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「謝罪はしない」エリザベス女王の“耐え難い痛み”を願い非難された米准教授 支援表明書に4千人超が署名

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 エリザベス女王が逝去前に医師の観察下に置かれた際、「泥棒で、性的暴行者の大量虐殺帝国の君主がついに死にかけていると聞いた。彼女の痛みが耐え難いものでありますように」とツイートして、Amazonのジェフ・ベゾス氏を含め多数の人々から非難された、米カーネギー・メロン大学ウジュ・アーニャ准教授が、ニューヨーク・マガジンが運営しているオンラインサイトTHE CUTで、ツイートに至った胸中を語っている。

 同サイトは「女王が植民地主義の現実をぼかす役割を果たしたことを批判しているのは、アーニャだけではない。70年にわたる統治の間、彼女(女王)も時々そのことを認めていたが、決してはっきりとは謝罪しなかった。しかし、アーニャの言葉は激しい反発にあった」と前置きをしつつ、アーニャ氏の発言を紹介している。なぜ、アーニャ氏はあのようなツイートをしたのか?

エリザベス女王の“耐え難い痛み”を願った、カーネギー・メロン大学のアーニャ准教授(写真中央)のツイートを批判したジェフ・ベゾス氏。写真:politicaleconomistng.com
エリザベス女王の“耐え難い痛み”を願った、カーネギー・メロン大学のアーニャ准教授(写真中央)のツイートを批判したジェフ・ベゾス氏。写真:politicaleconomistng.com

ファミリーの半数が虐殺された

 記事を読むと、アーニャ氏自身の体験から出た発言であることがよくわかる。

 アーニャ氏の両親(一人はトリニダード、一人はナイジェリア生まれ)は被植民者で、ジェノサイドのサバイバーだというのだ。また、3人の兄弟のうち2人もサバイバーだという。アーニャ氏は10歳までナイジェリアに居住していたが、「常に死者の亡霊がいた。私のファミリーの半数は、女王が殺すために送った銃と爆弾で虐殺された」と受けた痛みを訴えている。

 また、「ビアフラで起きたジェノサイドでは300万人のイボ人(ナイジェリア南東部で最も規模が大きい民族)が殺され、イギリス政府は虐殺を犯した人々を政治的に支援しただけではなく、直接資金も出していた」、「女王が身につけている王冠は搾取や略奪から得られたものであり、国庫全部は殺人や奴隷制によって得られた泥棒のレガシーだ」と断罪している。

 「女王はナイジェリアやトリニダードの独立を監督したのだから、あなたの言うことはおかしい」という人々の声に対しては、アーニャ氏は「これらの国はまだイギリス連邦の国だ。彼らは名目上独立しているが、イギリスは女王に誓いを立てるような傀儡のリーダーをおいた。ナイジェリアという名前さえ、イギリスから来ている。そして、女王は君主制のトップにいた。彼女が日々の決定に関わっていたにしろいなかったにしろ、彼女はそれらの決定のために存在していた。彼女は、彼女の政府が300万人の市民の虐殺で果たした役割に対して、ただの一度も、ごめんなさいと言っていない」と反論している。

 また、アーニャ氏のところには、Nワード(黒人を指す蔑称)、ビッチ(性悪女)、遺伝子的劣等者などの差別的言葉で始まるヘイト・メールも多数送られて来ており、それに対してアーニャ氏は「私はレイシズムと女性蔑視を無視できない」と訴えている。

ベゾス氏は大学に200万ドル寄付

 アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が同氏を批判した件については「ベゾスは、私に対する暴力を扇動した。彼は滅多に自分の声をツイートしないのに、地球の半分がニュースを面白がった時、私をわざわざ選り出した。私がベゾスの注意を引いたのにはまた理由がある。私は、最近、あるイベントでクリス・スモールズに会った。アマゾンで組合を作った若き黒人男性だ。彼と一緒に写真を撮り、ツイートして、彼のことを褒めた。ベゾスはつまらない、ケチな男だ」という見方を示している。

 ちなみに、カーネギー・メロン大学側はアーニャ氏を非難する声明を出して以降、まだ動きを見せていないが、同大学は、昨年、アマゾンから、コンピューター・サイエンス・アカデミーのための寄付金200万ドルを受け取っていたことも報じられている。

謝罪はしない

 最後に、アーニャ氏はこう強く訴えている。

「私は何の謝罪もしない。私は自分の発言を固持する。彼女の統治を直接受けた者として、また、被植民者の子供として、私には、この女性の人生や君主制、そしてイギリス君主制の歴史が全体的に私にどんな意味があるのか述べる権利がある。

 “死者の悪口を言うな”と言うのは、圧制された人々を黙らせ、圧制者をもてはやし、圧制者の歴史の好ましくない部分を削除するために、圧制された人々に向けられる武器だ。

 どんな敬意を、私が彼女に対し、彼女のファミリーに対し、払わねばならないと言うのか。そうね、彼女のファミリーは彼女の死を悼んでいる。私のファミリーもまた(ファミリーの死を)悼んでいるのよ」

支援表明書に4千人が署名

 批判を浴びたツイートだが、様々な大学の教授や研究者、学生など4,000人超が、アーニャ氏をサポートする支援表明書に署名している。支援表明書はアーニャ氏が体験した痛みについて説明し、大学側が出したアーニャ氏を非難する声明は受け入れ難いとしている。

 支援表明書は、最後に、ペンシルベニア大学准教授のネルソン・フローレス博士のツイート「問題は、死を悼むか、無視するか、祝うかということだ」を紹介し、“誰がそれを決めるのか?”と問うている。つまり、誰かの死を悼むのも無視するのも祝うのも、決めるのは個人だと主張しているのだ。同じ問いは、国葬の是非が議論されている安倍元首相の死に対しても当てはまるのかもしれない。

 カーネギー・メロン大学側がアーニャ氏に対し、どんな対応を示すか、注目されるところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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