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「新・ガザからの報告」(37)24年12月28日―テント避難民から6人の凍死者 ―

土井敏邦ジャーナリスト
(雨で水浸しとなるテント/撮影・ガザ住民)

【イスラエル軍の病院攻撃】

 まずは緊急の最新情報をお伝えします。ガザ地区北部の状況です。イスラエルの地上作戦についてお話します。

 ジャバリア難民キャンプ、ベイトラハヤ町、そして前回伝えたように、ベイトハヌーン町へイスラエル軍は攻撃を拡大させました。今、ベイトハヌーン町から数千人の住民を避難させ、ますます軍事的圧力を強めています。

(イスラエル軍によるベイトハヌーン町からの避難命令/MのSNS画面から)
(イスラエル軍によるベイトハヌーン町からの避難命令/MのSNS画面から)

 また、昨日、イスラエル軍はガザ地区北部の病院を攻撃しました。病院内や周辺の地域から数十人のパレスチナ人が逮捕されました。イスラエル軍は現在、病院を占拠し、病院を管理下に置いています。

 ベイトラヒア町とベイトハヌーン町の西部の両方で激しい軍事衝突が住民によって目撃されました。イスラエル軍は先週だけで4~5人の兵士が死亡しました。負傷兵の数はそれ以上です。

 一方、ハマスとイスラム聖戦の両方から数十人の戦闘員が死亡しています。

ベイトハヌーン町とベイトラヒア町の一部地域では、激しい戦闘が繰り広げられています。

 また、イスラエル軍は北部の主要病院であるカマル・エドワン病院に侵攻し占領しました。

(Q・その病院はどこにあるんですか?)

 あなたと取材したヒジャジ家のすぐ隣です。ジャバリア難民キャンプとベイトラヒヤ・プロジェクト(新興地区)の中間です。

イスラエル国内の右派の過激派の中には、イスラエル軍がベイトハヌーン町の攻撃を終えた後、再びガザ市を攻撃すべきだと要求しています。

 そして、ここ数週間、私たちはイスラエル軍第98師団に関する多くの報告を目にしました。イスラエル軍の中でも非常に強力な部隊です。空挺部隊の師団です。非常に熾烈で強力な部隊です。レバノン南部での停戦後、この部隊がレバノン南部から撤退し、現在、ガザ地区との境界線近くに駐留しています。この部隊はいつでも介入し、ガザ地区内で作戦行動を起こせるよう待機しています。この部隊がどのような標的を狙う可能性があるのか、私たちにはわかりません。おそらく、ガザ市やハンユニス市に対して再び攻撃を行うか、あるいは中部地区の難民キャンプやデイルバラ町を攻撃するかもしれません。

絶望的な停戦交渉に怒る住民】

(Q・イスラエルとハマスの停戦交渉はどうなったのでしょうか?)

 ほぼ交渉は決裂したと言っていいでしょう。交渉は何の進展もありません。ネタニヤフ首相は、ハマスにいくつかの新たな要求を追加しました。一方、ハマスも新たな要求を追加しました。ハマスは生存しているイスラエル人の人質の名前を提示することを拒否しています。誰が生存し、誰が死亡しているのかを提示することを拒否しているのです。現在、人質は約100人います。ハマス代表団は生存者の名前を明らかにするリストの提出を拒否しています。

 そのため交渉は間違いなく決裂します。バイデンの大統領任期中に停戦が実現することはないでしょう。トランプはガザ地区での合意、停戦の合意もなしに大統領に就任することになるでしょう。バイデンはガザ戦争の問題を解決することなくホワイトハウスを去るでしょう。

(Q・この交渉の崩壊は住民にどういう心理的な影響を与えていますか?)

 交渉決裂という悪いニュースを聞いた後、この数日間、人びとは非常にフラストレーションを感じ悲しんでいます。どれほど悲しみ、落胆し、いらだっているか、あなたは想像もできないでしょう。

 もちろん、いつも通り交渉が失敗するたびに、人びとはハマスに対する怒りやいらだちをあらわにしています。彼らは、外国に住む外部のハマス指導者たちに、交渉のテーブルから離れ、ガザ地区で一晩でもテントで過ごしてほしいと願っています。この凍えるような寒さの中、テントで一夜を過ごせば、考えも変わるでしょう。そして、この問題を解決し、この戦争を終わらせることができるでしょう。

 昨日、ソーシャルメディア上で、多くの人びとがハマスの指導者たちをガザに招き、凍えるような寒さの中のテントで一夜を過ごすよう呼びかけました。

 ガザの住民は、ハマス指導者たちはガザ地区内の人びとの痛みや苦しみとは無縁だと考えています。彼らはガザの現実から乖離しています。ガザ地区内で苦しんでいる人びと、特にテント内で暮らしている人びとの気持ちをまったく理解していません。

【凍死するテントの住民たち】

(Q・寒さのために2人の幼い子どもが亡くなったことが報道されています。この件について説明してくれませんか?)

