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カロリン諸島の熱帯低気圧が台風3号に発達し、沖縄に接近する見込

饒村曜気象予報士
カロリン諸島の熱帯低気圧(5月30日15時00分)

令和3年(2021年)の台風

 令和3年(2021年)は、2月18日にフィリピンの東海上で台風1号が発生しました。

 台風1号は、西進してフィリピンのミンダナオ島に上陸するかとみられていましたが、上陸前に熱帯低気圧に衰えました。

 その後、しばらく台風の発生がなかったのですが、4月14日3時にカロリン諸島で台風2号が発生しました。

 台風2号は、発達しながら西進し、18日3時にはフィリピンの東海上で、中心気圧895ヘクトパスカル、最大風速60メートル、最大瞬間風速85メートルの猛烈な台風になっています。

 平成28年(2016年)の台風14号以来、5年ぶりの900ヘクトパスカル未満の台風です。

 台風2号発生から一か月半たった5月29日15時、カロリン諸島で熱帯低気圧が発生しました。

 この熱帯低気圧は、発達の兆候が見られたことから、気象庁では30日9時に「今後24時間以内に台風3号に発達する」という熱帯低気圧に関する情報を発表しました。

 この熱帯低気圧は、5月31日3時現在、ミンダナオ島の東海上にあってフィリピンの東海上を北上する予想です。(図1)。

【追記(5月31日10時30分)】

 熱帯低気圧は、5月31日9時に台風3号に発達しました。

 今後の台風情報に注意してください。

図1 熱帯低気圧に関する情報(5月31日3時)
図1 熱帯低気圧に関する情報(5月31日3時)

 熱帯低気圧が存在する海域は、海面水温が29度以上と、台風が発達する目安となっている27度を大きく上回っています。

 台風は発生したあと、北上して梅雨の沖縄に接近する見込みですが、台風3号に発達するとした熱帯低気圧の東海上にも、別の熱帯低気圧が発生しています(図2、タイトル画像参照)。

図2 予想天気図(6月1日9時の予想)
図2 予想天気図(6月1日9時の予想)

 このため、海面水温29度以上という水蒸気が豊富な海域といっても、台風のエネルギー源である水蒸気を2つ目の熱帯低気圧と分けあうことになり、発生した台風が大きく発達することはないという予報です。

 雲が一つにまとまった渦となっていないこともあり、6月4日には沖縄の南海上で熱帯低気圧に衰える予報です。

 しかし、風が弱くなるという予報であり、台風の進路によっては、湿った空気の流入で沖縄付近の前線活動が活発となる可能性があります。

 筆者が過去に調べた5月のカロリン諸島近海で発生した台風は、西進して南シナ海に入るものと、フィリピンの東海上を北上するものに大別できます(図3)。

図3 5月の平均的な台風経路図
図3 5月の平均的な台風経路図

 また、6月にカロリン諸島近海で発生した台風はフィリピンの東海上を北上するものが多くなり、5月の台風に比べてより高緯度まで北上してきます(図4)。

図4 6月の平均的な台風経路図
図4 6月の平均的な台風経路図

 いずれにしても、過去の台風からみると、フィリピンの東海上を北上する台風は、沖縄に接近してきます。

 最新の台風情報に注意してください。

台風の統計

 台風の定義が「中心付近の最大風速が17.2メートル以上の熱帯低気圧」と決まった昭和26年(1951年)から台風についての各種統計があります。

 ただ、気象庁の平年値は、西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とし、10年ごとに更新しています。

 そして、今年、令和3年(2021年)5月19日をもって、旧平年値「2010平年値(1981~2010年の観測値による平年値)」から、新平年値「2020平年値(1991~2020年の観測値による平年値)」に切り替えられました。

 台風に関する各種平年値も同じ扱いです。

 台風の年間発生数は、25.6個から25.1個へと、若干減るものの、上陸数は2.7個から3.0個へと若干増えています(表)。

表 令和3年(2021年)の台風発生数と、発生数・接近数・上陸数の新旧平年値
表 令和3年(2021年)の台風発生数と、発生数・接近数・上陸数の新旧平年値

 また、接近数も11.4個から11.7個へと若干増えています。

 つまり、台風の発生数は減っても、日本に影響する台風の数は増えるということから、より一層の防災対策が必要となっています。

台風の上陸は夏から秋へ

 気象庁の台風の上陸の定義は、台風の中心が九州、四国、本州、北海道のいずれかに達したときをいいます。

 このため、6月になると台風がより高緯度まで北上するということは、上陸数が増えてくることを意味します。

 昭和26年(1951年)から令和2年(2020年)までの70年間には、206個の上陸台風があります。

 図5は、206個の上陸台風を、月別にまとめたものです。

図5 台風の月別上陸数
図5 台風の月別上陸数

 上陸した台風が一番多いのは8月の73個(年平均1.0個)です。

 次いで多いのは9月の66個、7月の34個です。

 ただ、平成13年(2001年)以降の20年間でいえば、8月と9月は同じ数です。

 また、10月が若干増え、7月が若干減る傾向にありますので、台風の上陸は夏から秋に移動しつつあるといえそうです。

 とはいえ、明日から6月、台風シーズンの始まりの月です。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページに著者加筆。

図3、図4の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図5の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

表の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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