映画「タイトル、拒絶」の写真を手掛けたのも彼女!初主演映画では、抱かれたいのに抱かれないヒロインに
本作が劇場デビュー作となる新鋭、葉名恒星監督が、自身の実体験をもとに、ある男女の愛とセックスの在り様を描いた「愛うつつ」。
人材会社で働く社会人の新田純と、大学生の白石結衣は、付き合いはじめて7カ月になるがいまだに体の関係をもっていない。
ある事情から「心から愛しているからゆえに結衣を抱けない」純と、「抱かれないことから純の愛情を感じられず、自身の性的魅力も否定された気がする」結衣。
そんな二人が求める愛の形と、想いが交錯した結果の愛の果てが描かれる。
先日は、「心から愛しているからゆえに結衣を抱けない」純を演じた「佐々木、イン、マイマイン」の佐々木役が大反響を呼んだ細川岳のインタビューを届けた。
それに続き、相手役であるヒロインの結衣を演じたnagohoのインタビューを2回に分けてお届けする。
ユニークな道をたどるこれまでのキャリア
「愛うつつ」の話に入る前に、まず彼女の経歴から入りたい。というのも、彼女は写真家として活躍。同時に自ら劇団を立ち上げ、舞台俳優としてキャリアを重ね、現在は、NOSE art garageにてキュレーションをしながら、ひとりのアーティストとして活動している。
そして、「愛うつつ」の出演はあまり演者としてのキャリアのないころだったという。
「もともと、写真家が本業で。去年の末ぐらいまで、だいたい6年ぐらい写真家として仕事をしていました。
簡単に説明すると、はじめは会社に所属して写真家として活動していて、3年ぐらいしたときに独立して、写真を撮りながら、自分の劇団『ヤマアラシ』を立ち上げました。
劇団を立ち上げたのは、急に思い立ってのこと。高校時代に演劇を少しかじっていて、ずっとやりたい気持ちはありました。
ただ、なかなか踏み出せないでいたんですけど、務めていた会社がほんとうに忙しくて、もうこのままやってられないと(笑)。
やりたいことをやりたいと思い立ち、高校時代に一緒に演劇をやっていたヒノ影アランと一緒に2人で立ち上げました。
それから写真家と自ら立ち上げた劇団の俳優という二足の草鞋でやってきたんですけど、『愛うつつ』の出演が決まったぐらいから、少しずつ俳優業がメインになっていって。
それとクロスフェードするように去年から音楽活動を始めた。だいたいそういう流れです(笑)。
いまは、いったん『ヤマアラシ』自体はお休みしているんですけど、現在所属してキュレーションを務めているNOSE art garageの方に、ヤマアラシのメンバーも一緒に参加してもらって、いろいろなアーティストやクリエーターと一緒に展示やステージ、映像作品を作っています。
クリエーター集団じゃないですけど、ギャラリーを拠点にモノ作りをするアーティスト活動を今はしています」
「タイトル、拒絶」のスチールはすべてわたしがやらせていただいてます
映画ファンは、彼女の作品に実はすでに出会っているかもしれない。実は、昨年公開された「タイトル、拒絶」のスチールは彼女が担当している。
「実は、『タイトル、拒絶』のスチールはすべてわたしがやらせていただいてます。
あと、ちょっとだけ出演もしています。よかったら探してみてください(笑)」
「愛うつつ」が初めての出演した映像作品
このようにユニークなキャリアを歩む彼女だが、先で触れたように『愛うつつ』に関しては俳優として歩み始めて間もないころだったという。
「劇団を立ち上げたのは、急に思い立ってのこと。それまで、役者の経験はまったくなかったんです。
それで自分の劇団で俳優として活動を始めたわけですけど、一度、映像でも演劇でもいいから自分の劇団ではない、外でお芝居したいなと思いました。
それから、外部作品のオーディションを受けるようになって、つかみとったのが『愛うつつ』でした。『愛うつつ』が初めての出演した映像作品になります」
自らの劇団ではなく、外部の作品に出合ってみたいと思ったのにはこういう理由もあったという。
「自分自身がお芝居に限らず、表現活動で救われてきたことがありました。
で、いざ自分が俳優という形で表現をすることになったならば、もっといろいろな可能性を広げないといけないと思いました。
自分の立ち上げた劇団内に留まるのではなくて、もっと外に出て経験を積まないといけない。
当時は、そういう思いがありました」
最初は主演ではなかったんです
そこで出会ったのが「愛うつつ」であり、演じることになる結衣だった。
「これ言っていいかわからないんですけど、最初は主演ではなかったんです。