前の週に私たちは、非常に残酷な天候を経験しました。特に夜間には天候が悪化し気温が非常に低くなり、人びとはその寒さに耐えられません。気温が3度か4度まで下がりますから。

 しかもそのテントは貧弱で、防寒には不十分です。強風や寒さから隔てるものは、ナイロンやプラスチックの非常に薄い一枚の布にすぎません。ですから、寒さから子どもを守ることはできません。しかもほとんどのテントは、砲弾の破片や風によって破壊されています。

 テント自体は、寒さや雨、強風から身を守るものではありません。テントの地面は土や砂です。何か素材で覆われているわけではありません。雨が降ると、この地面は泥沼と化し、すべてを濡らします。テントの中のベッドもすべて濡れてしまいます。マットレス、毛布、あるいは中にいる人びとの衣類もそうです。

 先週、私たちは強風の天候を体験しました。テントのナイロン生地は風に非常に弱く、簡単に破れてしまいます。寒さのために亡くなった人は6人います。男性1人、女性1人、子ども4人です。合計6人がテントの中で凍死しました。北部から避難してきた人びとほとんどは、身につけている服だけしか持っていません。厚手の冬服がないのです。今、買おうとしても衣類の量は少なく、なかなか手に入らないし、とても高価です。ですから、自分や子どもたちのために服を買うこともできません。

 また毛布も十分な量がありません。それを店で買おうとすると、あなたはその値段に驚くでしょう。とても高いのです。家族のために毛布を一枚買うことすらできません。

衣類も毛布も不足しています。

(Q・死亡した6人の年齢は?)

 ええ、メディアで最も注目されているのはその男性です。彼は30歳前後で、看護師です。ハンユニスの病院で働いていました。亡くなった女性は年配の女性だと思います。

 死んだ4人の子どものうち2人は新生児です。生まれて数週間から数ヵ月です。他の2人は2歳から3歳です。

(凍死した病院勤務の青年/ガザ住民の提供)
(凍死した病院勤務の青年/ガザ住民の提供)

(Q・一般の人々の生活について、もっと詳しく教えてください。食べ物や水、衛生用品などはどういう状況ですか?)

 私自身の状況から話をします。3日前、1袋25キロの小麦粉を受け取りに行きました。日本の方から支援食料です。袋には日本の国旗が描かれていました。

(WFPから支援された小麦粉/撮影・M)
(WFPから支援された小麦粉/撮影・M)

(日本からの支援であることを示す国旗/撮影・M))
(日本からの支援であることを示す国旗/撮影・M))

(Q・どこで手に入れたのですか?)

WFP(世界食糧計画)の配給所に行けば、その袋が配布されています。各家庭に小麦粉が1袋ずつ配布されています

(Q・一般の住民の状況はどうですか?)

 交渉の決裂により、人びとが苛立っていることは先に伝えた通りです。悪天候にも苛立っています。非常に寒いので、死者の数はさらに増えるでしょう。昨夜は最も過酷な夜だったので、おそらくさらに1人か2人、新たに死亡する人が出るでしょう。

 人びとを苛立たせてるもう一つの要因があります。それは年末と新年2025年の到来です。ご存知のように、これから数日後に、世界中の人びとは新年を迎え、祝います。
しかしガザの人びとは2025年の新年を迎えることを祝うなんて信じられないのです。ガザ戦争は継続しています。ガザ戦争は止まりません。人びとはテントの中に留まり、1日1食か2食を食べながら過ごしています。

 そのため、年末が近づき、新年が近づくにつれ、人びとには心理的なプレッシャーやある種のフラストレーションが生まれているのです。

(Q・パレスチナ人間の内紛はまだ続いているのですか?)

 はい、もちろんです。毎日、毎日事件が起こっています。強盗や、支援物資をめぐる衝突は続いています。

【住民の怒りはイスラエルへだけではなく、ハマスにも】

(Q・民衆の怒りやフラストレーションはどこに向かっているのか?)

もちろんイスラエルです。それに疑いなくハマスにも向いています。人びとはハマスは停戦の妨げになる障害物だと見ているからです。ハマスはガザ地区内のパレスチナ人に対して責任を持つべきであり、住民の苦しみを理解すべきです。しかしハマスは民衆の苦しみからまったく乖離していると人びとは感じています。彼らが街での会話でも、「ハマスは人びとの痛みや苦しみから完全に切り離されている」と話しているのを耳にします。

(Q・人びとが怒っているのは、ガザ内部のハマス指導者たちにですか、それともガザの外の指導者たちにですか?)

 ガザ地区の内と外、ハマス全体に対するものです。しかし、国外の指導者たちに対するものの方がより大きくなっています。

 なぜなら、私がいつも報告しているように、ガザ地区内では、ハマス内部でも戦争の終結と停戦を求める声が上がっているからです。ガザ地区内のハマス支持者、あるいは民衆の多くが停戦を求めています。だから人びとが最も非難しているのは、外部の指導者たちです。彼らはガザの住民の苦しみを理解していないからです。彼らは完全にガザの民衆から乖離していると私たちは感じています。民衆の苦しみとは無縁なのです。彼らはパレスチナから離れた孤島で孤立しています。人びとの苦しみを感じていません。これがガザの人びとが感じていることであり、まさにそのことを言葉として口にしているのです。

 ハマスの支持者たちについて言えば、彼らの多くは停戦を支持しています。彼らは疲れ果て、この戦争を終わらせたいのです。

(Q・そんな住民はとハマスに反対する声を上げることを恐れているのでしょうか。ハマスの秘密警察や情報機関を恐れているのでしょうか?)

