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バルサ、アトレティコに完敗。CL連覇を逃したメッシの「王様プレー」

杉山茂樹スポーツライター

チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝で、バルセロナがアトレティコ・マドリードに敗れた。事件であることは確かだが、まさかの番狂わせが起きたという感じではない。バルサが2−1で勝利したカンプノウの第1戦を見れば、結果は予想できた。第1戦のアトレティコの敗因はあくまでフェルナンド・トーレスの赤紙退場によるもので、それがなければ別の結果に終わっていた。バルサは1点差の勝利が精一杯だった、と思う。

1週間後の再戦で、戦いの中身が劇的に変化する可能性は、バルサ監督のルイス・エンリケが、特別な手立てを講じない限り難しいだろうと予想したわけだが、そのサッカーはシーズンが深まるにつれ、悪化の一途を辿っている。

レアル・マドリードにホームで1−2で敗れた4月2日のクラシコしかり。R・マドリードがよかったと言うより、バルサが悪かった。この準々決勝も、アトレティコの健闘は何より讃えられるべきだが、長い目で見るとそれと同じぐらい、いやそれ以上に、バルサの好ましからざるサッカーについて言及したくなる。

CLで2連覇を達成したチームは88~89、89~90年のミラン以来、出現していない。今季のバルサは2連覇をかけて戦ったわけだが、今回が初めてではない。5回目の挑戦だ。2度目の優勝を遂げた05~06シーズン以降の10年間でこれで実に4回。つまり、連覇という視点で捉えれば、バルサはこの10年のうち4回連続で失敗したことになる。毎度、本命と言われてスタートしながら、最後で失速するパターンだ。

今回も学習効果を発揮することができなかった。これまで失敗の原因には、不運もあったが、それ以上に見え隠れしたのが慢心だ。謙虚さの欠如。昨シーズンの終盤と、いまと何が違うか。比較してみると、それは浮き彫りになる。

左からネイマール、ルイス・スアレス、リオネル・メッシと並ぶバルサ自慢の3FWが形成されたのは、スアレスがチームに加わった昨シーズン。正確にはその途中になるが、それ以前は、左からネイマール、メッシ、ペドロの3人で形成されていた。ウイングタイプのペドロに代わって、ストライカータイプのスアレスが加わったために、メッシは真ん中から右に移動することになった。

だが、メッシは簡単に従おうとしなかった。主役の気分が抜けないのか、気がつけば、真ん中に入り込もうとした。すると、新加入のスアレスはメッシに気を遣ったのか、すっと右に開いた。右のインサイドハーフ、イヴァン・ラキティッチも、メッシ不在で空白になった右のポジションをしきりに埋めようとした。真ん中から右に追い出される格好になったメッシの気持ちを気遣う美しい光景が、ピッチの各所に描かれることになった。

メッシもメッシで、それまでサボっていたディフェンスに参加するなど、周囲の気遣いに応えるプレーを見せていた。

チームワーク抜群に見えた。美しくきれいな光景に映った。サッカー的にも優れたバランスが保たれていて、何より穴が存在しなかった。欧州一に輝いた最大の原因は、3FWが思いのほかピッチ上にきれいに並んだことにあった。

MSNと命名され、スター性を高めることになったこの3FW。しかし現在、3人はピッチにきれいに収まれずにいる。メッシの真ん中好きは、昨シーズンの比ではないほど加速。それにスアレス、ラキティッチのカバー精神は追いつけなくなっている。その結果、ピッチには極端な絵が描かれることになった。右不在。見るからにバランスの悪い並びだ。

真ん中で、かつての10番タイプの司令塔のように構えたメッシ。その王様ぶりは目に余る。この手のタイプの王様がいるチームが優勝したという記憶はない。4−3−3という布陣のどこに収まり、どんな役割を果たす選手なのか、サッパリ見当がつかなくなっている。

R・マドリードの王様、C・ロナウドは前日のヴォルフスブルク戦でハットトリックの活躍を演じた。R・マドリードはそのワンマンプレーで逆転勝ちしたが、バルサの王様はサッパリだった。メッシの王様的な振る舞いは、バルサに一切のメリットをもたらさなかった。バランスを乱しても、それを圧してあまりある活躍をしたなら納得できるが、自身のプレーもダメでは、救いようがない。

監督のルイス・エンリケにそれが分からないはずがない。ラキティッチ、ダニ・アウベスに代わって、アルダ・トゥラン、セルジ・ロベルトを投入した後半19分の交代を見れば一目瞭然。メッシ不在で空白となっている右サイドの前方のエリアに人を配置しようとしたその采配に、バルサの問題は端的に表れていた。

「エゴイストは1人で十分」とは、ジョゼップ・グアルディオラがバルサ監督時代に述べた台詞だ。その1人とはメッシで、ズラタン・イブラヒモビッチ放出の理由でもあるとは、バルセロナの地元記者からレクチャーされた話だが、「0トップ」もその延長上にある発想だったという。

それはメッシをエゴイストにする作戦だった。彼を0トップに置くことで、意図的に、守備をしなくていい人物に仕立て上げようとした。防御を固めるべきは、真ん中ではなくサイド。まず封じるべきは相手のサイドバックの攻め上がりとの発想に基づいていたという。

その0トップの精神が、いまのバルサにはもはやない。エゴイストの置き場所を誤った結果が、今回の敗退劇の真実だと思う。

試合終盤、アトレティコの左サイドバック、フィリペ・ルイスは、交代で入ったセルジ・ロベルトのボールを奪うと、ワンツーを交わしながらドリブルでバルサ陣ペナルティエリア内に侵入。アンドレス・イニエスタのハンドを誘い、自軍に2点目のゴールをもたらした。

その時の、バルサの右サイドはどうなっていたか。セルジ・ロベルトの背後に、ベンチに下がった右サイドバック、ダニ・アウベスの代わりはいなかった。数的不利に陥ったためにフィリペ・ルイスに走られたわけだが、バルサの布陣は乱れに乱れていた。なぜそんな事態に陥ったのか。

メッシという王様、スーパースター兼エゴイストをどこに配置するか。そもそも監督に配置する力があるのか。ルイス・エンリケの敵はメッシにあり。その王様気取りにバルサの慢心が現れていた。アトレティコに2連覇を止められた、一番の原因だと僕は思う。

(集英社 Web Sportiva 4月14日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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