阪神タイガース2年目・戸井零士は長打力を武器に、初の1軍出場を目指す
■約9キロの増量
「長打を増やす」―。
2022年ドラフト5位で天理高校から入団し、プロ2年目を迎えるにあたって阪神タイガース・戸井零士選手は自身のアピールポイントを熟考した。そして導き出した答えが「長打」だった。チームの内野手を見渡したとき、それが自身の一番の“ウリ”だと思い至ったのだ。
「今のタイガースで出ようと思ったら、自分は足も速くないので、バッティングの長打力かなって」。
長打力を伸ばすことを己に課した。
そこで昨年11月から体重の増量作戦を開始した。まず、1日の食事量を増やした。寮で出る3食に加えて、補食にと自らおにぎりを握った。
「とくに何も入れてない塩むすびです。あと餅とかも食べて、1日5食にしました」。
12月に入ると本格的にウエイトトレーニングに取り組み、徐々に増やして一時は87キロまでいったが、2キロ落ちて85キロに落ち着いた。昨年のシーズン中、76~7キロまで減少したことを思えば、最大差11キロの増量だ。
しかも「ウエイトだけやったらちょっと動きにくくなるので、動作のトレーニングもやって」と、動ける体での増量である。
その効果は「大きくなった分、構えが安定するし、バットにボールが当たったときに強くなってるなっていうのは感じます」と、実感している。
■山本由伸投手から“プロの洗礼”を浴びた
何もかも初めてだったルーキーイヤーの昨季。「正直、自分のプレーというか、自分の素を全然出していなかった」と振り返る。いや、「出していなかった」というより「出せなかった」というほうが、正しいかもしれない。
「環境が変わって、けっこう慣れるのが遅いタイプなんで…。体重が落ちたっていうのは、体力的にもしんどかった」。
周りは大人ばかりの中、無意識に気を遣うなど、気疲れも相当あっただろう。当たるピッチャーも、変化球のキレなど高校時代とは全然違った。
残した数字は69試合で139打席20安打(二塁打5、本塁打2)、打率.144、長打率.161と振るわなかった。
中でも元オリックス・バファローズの山本由伸投手(ロサンゼルス・ドジャース)との対戦はもっとも印象深い。WBC帰りの3月、山本投手は調整のためにウエスタン・リーグで登板したのだ。
「1打席目はまっすぐ。球は見えてたんですけど、キレがえぐいなと思って。結果はサードゴロかな。でも納得いく打席やったんで、2打席目はいったろうと思ったら、フォークを投げられて、あぁもう無理やと思って(笑)。振ったら、『あ、フォークやったんや』みたいな(笑)」。
いわゆる“プロの洗礼”ってやつか。その相手が山本投手だったことは、戸井選手にとっても思い出に深く刻まれた。
■思いどおりのプレーで、オリジナルのスタイルを作り上げる
2年目の今年は「自分が思ったようにプレーする」と誓い、そのためにバッティングも守備も「こういう動きが自分に合っている」と、ややフォームやスタイルを変えたという。
「バッティングでは右脇を開けて構えています。パワーポジションっていうか、自分が一番力が入るので、ここからスイングをする。守備では、これまでベタ足だったのを弾むようにってステップを変えています。自分、背が高くて体も大きいんで、弾んだほうが見栄えもよくなるし躍動感も出る。巨人の坂本勇人さんって独特じゃないですか。あんな感じのステップをちょっと練習しています」。
といっても、坂本選手をそっくりマネするつもりではない。あくまでも「自分のオリジナルを作っていきたい」と、試行錯誤しながら“戸井零士スタイル”を作り上げていく。
■長打の割合が増えた
キャンプ中の練習試合、教育リーグと、「ヒットの中でも長打が増えた」と、昨年の自身との違いを実感している。「オフにやってきた狙いが、しっかりできたかなっていうのはあるので、よかった」とニンマリ。
まず1軍選手と合同の紅白戦では、桐敷拓馬投手から左中間に二塁打を放ってアピールに成功。練習試合4戦で13打数3安打、打率は.231ながら2ベースを3本記録して長打率は.462。
さらに教育リーグではここまで5試合で23打数7安打、二塁打と三塁打が1本ずつ。打率.304、長打率.435と成果を見せている。(3月12日現在)
*追記
この記事が出た直後の福岡ソフトバンクホークス戦で5打数4安打(1二塁打、1本塁打)と大当たりし、3月13日現在で打率.393、長打率.643と爆上げした。
■自分の体を知り、対処する
もう一つ、昨年とは違うところがある。キャンプ中盤、疲れが出てきたときだ。
「ちょっと(状態が)落ちそうな感じがあったけど、そこでしっかりまた上げていけた。自分は疲れると胸郭のあたりが硬くなるので、そこをしっかり柔軟性を出していけた。オフに体の使い方のトレーニングを行ったのが、活きてきた」。
自分の体をきちんと理解し、その上で乗りきる術も身につけている。昨年のように疲労から体重が落ち、また体重の減少でパフォーマンスが落ちるということもなくなった。
■負けたくない
今年、同じ内野手の後輩が2人(ドラフト3位・山田脩也、同4位・百﨑蒼生)入団してきた。「負けたくないっていうのはあるっす。負けなくない」と素直に気持ちを吐露する。
だが、自分は自分。人のことを気にするより、自分のやるべきことをやるだけだと表情を引き締める。
「まずはファームで結果を出さないと1軍には呼ばれない。結果を残して声がかかるように、しっかり打っていきたい」。
出し惜しみはしない。戸井零士は「自分」を全開にし、フルスロットルでシーズンを駆け抜ける。
(撮影はすべて筆者)