 率直に言うと、人びとはより発言することに勇敢になり始めています。ハマスのやり方について不満を口にし始め、大きな声でハマスを非難し始めています。人々は動き始め、話し始めました。

 ハマスの支配、ハマスの権力はこの戦争の初期の頃とは違います。ハマスは健全ではありません。ハマスは「足を骨折して歩いて」います。とても疲れ果てています。ですから、人びとは大声で批判し始めています。もちろん、すべての住民ではありません。混乱に対して何も言わず、批判することを恐れている人びともいます。

【民衆の怒りと絶望感が向かう先】

(Q・この怒りやフラストレーションはどんどん大きくなって溜まっていき、この状況に耐えられず、最終的には爆発しないだろうか?)

 以前に報告したように、多くの人びとがガザから出て行きたいと思っています。一方で、自殺したいと思っている人もいます。希望がないからです。しかし他方で、人びとの怒りが何らかの形で爆発すると思います。

(Q・どのように?)

 人びとはあらゆる面で圧力を受けているし、怒っています。イスラエル軍、ハマス、包囲、天候、食糧不足、飢饉、医薬品不足、医療不足などに対してです。その圧力を受け、あらゆる部分でストレスを感じています。

この戦争が終結しなければ、状況は爆発するでしょう。人びとは圧力にさらされ、非常に大きなプレッシャーを感じているからです。この戦争が終結しなければ、しすて国境が再び開放されれば、少なくともガザ地区の人口の半分はガザを脱出し、国境の外へ出て行くと推定しています。

(Q・「爆発」とはどういう意味ですか?人びとの怒りが爆発するということですか?彼らはハマスを攻撃するのですか?)

 この爆発については、多くのシナリオを挙げることができます。

 まず民衆はハマスに対して蜂起し、ハマスに属する人物を殺害したり、暴行を加えたり、ハマスのメンバー全員を家の中、路上、車内など、あらゆる場所で追跡するでしょう。つまり1987年にガザ地区とヨルダン川西岸地区でイスラエル軍に対して蜂起した第一次インティファーダのようなことをするでしょう。

 もう一つのシナリオは、何万人もの人びとが、人間の波となってフェンス、国境を攻撃するでしょう。人間の大きな波です。大規模な「帰郷行進」のようなものです。

 いつか10万人、20万人のパレスチナ人がフェンス、イスラエルとの国境を攻撃しているのを目にするかもしれません。彼らは結果やリスクを考えないでしょう。イスラエル軍に殺されたりしても気にしないでしょう。彼らにとって自分たち命は価値がないと感じているのです。

(Q・命に意味がないということですか?)

 ええ、命に意味がない。私があなたに話した、テントの中の泥の上で子供を寝かせるために自分の子どもを自分の脚の上に寝かせている男の話を聞いたとき、この男性には命に価値などないと感じているに違いない。もしこの男が、国境に向かって押し寄せる人間の波として突進してたとしても私は不思議には思わないでしょう。

(Q・「国境への大行進」は集団自殺を意味しますよね?)

 ええ、その通りです。集団自殺になるでしょう。ハマスに対するインティファーダを決行するにしても、国境を人間の波で攻撃するにしてもです。

 これらが、私たちが話している「爆発」の最も可能性の高いシナリオだと私は思います。この戦争が終結しなければ、おそらくこの2つのシナリオに似たものにつながるでしょう。

(Q・あなた自身、家族の将来についてはどう考えていますか?)

 私の選択肢は移住することです。なぜなら、ここに残っているものは何もないからです。状況は非常に悪くて、ガザ地区の回復、復興には何十年もかかるでしょう。だから、ここに留まる理由が何もありません。

 移住します。これが唯一の選択肢です。子供たちや家族のために安全な環境を見つけ、将来に希望を持てるようにしたいと願っています。

 私は、爆発音も、戦車の轟音も、ジェット戦闘機の轟音もない、静かな夜を一晩でも過ごすことを夢見ています。ただ安心して眠ることを夢見ています。静かな夜をただ眠ることは、私にとって夢となりました。

 まず第1に、最初の目的地としてエジプトのカイロに行かなくてはいけない。数ヵ月、あるいは1年くらい滞在するつもりです。エジプトは大きな国で、カイロはエジプトの首都です。その首都カイロには世界中のほとんどの国の大使館があります。ですから、カイロに滞在中にさまざまな大使館に移住するための書類を提出することができます。

 私は合法的な方法で移住しようとしています。カイロに滞在中に、いくつかの大使館に書類を提出し、結果を待ちます。おそらく、どこかの国で受け入れられるでしょう。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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