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タイガーウッズは飲酒運転をしたのか:誤った情報の持続的効果

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真:ロイター/アフロ)

その真偽に関わらず、いったん流れた情報の効果は長く続く。ひとたび作られたマイナスイメージは持続しやすい。

■タイガーウッズ、飲酒運転で逮捕!?

ゴルフ選手のタイガーウッズ氏が、飲酒運転容疑で逮捕されたと報道されました。朝のニュースワイドショーでも大きく取り上げられました。詳しく見ると「飲酒か薬物使用で運転の疑い」ということですが、「飲酒運転」の方がわかりやすく、話題になっているようです。また「薬物またはアルコール検査で陽性反応が出たのかどうかは不明」とも報道されていますが、世間はこちらの情報にはあまり反応しません。

「薬物使用」というのも、印象としては麻薬など違法薬物を思い浮かべる人がほとんどでしょう。

「逮捕」ということばも、インパクトがあります。手錠をかけられ、牢屋に放り込まれるイメージです。実際は、「一時的に勾留された。数時間後には保釈金なしで釈放」ですから、「逮捕」の最初のイメージとは違うのかもしれませんが。

普通に考えれば「落ち目のタイガーウッズ」です。今度は、酒(クスリ)で逮捕か!と考えるのも無理はないでしょう。

人気実力共に絶頂で、善人キャラで活躍していたときに同じことが起きていたら、報道姿勢も違っていたでしょうが、落ち目の人がさらに悪いことをすれば、叩かれるのは普通のことでしょう。

■酒は飲んでいなかった?

ところが、この事件に関する第二報で、タイガーウッズ自身の声明が入ってきました。

「みんなに知ってほしい。アルコールは無関係だ。処方された薬の予期せぬリアクションが出た。複数の薬による反応がこれほど大きく出るとは思っていなかった」

出典:逮捕、釈放されたタイガー・ウッズが声明。「薬の予期せぬ反応だった」 Y!ニュース個人:舩越園子

■真実は?

真実は今のところわかりません。

■第一報と第二報

まだ容疑段階とはいえ、世界的有名人の逮捕は大きなニュースバリューがあります。タイガーウッズをののしるにせよ、同情的に見るにせよ、悪いことをした前提でコメントが述べられます。

報道を見た私達も、同様に感じて、友人とおしゃべりしたり、SNSに書き込んだりします。私達の頭の中には、落ち目になったタイガーウッズの生活が乱れ、自暴自棄になり、飲酒運転をしたといったストーリーが作られます。

しかし、第一報はしばしば間違いがあります。第二報では、本人が明確に否定していると伝えられます。

「アルコールは無関係だ」。人は、はっきりとワンセンテンスで言い切るような話し方をされると、それは真実だと感じます(あなたのウソがばれるとき:人はどのように嘘を見抜くのか:Y!ニュース個人有料)

そうすると、とたんに「タイガーウッズが飲酒運転」がウソのように感じられます。

■報道が私達に与える影響

繰り返しますが、真実は不明です。ただ、もしも「タイガーウッズが飲酒運転」が誤りで、「アルコールは無関係」が真実だと世界中に報道されれば、第一報がもたらした悪影響はきれいになくなるでしょうか。

心理学の研究によれば、ことはそう簡単ではありません。

悪いニュースが流されるときには、一緒に別の悪い情報も流されます。タイガーウッズには十数名の愛人がいたといった話題は最近はあまりききませんでしたが、今回再び話題にされています。

誰かが逮捕などされれば、関係者が「前から怪しいと思っていた」とか「こんな悪いこともしていた」などと話しはじめます。あまり人には知られたくないプライバシーも暴かれます。

それだけではありません。いったん私達が持ってしまった悪いイメージは、あとからその情報が誤まりだとわかっても、簡単には変わらないのです。

たとえば「飲酒運転で逮捕」と聞いて、その人はなんて悪い人だと思います。その人の悪い部分を色々考えます。悪い人だと結論付けます。ところがそのあとで、最初の情報自体が誤まりだとわかると、もうすでに思い込んでいる「悪い人」というイメージと情報とが食い違うことになります。

これを社会心理学では「認知的不協和」と呼んでいます。

本来なら、最初の情報は誤まりであり、私が心に描いたことも全部誤りだと考えるべきなのでしょうが、それはなかなか心理的に大変なことです。そこで人は、「仮に最初の報道が間違っていたとしても、あの人はやっぱり悪い人だ」と思ってしまったり、情報は誤まりということを信じなかったりもするのです。

たとえ誤った情報であっても、いったん作られたイメージは、持続します。それは、事件報道でも、芸能ニュースでも、政治ニュースでも同じです。

その真偽に関わらず、マスコミ報道や、ネットに広がる噂話でさえ、私達の心に長く残る影響を与えてしまうのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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