しくじり就活6万人の敗者復活戦~既卒でも諦めなければワンチャンあり
既卒だから「死亡フラグ」は大誤解
大学生の新卒就活は長く売り手市場が続いています。来春卒業予定の現4年生(2019年卒)も春の温かさの中で就活を進めています。
そんな中、わずかな北風さえも寒く感じているのが、未内定のまま卒業した学生です。キャリア関係者の間では、今春卒業した2018年卒、あるいは昨年以前に卒業して一度も就職していない若手社会人を既卒者と呼びます。
なお、一度就職して数年以内に離職した若手社会人は第二新卒と呼びます。
※キャリア関係者や転職情報会社などによっては、既卒者ないし第二新卒をひとまとめにしていることもあります。本稿では上記の定義により、以後、記事をまとめていきます。
第二新卒だと一度は就職しています。就職してから社会人としての基礎を新入社員研修で受けているため、社会人としての基礎はできています。そのため、第二新卒を欲しがる企業は意外と多くあります。
一方、既卒者だと、第二新卒と異なり、新入社員研修を受けているわけではありません。そのため、敬遠する企業は第二新卒よりも多くなります。
何よりも、そのことを実態以上に重く受け止めているのが、当の既卒者です。
ただでさえ就活に失敗した喪失感があるところに、増幅させているのが、売り手市場です。順調に決まっている同級生の様子を見て落ち込まない既卒者はいません。
かくて、落ち込んだまま、春を過ごすことになります。さらにこじらせると、それが数か月、数年がかりとなってしまいます。
中には、先行き不安から「就職できなかった、もうこれは死亡フラグ決定だ」と落ち込む既卒者も。
いや、大丈夫。世の中、案外どうにかなるものです。
売り手市場でも既卒者は毎年5~6万人は出る
既卒者の数は就職状況が好調な売り手市場の年だと減り、就職氷河期だと増えます。
そのことを示すのが文部科学省の学校基本調査。
就職者:2012年からは「正規の職員等」「正規の職員等でない者」に分割。本稿の表では「正規の職員等」の数。なお、「正規の職員等でない者」は「雇用期間が1年以上の期間の定めがある者で、かつ1週間の所定労働時間が40~30時間の者」
専修:専修学校・外国の学校等入学者
一時的:一時的な仕事に就いた者/アルバイトなど
左記以外:就職でも進学でもない者/進学準備中、就職準備中、家事手伝いなど
不詳:不詳・死亡の者/進路届の未提出者などで進路状況が不明
就職率:卒業者に占める就職者の割合
就職を準備する既卒者は、厳密には「左記以外」となります。しかし、アルバイトをしながらの既卒者もいるでしょうし、ひとまずは専門学校に進学した、という人もいるはず。
様々な事情を考えると、「専修」「一時的」「左記以外」「不詳」を全て足した数が既卒者の数に近い、と考えられます。
合計数は2007年に10万4076人、就職氷河期の影響がまだあった2012年は12万7105人。しかし、以降、売り手市場に転じると合計数も減少していきます。2013年に11万676人、2014年9万8879人と減り続け2017年は6万3856人。
もちろん、合計数が既卒者というわけではありません。純粋にキャリアチェンジを図るため、専門学校に入り直したという人もいるでしょうし、家事手伝いや家業を継ぐという人もいます。
そうした数を差し引くと既卒者は2017年だと5万人前後いるもの、と推定されます。
氷河期と売り手市場では違う既卒の扱い
さて、既卒者については、現在も「新卒で就職できないと死亡フラグ」との言説があります。
これは、どういうことか、と言いますと。
「企業は新卒者を欲しがる」→「既卒者は新卒ではないから対象外」→「既卒者は転職市場へどうぞ」→「転職市場はスキル重視。既卒者は特にスキルがあるわけでもない」→「就職先が見つからない」
この悪循環でなかなか就職できない、という事情がありました。
これでは既卒者は就職できないまま、ずっとフリーターということにもなりかねません。
そこで2010年、政府は雇用対策をまとめ、既卒者も新卒扱いとするようにしました。
「緊急対策は8月30日、政府の新卒者雇用・特命チームが経済対策の基本方針に盛り込む形でまとめた。指針の改正で卒業後3年間は新卒として企業の採用試験に応募できるようにし、正社員として採用した企業には奨励金を出す」(2010年9月1日付け河北新報朝刊)
