だんだんジャズ~Eの巻~時代に合わせて咲いていたジャズの”花”を鑑賞する
毎回3曲ずつジャズの曲を聴き比べながら、なんとな~く、だんだんジャズがわかってきたような気になる(かもしれない)というシリーズ企画『だんだんジャズ』の5回目は、Eの巻です。
●Eの巻のポイント
拙著『頑張らないジャズの聴き方』の「StepE」では、19世紀後半の発生から20世紀に大発展するまでをジャズの“大きな幹”にたとえて、“時代のニーズという養分”をたっぷり吸収しながら、その時代時代に合わせた“花“を咲かせたという話を書きました。
さて、どんな“花”が咲いたのか、聴いてみましょうか――。
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♪ベニー・グッドマン「シング・シング・シング」
アフリカン・アメリカンのコミュニティで温められてきた“ジャズ”という音楽が、アメリカ全土で認められるようになったのは1920~30年代。そのときのスタイルは“スウィング“と呼ばれていました。まずは、“キング・オブ・スウィング”と称されたベニー・グッドマン楽団の代表作「シング・シング・シング」を聴いて、“スウィング”というスタイルの特徴を把握してみましょう。一般的に「ジャズはアフター・ビート」と言われますが、“スウィング”はダンス音楽であることを優先させているために、「1・とぉ・2・とぉ……」と頭にアクセントを置くリズム・スタイルを用いています。おそらくそうすることで、ポピュラー音楽としての地位を確立できたのでしょう。その一方で、ジーン・クルーパー(ドラム)とベニー・グッドマン(クラリネット)の熱いバトルなどは後年のビバップやフリー・ジャズさえ彷彿とさせると思うのは、ボクだけではないのではないかと……。
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♪チャーリー・パーカー&ディジー・ガレスピー「ホットハウス」
基本的に“ダンス音楽”だった”スウィング”をベースにして、そこにいかに”個人技”を反映させられるのかという実験的な試みを施したのが、ビバップと呼ばれる”花”でした。1940年代初頭に盛り上がったこのムーヴメントは、一気に”ジャズ”の在り方を変えてしまいます。つまり、それまで伴奏、BGMという認識が強かった音楽を、単体で存在できるものへと発展させたわけです。この動画に登場するチャーリー・パーカー(アルト・サックス)とディジー・ガレスピー(トランペット)は、ビバップを「創始した」と言っても過言ではないオリジネーター。こうした演奏が一般に知られるようになって、”ジャズ”=”アドリブ”という認識が定着したというわけなのです。
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♪ザ・デイヴ・ブルーベック・クァルテット「テイク・ファイヴ」
1950年代後半になると、ビバップのアドリブ重視という一派に反旗を翻すスタイルが打ち出されます。その先駆けであるマイルス・デイヴィスは、ビバップの特徴だった”ホット”なアドリブの応酬に固執することへのアンチテーゼとして”クール”というスタイルを提唱。音楽理論にのっとった構築性の高い作品をもとにした演奏をめざすようになって、ジャズに新たな”花”を咲かせてくれました。デイヴ・ブルーベック(ピアノ)も、現代音楽の要素をジャズに取り込むなど、積極的に”クール”なジャズを発展させようとした功労者の1人です。彼の代表作であるこの「テイク・ファイヴ」は、4分の5拍子(4分の3拍子+4分の2拍子)という、それまでのジャズでは用いられなかったリズムと、(後半の展開部分では)コード・チェンジをほとんど行なわないモード的な手法を取り入れるなど、随所に斬新なアイデアを盛り込み、ジャズを変えた曲として長く愛されることになります。
●まとめ
Eの巻では1930年代、40年代、50年代を代表するジャズの”花”を取り上げました。
ファッションと同じように、ジャズにも”30年代風”とか”40年代風””50年代風”という異なるスタイルがあるということを知ることが、次のステップへの足がかりになります。
さらにこの後、1960年代、70年代、80年代……とジャズはまた異なる”花”を咲かせることになるわけですが、それはいずれご紹介しましょう。
ここに挙げた3曲は、2012年に上梓した拙著『頑張らないジャズの聴き方』の「ステップ編」で欄外に掲載していたものを参考にしながら、新たにYouTubeを探し直して選んだものです。