米国民は中国にどこまで懸念を抱いているのか
冷戦構造が終結し、米ソによる二大大国の世界的対立構造は過去のものとなり、今ではアメリカ合衆国が最大の大国としてその立ち位置を維持している。そしてロシア、EUとしての欧州諸国の連合体、さらには中国が対立軸として存在する状況。中でも中国は成長率が極めて大きいことに加え、ロシア同様太平洋をはさんで直接対峙している点、さらに同盟国との絡みもあり直接的な軍事的圧力の影響が生じているため、その対立による懸念がこの数年拡大する傾向にある。
今回はアメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2015年9月に発表した、同国の市民ベースでの対中懸念に関する調査報告書「Americans’ Concerns about China: Economics, Cyberattacks, Human Rights Top the List」を元に、アメリカ合衆国民が抱える中国への懸念の現状などを確認していくことにする。
次に示すのはアメリカ合衆国が懸念を抱いていると思われる対中問題に関して、「大きな懸念」「懸念」「懸念していない」「まったく懸念していない」(+「分からない」、無回答)の選択肢の中から一つを選んでもらい、そのうち懸念派を記したもの。
最近日本ではあまり報じられなくなったが、米国債の大量保有に関する懸念が一番大きく、89%、うち強い懸念が2/3。中国による米国債の保有額は7月時点で1.27兆ドルで、日本の1.20兆ドルを抜いてトップについている。全体比は約2割。
強弱の点では下になるが、懸念派では同じ値となるのが、アメリカ国民の就業機会の損失で、これが89%。特に低収入者、共和党支持者、年長者、女性、低学歴の人がより強い懸念を抱いているとのこと。要は(支持政党は別にしても)回答者自身にとって切実な問題の立場にある人ほど、対中懸念は強くなる。
サイバー攻撃に対する懸念や中国の人権問題に対する懸念度も高い。対中貿易赤字も懸念派は8割を超え、強い懸念派は5割を超えている。他方、台湾と中国の関係における緊張化は、それらの問題と比べるとさほど強い懸念は抱かれていない。
米中関係はこの数年の間に悪化の方向へかじ取りを切ったかのように見える。実際に市民感覚での懸念はどのように変化したのか。ほぼ同一条件で3年前の2012年5月に調査した結果との比較が次のグラフとなる。
突然悪化、実は状況はむしろ改善化のような話は無く、少なくとも3年位前から現状のような、対中問題における懸念は相応のものであった。詳しくは別の機会に譲るが、アメリカ合衆国の対中姿勢の変化は2012年がターニングポイントとなっている。それ以前は好意派の方が多く、以降は嫌悪派が多数を占めていた。その変化後における比較のため、大きな差が出ていない次第である。
2012年から2015年への懸念に関する動きはほぼ誤差の範囲だが、あえて違いを見出すとすれば、サイバー攻撃や中国内の人権問題、世界的に影響を及ぼす環境問題の点で、懸念度が高まっている。また、軍事的方面の項目は値の変化が無い。これらは日本でもよく耳にする問題であり、アメリカのみに限った懸念でもないのだろう。
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