「新・ガザからの報告」(36)24年12月20日ー市長、町長が次々と暗殺されるー
【暗殺される自治体の長】
(Q・この1週間の報告をお願いします)
まず、先週の金曜、あなたに報告してから1時間半ほど経ってから、ここデイルバラ町で重大な事件が起こりました。
イスラエル軍がデイルバラ町の町庁舎を襲撃したのです。数十人の町役場の職員や労働者などが殺され負傷しました。町長はこの襲撃で暗殺されました。彼は、このガザ地区中部地域で最後に生き残っていた地方自治体の長でした。それ以前の数か月間にも、ヌサイラート難民キャンプの市長、ブレイジ難民キャンプの市長、マガジ難民キャンプの市長、そして周辺の村々の市長数名が暗殺されていました。
このデイルバラ町の町長は、先週の金曜日、空爆によりついに暗殺されてしまったのです。
この行動により、中部地域のすべての地方自治体の長が暗殺されたことになります。この暗殺がもたらした影響を予想もできません。中部地区の行政に非常に大きな混乱をもたらすことは間違いありません。この戦争前まで自治体が住民に対して提供してきたサービス、道路のゴミを集め、水道やその他の公共サービスを行ってきました。その復旧がさらに難しくなります。
(Q・イスラエル軍が中部地区の地方自治体の全ての長を暗殺する目的は何だと思いますか?)
地方自治体の長が暗殺されたのは中部地区だけではありません。北部や南部でも何人かの長が殺されました。ジャバリア難民キャンプやベイトラヒヤ町の長もそうです。しかし、市長たちの犠牲者のほとんどは中部地域に集中しています。
目的は、2つあると思います。
第1に、イスラエルはガザ地区のハマスの行政を完全に破壊しようとしています。ガザ地区の住民の生活を管理する行政をです。
第2の目的は、住民の人道危機を増大させようとしていることです。市長、町長やその自治体職員を標的にすることは、自治体の行政を破壊することに他なりません。自治体が住民に提供する公共サービスに悪影響を及ぼしています。ですから、一般的にこの暗殺の目的はガザの人々の間の混乱を増大させることです。
【開始された北部の町ベイトハヌーンへの侵攻】
先週の出来事で他には、北部の地上作戦に関する非常に重要な問題があります。
以前にも、この作戦がジャバリア難民キャンプとベイトラハヤの町を標的にしていると報告しました。また、ジャバリアとベイトラハヤの間に「ベイトラハヤ・プロジェクト」(ジャバリア難民キャンプ出身者が移住して作った新住宅地区)と呼ばれる地域があります。
前にも言及しましたが、ベイトハヌーン町はイスラエル軍に包囲されています。そこには住民が今でも住んでいます。彼らは町を避難していません
イスラエル軍162師団の次のステップは、ベイトハヌーン町、またガザ市北部の地区に向けて作戦を拡大することかもしれません。第162師団はベイトハヌーン町の一部地域をすでに攻撃し始めました。彼らは深夜に突然ベイトハヌーン町を攻撃したんです。
まず町内のハリール・オイダ学校を攻撃しました。この学校には数千人の住民が避難していました。その校内にいたハマスとイスラム聖戦の戦闘員数十名を殺害し、さらに数十人の戦闘員を逮捕しました。その後、学校に避難していた人々は全員、サラハディン通りを歩きガザの中心部に向かうよう命じられた。このようにイスラエル軍がベイトハヌーン町に向けて作戦を拡大し、攻撃を開始しています。
(Q・ベタヌーン町の住民はガザ市に逃げたのですか?それとも一部は町に残っているんですか?)
何千人もの民間人が残っています。イスラエル軍は最近、いくつかの学校や避難所に対して集中的な空爆を行っています。先週、ガザ市内の2つの学校が襲撃されました。ハマスとイスラム聖戦の両方の戦闘員数十人がこの攻撃で死亡しました。
【止まらないパレスチナ人の内紛】
ガザ地区内での内紛と民衆の混乱について、重大な事件や最新情報があります。
パレスチナ人同士の衝突が2度起こり、非常に残忍な週となりました。ハマスと有力一族、ギャング、商人など間での内紛です。
1つはガザ地区の最南端、ラファ地区で起こった大きな戦闘です。この戦闘はラファ市の東部で発生しました。死傷者数の正確な数字は把握していませんが、ある情報では25人が死傷したとのことです
2つ目の事件は、ヌセイラート難民キャンプの入り口前の幹線道路、サラフディン通りで発生しました。とても混雑した場所で発生したため、多くの住民が目撃しています。1人が死亡し、4人が重傷を負いました。今後数時間のうちに、おそらく4人のうち1人か2人が死亡するでしょう。首や胸を撃たれて重傷だからです。
支援物資や商人の物資の奪い合いなどが止むことなく続いています。とりわけヨルダン川西岸地区やヨルダン、あるいはイスラエル市場からガザの商人が輸入した商品をめぐる内紛が増加しています。
(Q・その内紛は誰が誰と戦っているのですか?)