キャストの中のひとりで最初は違う役どころだったんですよ。
でも、細川さんが結衣役にわたしを推してくださった。それで、決まったんです。
わたし自身、オーディションを受けるに際し、脚本を読んで時点で、結衣は『すごくやりたい』と思った役で。結衣を演じられることになったのは素直にうれしかったです」
わたし自身は、結衣よりも純さんの気持ちのほうが理解できました
ある事情で「心から愛しているからゆえに結衣を抱けない」純と、「抱かれないことから純の愛情を感じられず、自身の性的魅力も否定された気がする」結衣という恋人同士の愛の行方を描く本作だが、脚本の印象をこう明かす。
「わたし自身は、結衣よりも純さんの気持ちのほうが理解できました。愛しているがゆえに大切すぎてなにか触れられない感覚はちょっとわかる。
一方で、結衣はすごく演じたい役ではあったんですけど、つかみかねるというか。だから、むしろ演じてみたい意欲もわいたところがあります。
そういう意味で、結衣を演じるのは、あまりよく理解できていない状態からのスタートでした」
正直なことを言うと、結衣の深いところまで読み込めたかわからない
結衣は、付き合ってしばらくたつのに体を求めてこない純をはじめは「大切に思ってくれているのかも」と考えるが、だんだんとなにか別の理由があるのではないかと思い出す。
その矛先はだんだんと自分へと向けられ、自身に女性としての魅力がないのではないか、と思い悩むことになる。
nagohoは、このあたりのやりきれなさ、戸惑いを実にリアルに表現している。
「正直なことを言うと、脚本をもとに結衣の深いところまで読み込めたかはわからないんです。
というのも映画に出演するのが初めてで、脚本を読みなれているわけではない。どう脚本を読み解いていけばいいのかもよくわからない。
ですから、現場に入って、そのシーンごとに、その場の空気や相手と向き合って、感じたものを素直に肉体を通して出す。
それしかできなかったというのが正直なところです。
ただ、事前に純と結衣というよりも、細川岳とnagohoという人間が本気で向き合って出てきたリアルなものを優先したいと葉名監督がおっしゃって。監督と細川さんとわたしでそのことを共有していました。
そこで、リハーサルやお芝居の練習みたいなものはあえてほとんどしないで、細川さんとお互いのことを理解を深めるような時間をもって、その関係をもってそのまま現場に入ったところがありました。
そのことで自然体で結衣として立てたところがありました」
本人は、こう謙遜気味に語るが、自分を抱かない純に本心をぶつける激しいケンカの場面ではリアルな感情がほとばしる。
「あのシーンは、ほんとうに自分でもよく成立したなと思います。
というのも、あのシーンは、撮影の直前になって、細川さんだけ現場に残して、わたしだけ監督に呼び出されたんです。
そうしたら、1ページ分ぐらいの台本を急に渡されて、アドリブでやってほしいと。
そして渡された直後に、もう撮影スタートみたいな感じで。
そんなことこれまでやったことないですから、どうすればいいかわからない。
でも、なにかやらなくてはいけない。すごく動揺しているんですけど、結衣としてそれを表を出すわけにはいかないし、もう必死にやるしかない。
そんなことで頭がいっぱいになってたら、カメラが回り始めて、その瞬間、1回全部忘れて、まっさらになってやったらああなったんですよね。
だから、ほぼアドリブ。ただ、わたしとしては細川さんといっしょに結衣と純として存在して、これまで積み重ねてきたものが、あそこでああいうふうにつながったなという感覚があります」
(※後編に続く)
「愛うつつ」
監督:葉名恒星
出演:細川岳、n a g o h oほか
ユーロスペースにて公開中。
大阪・シアターセブンにて 6月19日(土)より公開
愛知・シネマスコーレにて7月公開予定
場面写真は(c)HANAOHANACO Co.
<イベント情報>
現在公開中のユーロスペースにて以下のイベントあり!
6月8日(火) 19:20の回上映後 トーク
ゲスト:ベイン理紗さん、n a g o h o 、葉名恒星監督
6月9日(水) 19:20の回上映後 トーク
ゲスト:川崎僚(映画監督)、野本梢(映画監督)、n a g o h o
6月10日(木) 19:20の回上映後 トーク
ゲスト:東かほり(映画監督・グラフィックデザイナー)、葉名恒星監督
6月11日(金) 19:20の回上映後 最終日舞台挨拶
ゲスト:細川岳、n a g o h o 、葉名恒星監督