ノート(55) なおも続く検事の取調べ そこで語った再発防止策と検察改革
~達観編(5)
勾留21日目(続)
ライターの取材要請
新聞やテレビ、雑誌の記者らと比べ、取材要請のやり方が異色だったのは、「ノンフィクションライター」と呼ばれる人たちだった。ネタの速報性や他社に先駆けたスクープが求められているわけではないので、じっくりと腰を据えて取材対象者と向き合い、人間関係を構築していこう、という姿勢が顕著だったからだ。
特に、自ら著者として様々な出版社から事件モノの本を何冊も出すほか、検察に狙い撃ちされた関係者の手記をゴーストライティングしているベテランライターの場合、拘置所のシステムや被収容者の心情をよく理解しており、取材要請も格段に上手かった。
例えば、最初の接点は、ノンアポの不躾な面会要請ではなく、自ら記した著書3冊の差入れからだった。それも、郵便局のレターパックを使い、手紙まで同封していた。
一度の差入れで許可される本の冊数は3冊までと決まっているし、差入れは拘置所の窓口まで行かずとも郵送で可能であり、しかもレターパックであれば3冊程度の本と手紙を同時に送ることができる。1回360円と宅配便よりもはるかに安く、拘置所での検査もスムーズに進むので、本人の手もとにも早く届く。
活字に飢えているから、差入れ品の中でも特に本や雑誌は喜ばれる。もちろん、同封されていた手紙は封筒も便せんも和紙のものを使っており、筆ペンで丁寧に手書きしていた。
根回しまでも
その内容も、簡単な自己紹介の後、時事的な話題にサラリと触れ、「また本や手紙をお送りさせていただきます」などと続きを期待させるスマートな締め方で終わっていた。事件のことはおろか、「取材したい」といった文言も一切書かれていなかった。
これだと、こちらとしてもあえて拘置所に願箋を出し、以後の受け取りを拒否し、ブロックしようという気にはならない。次の差入れ品や手紙も本人に届くから、その目に触れることとなる。
現に、このライターは、マメに本の差入れや手紙の送付を続け、僕が知りたいと思っていた社会情勢などについても折に触れて書き綴ってくるなど、痒いところに手が届く人だった。
そればかりか、僕が過去に特捜部で取調べを担当し、その後も情報源としてつながりを持ち、逮捕後は衣類や布団などの差入れまでしてもらっていた関係者らと水面下で接触し、根回しまでしていた。
「○○氏が取材を希望しているらしい。応じてあげたらどうか」といった手紙を出させるためだった。
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