誰が誰と戦っているのかを判断するのが困難になっています。すべての戦闘員たちが覆面を被り、顔を覆っているため、私たちは簡単に身元を特定することができません。誰が誰と戦っているのかを正確に判断することができないのです。
しかし、住民の証言によると、ヌセイラート難民キャンプの入り口で起こった戦闘は、商人が雇った武装集団とギャングの間で起こりました。ラファの東部で起きた衝突は、ハマスの戦闘員と有力一族の間で起ったということです。有力なタラビン一族と呼ばれるベドウィンの部族です。しかし100%の確証はありません。なぜなら、誰も発表していないし、これらの問題はすべて、地元メディアでは隠されています。しかし私たちは、衝突現場で目撃者として証言している人々の証言を全面的に信頼しています。
住民が混乱するもう1つの重要な問題が起こっています。
数週間前、ガザ地区内の銀行が襲撃されたというのです。その銀行の名前は誰も知りませんが、ヨルダン川西岸のラマラ市の自治政府金融当局が公式にメディアに発表し、ガザ地区内の銀行の1つが襲撃されたことを明らかにしました。その銀行から盗まれた金額は約800万シェケル(約200万ドル)です。そのお金は現金で強奪されたというのです。この事件は秘密裏に処理されているようで、今、公表されてはいません。おそらく数日のうちに、この銀行の名前が明らかになるでしょう。
【強風で破壊されるテント】
最後に言っておかなければならないのは、前の週に、とてもひどい天候に見舞われました。テントで暮らす避難民の苦しみはますます深刻化しています。非常に強い風が吹き荒れ、何百、あるいは何千のテントが破壊されたと聞いています。このような状況下で、残念ながら、テントを失った人びとに対して、何らかの支援や福祉を提供しようとする動きはありません。ハマス政府も地方自治体も国際機関も、テントを修理したり補強したりする手助けをしようとはしていません。
人びとは苦しんでいるのに、だれもテントの修理を手伝おうとはしないのです。 いつも私が言うように、このひどい状況はガザ地区の住民の心理状態を悪化させています。
【停滞する停戦交渉と続く生活難】
(Q・ハマスとイスラエルとの交渉はどう進展していますか?)
交渉はカタールのドーハで、イスラエル代表団とハマス代表団の間で継続しています。しかし、交渉は非常にゆっくりとしか進まず、大きな進展はありません。停戦の障害となるものが非常に多くあるからです。
(Q・住民の生活について何かニュースはありますか?水や食料などはどうですか?)
食料については、同じ状況です。食料の量は非常に少なく、物価は非常に高いです。だから、食料危機も同じ状況です。人びと1日1食か2食です。ガザ地区で1日3食食べられる人はいないと思います。そして、ほとんどの人々が栄養失調、貧血状態に苦しんでいます。
感染症や病気に対する抵抗力は非常に弱まっています。最近では冬を迎え、何千人もの子供たちが風邪やインフルエンザなどの病気に感染しています。
ですから、状況は依然として非常に悪いままです。
水は大丈夫です。雨が降っているので大丈夫です。住民はその雨水を集めています。
【ガザ脱出を願うガザ住民たち】
この数日、多くの人びとが、ラファ(ガザ地区最南端でエジプトとの境界)の検問所の最新情報やニュースについて尋ねています。ガザ地区北部へネツァリーム回廊を通って帰還する話ではありません。ガザの再建について尋ねているのもありません。彼らは、ラファの検問所について尋ねているのです。
つまり今後、ガザに留まるのではなく、できるだけ早くガザから脱出することを出ることを決めたのです。
(Q・多くの住民がガザから出たいと思っている、ということですね?)
彼らが唯一目指しているのはラファ検問所です。ガザ地区を離れるという1つの選択肢しか考えていないことが分かります。ガザ地区の再建など、住民は期待していません。彼らはラファの検問所の最新情報だけを尋ね追っています。
今、住民は、検問所の利用方法や渡航手続きについて調べ始めています。「どうやって渡航すればいいのか?」「パスポートはどうやって更新すればいいのか?」「子どもたち、乳幼児のために個別のパスポートを発行してもらうべきか、それとも母親のパスポートにまとめて記載するのか?」などを。
非常に多くの人びとが、戦争が終わった後にガザ地区で何が起こるのかなどを気にかけず、ただガザ地区から脱出することだけを目指していることに気づきます。(続く)