ノート(56) 拘置所における運動のルール 取調べ室で壁に向かって立つ被疑者
~達観編(6)
勾留22日目
ダイエット
同期の弁護士から差し入れられた司馬遼太郎『翔ぶが如く』の余談に興味深い記述があった。主人公の西郷隆盛は、外国人医師の助言に従い、肥満対策として、(1)主食を麦飯に、(2)犬と狩りに行って山歩き、(3)下剤を服用、というダイエット法を実践し、更に(1)を断って鶏肉食に徹していたという。
確かに、ダイエットの基本は実に単純であり、体内から消費するカロリーが体内に取り入れるカロリーよりも多い、という状態を継続すればよい。しかし、拘置所での生活は、前者が極端なまでに少ない一方、常に後者の方が多いという状況にある。
主食が「米7:麦3」の米麦飯であるとは言え、昼食や夕食のおかず類はしっかりとしたメニューであり、3食をきちんと取るだけでカロリーオーバーとなる。口寂しいからと差し入れられた菓子やパン、大福、果物などを食べていれば、ブクブクと太る一方だ。
入所時に行われた健康診断では、激務の中での深夜の暴飲暴食がたたり、身長170cmに対し、体重が105kgにも上っていた。勾留を一種の入院生活ととらえ、無理のないダイエットで社会復帰の日までに何とか身軽になりたいと考えていたが、運動一つとっても、拘置所には厳しいルールがあった。
「ストレッチング」と「室内体操」
運動は、居室内で行う「室内運動」と、運動場に出て行う「戸外運動」とに分かれる。
獄中モノのハリウッド映画やドラマなどでは、主人公や悪役が独房内で一日中、腹筋や腕立て伏せ、懸垂などを行い、筋肉隆々となっているシーンが登場する。日本では絶対にありえない話だ。
拘置所など刑事施設におけるルールを定めた法律や法務省の規則では、「1日に30分以上、かつ、できる限り長時間、運動の機会を与える」と規定されているものの、室内運動だとせいぜい1日60分間、平日の週数回だけ実施される戸外運動だと1日30分間が事実上の上限となっているからだ。
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