そのため、現在では新卒とは卒業予定者に加えて卒業後3年以内の既卒者・第二新卒を含むようになっています。
既卒者を新卒に含む政府の雇用対策は就職氷河期ということもあり、賛否両論でした。と言いますか、企業側からすれば卒業予定者が多数押し寄せている中で既卒者を採用するメリットがあまりなかったのです。
一応、既卒者を採用すれば助成金を出す、ということでもあったのですが。
先ほどの河北新報記事では次のようにも伝えています。
これに対して宮城県内のメーカーの採用担当者は「国の助成金も、人材を育てる経費を考えると魅力が薄い」。別の企業の担当者も「新卒者と比べてよほど優秀だと思えなければ、既卒者を採るメリットがない」と語る。
就職情報サービスの毎日コミュニケーションズ(東京)の栗田卓也氏は緊急対策を評価しつつ、「企業側が既卒採用にどれだけ対応するか分からず、形骸(けいがい)化が心配だ。国が企業への働き掛けと具体的な支援をすることが大切だろう」と指摘する。
ところが、その後、2012年ごろから学生が有利な売り手市場に転じます。こうなると企業側からすれば既卒者を門前払いにする、というわけにもいきません。
かくて現在では既卒者も含めて受け入れる企業が多数となっています。
マイナビの「2017年度 既卒者の就職活動に関する調査」によると、受験した企業の採用活動における既卒者への対応について「現役大学生に対する対応とほとんど変わらないように感じた」33.9%、「企業によって現役大学生と違った対応をしていると感じることがあった」30.8%、「現役大学生に対する対応とは違っていると感じることが多かった」18.2%となっています。
既卒者イコール負け組ではないケースも増加中
マイナビの既卒者調査では、既卒者が在学中の就活で失敗しただけではないことを示しています。
上記の図は、マイナビの「既卒者の就職活動に関する調査」の中にある「在学中の活動分布」について2013年度から2017年度の経年変化を示したものです。
既卒者の一般的なイメージで言えば、在学中に就活するも、ことごとく未内定。そのまま卒業した、というものでしょう。
そういえば、大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』の主人公、立花瀧君も隕石衝突の8年後は就活するも苦戦する、という設定でした。
さて、このイメージ通りとなるのが「在学中未内定者」です。2013年度は57.4%と半数を占めています。それが年を追うごとに減少。2017年度は39.1%と3項目中トップですが、2013年度から18.3ポイントも落ちています。
一方、「在学中内定者」、つまり、内定は得たものの辞退した人が2013年度は24.8%だったものが2017年度は38.0%と「在学中未内定者」に並びかけています。
それから「在学中活動しなかった」も2013年度17.8%→2017年度22.9%とじわり増えています。
このデータは既卒者が就活負け組とは一概に言えなくなりつつあることを示しています。
リクナビは2009年卒まで利用可、マイナビ等は新卒3年以内と同じ
さて、既卒者は落ち込む気持ちを立て直したうえで、どう就活戦線に復帰すればいいでしょうか。
やはり、できるだけ多くの企業を見て回ることが必要です。
ここで、既卒者だけでなく多くのキャリア関係者も誤解しているのが、就職ナビサイト。
新卒者なら誰もが使いこなす就職ナビサイトですが、卒業と同時に使えなくなる。そう勘違いしている人が多数います。
実は今回の記事を書くきっかけになった、北海道の学生X君も同じでした。
確かに、就職ナビサイトは学生の年度が変わるとサービスを終了します。
しかし、その場合、下の年度のものに切り替え登録をすればいいだけです。
主要7社について、既卒者が使えるかどうかを調査したところ、主要7社、すべて使えました。どの年度まで遡れるか、それは以下の通り。
リクナビ 2009年
ブンナビ 2013年
マイナビ、キャリタスナビ、ダイヤモンド就職ナビ 2015年
あさがくナビ 2016年
JOBRASS 2017年
一番、幅が広いのはリクナビで2009年卒まで利用可能でした。
多かったのは卒業後3年以内の新卒定義と同じ2015年卒でマイナビ、キャリタスナビ(旧・日経就職ナビ)、ダイヤモンド就職ナビの3社が該当。
ナビサイトによっては既卒者OKのタグなどもあります。
就職ナビサイトの功罪は色々と議論されています。
