです。人間とAIでは情報の取得方法が全く異なります。AIを意識した開示を企業はどこまで対応できるかがポイントです。対応としては、図解を作り込みすぎない、重要な情報は図解だけではなくテキストでも補足する、一つの文章を簡潔に短くする、レポートのPDFにはロックをかけない、独自表現(言い回し・フォントなど)は避ける、などがあります。企業のAI対策は2024年以降のホットトピックスであることは間違いありません。
■5. 人権対応が死活問題に
政府は2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。また2023年4月には、政府は「ビジネスと人権」に関する関係省庁会議を開き、公共事業や物品などの政府調達に当たり、入札企業に対して人権侵害に配慮するように求める方針を決めました。日本でも人権対応が営業的側面からみても重要な要素となり、欧米と比べて「ビジネスと人権」分野の規制で後れを取ってきた日本でも制度整備への機運が高まっています。
大手エンタメ企業の代表が性加害を行ったとされる問題は、日本企業に大きな課題を投げかけました。当該企業のガバナンスに問題があったのは当然として、当該企業のタレントを広告に起用していた企業の対応に注目が集まりました。ビジネスと人権の原則で言えば、発注主としての権利を行使し、すぐに契約破棄するのではなくガバナンスの強化を求め、また被害者救済をすることがセオリーとされます。しかし、現実問題として政府対応ならまだしも、発注側企業がコストとリスクを今まで以上に抱え当該企業の改善をしなければならないのは困難であり、即時の契約破棄する企業が多くを占めました。
タレントを使う発注企業側(広告会社含む)の調達における人権DDが足りなかったのは問題ですが、実務としてどこまで関与すべきなのかという点では、今回の課題は非常に大きな問題提起となっており、今一度企業は事業活動における人権対応を見直す必要があるでしょう。
→経済産業省|ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~
専門的な表現もあったかと思いますが、企業のサステナビリティ推進担当者でなくとも把握しておきたいトレンドですので、覚えていただいて損はないと思います。2024年もがんばりましょう。