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閻魔大王?クロG?秋の夜の超美声の主は私です=エンマコオロギ

天野和利時事通信社・昆虫記者
閻魔大王を思い起こさせるエンマコオロギの正面顔。

 顔は憤怒の閻魔(えんま)大王。草むらから飛び出す脂ぎった姿はまるでクロG。そしてその実態は、秋の夜に「コロコロリー」と優しい美声を響かせるエンマコオロギ。

 エンマコオロギの「エンマ」は閻魔様のこと。正面顔は、巨大な目玉をギロつかせ、眉を吊り上げた閻魔大王の怒りの表情を思わせる。

 また、黒光りする体、素早い動きは、クロGを思い起こさせる。エンマコオロギの別名「アブラコオロギ」は、油を塗ったようにテカテカした感じを言い表したものだろう。

 ◇スズムシより美声との評判

 秋の鳴く虫の声を聞いてもらった人たちに、一番心地よい鳴き声の虫はどれかとたずねたある調査によると、1番人気は知名度の高いスズムシなどを抑えて、エンマコオロギだったという。映画「ラストエンペラー」に登場したように、中国では古くからエンマコオロギが、鳴き声を愛でることを目的に飼われていた。

 見るからにか弱い感じのスズムシが「リーンリーン」と美声を響かせるのは、イメージ通りだが、エンマコオロギの心休まる優しい鳴き声は、いかつい面相と体つきに似つかわしくない。

黒光りするエンマコオロギの体は、クロGのようにも見える。
黒光りするエンマコオロギの体は、クロGのようにも見える。

 草むらからコロコロリーと、優しい音色が聞こえると、すごく可愛い虫が鳴いているのだろうと想像をめぐらす人もいるだろう。カップルでの夜の散歩で、エンマコオロギの鳴き声に聞きほれた彼女が「どんな虫なのかしら」と尋ねてきたら、「Gみたいなエンマだよ」などと雰囲気ぶち壊しの説明をしてはいけない。「ピノキオの話に出てくるみたいな、優しいコオロギかもね」などと、お茶をにごしておくのがいい。

 ◇コオロギの交尾は女性上位

 エンマコオロギのカップルは、メスがオスに馬乗りなって交尾する、女性上位、かかあ天下の関係だ。体格もメスの方が一回り大きい。下になったオスは、お尻を突き上げて、精子の詰まった袋(精包)をメスに受け渡す。メスはこの袋から徐々に精子を吸収していくという。コオロギ、キリギリスの仲間は通常、この交尾体勢を取る。虫の交尾形態は、いろいろあって面白い。

エンマコオロギの交尾。下になったオスがお尻を突き上げて、メスに精子の袋を渡す。
エンマコオロギの交尾。下になったオスがお尻を突き上げて、メスに精子の袋を渡す。

お尻に精包を付けたエンマコオロギのメス。
お尻に精包を付けたエンマコオロギのメス。

これが精包。まさに精子の袋だ。
これが精包。まさに精子の袋だ。

翅を立てて鳴くエンマコオロギのオス。メスを誘う時の鳴き声は特に美声だという。
翅を立てて鳴くエンマコオロギのオス。メスを誘う時の鳴き声は特に美声だという。

 たいていの直翅目の虫(バッタ、キリギリス、コオロギなど)について言えることだが、コオロギの世界でも、メスの方がオスより生命力が強く、ペアで飼育していると最後まで生き残ったメスが弱り切ったオスを食べてしまうこともある。そんな話も、彼女にはしない方がいいかもしれない。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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