が、やはり企業探し、という点では一番便利であることは言うまでもありません。運営する就職情報会社側が積極的に宣伝している形跡はありません。
が、利用登録の段階で、古い卒業年次の選択肢がある以上は利用可能です。
切り替え、と言っても、前のデータがそのまま使えるわけではありません。一から登録し直す必要があります。その手間はかかりますが、いくつかのナビサイトは登録してみるといいでしょう。
新卒向け合説は既卒者も利用可能
就職ナビサイトと同じく、新卒向けの合同説明会も利用可能です。
合同説明会はどの企業、どの地域でも4月以降の合同説明会は例年、参加者数が減る傾向にあります。私も合同説明会取材をしていますが、4月以降の開催は参加企業がかわいそうになるくらい、がら空きです。
それもあって、既卒者が行っても嫌がられることはありません。企業によってはむしろ歓迎でしょう。
合同説明会は事前予約なしでも、参加可能です。就職情報会社によっては既卒者のチェック項目を設けています。
新卒応援ハローワーク、ジョブカフェが公的支援
公的な機関の就活支援としては新卒応援ハローワークとジョブカフェがあります。
新卒応援ハローワークは厚生労働省が所管。各都道府県に最低1か所は設置されています。ハローワークは中高年層のイメージが強いため、大学生や既卒者、20代~30代の若年者層に特化しています。
企業紹介だけでなく、面接対策、エントリーシート対策など各種対策講座も多数実施しています。いずれも無料。
ジョブカフェは各都道府県が所管。地方によっては商工会議所や新卒応援ハローワークなどが連携しているところもあります。
こちらも新卒応援ハローワークとほぼ同じ。
いずれも公的な機関での就職支援です。
新卒応援ハローワークやジョブカフェによっては大規模な企業合同説明会を開催することもあります。
既卒者向けサイトも続々と登場、拡大中
民間企業も既卒者向けの就職支援サービス・サイトを開設しています。
これだけ数があるので全部を利用するのは不可能でしょう。それぞれ見たうえで、相性のよさそうなところを選ぶといいでしょう。
カウンセラーとの面談のある就職支援サービスだと、話をしながらサポートしてくれる、という点では心強いです。
ただし、企業・サービスによっては、面談が無料である代わりに、求人情報を出した企業から掲載料を貰っています。掲載料を貰うのは当然としても、既卒者と企業のマッチングを考えて紹介するのがあるべき姿です。
どの社も、この方針をうたっていますが、カウンセラーによっては出稿企業をごり押しする(あるいは、カウンセラー側にその気がなくても既卒者がそう捉えてしまう)こともあります。仮にそうだったとしても、どの企業を選ぶかは慎重になって考えた方がいいでしょう。
既卒者就活は、こだわりと時期がポイント
既卒者が就活を進める場合、こだわりと時期が大きく左右します。
まず、こだわりについて。憧れの企業・業界で就職したい、好条件の企業がいい、地元がいい、などなど、既卒者によってこだわりは様々です。その逆にブラック企業は嫌、という方も多いでしょう。
しかし、いくら売り手市場で既卒者にも開かれてきた、と言っても、周回遅れであることには変わりありません。
そのため、こだわる部分と変えられる部分、それぞれ順番付けをしたうえで整理した方がいいでしょう。
たとえば、地方の既卒者だと多いのが地元就職です。しかし、地元就職だと、そもそも企業数が少なく、金融機関など大企業はまだ既卒者を敬遠するところもあります。と言って、好条件の企業は少なくなります。
それから、都市部だと、IT業界を中心に求人は多数あります。が、IT業界や流通・小売などはブラック業界・企業とのイメージが強すぎます。実際は企業によってはそんなことなどなく、むしろホワイトなのですが。
こうした点も含めて企業選択をしていくべきです。
それから2点目の時期について。企業によっては「すぐ働いてほしい」というところもあるでしょうし、「来春の採用とするので、それまで待ってほしい」という企業もあるでしょう。では、どこまで既卒者就活を進めるかどうか。これは、一人で決めるのではなく、ご両親や各支援サービス・サイトのカウンセラーなどとも相談のうえで考えてください。
時期に幅が取れるようであれば、その分だけゆっくりと企業・業界選択をすることができます。もちろん、その間の生活費はしっかりかかります。その兼合いをどこまで取れるのか、そこは考えた方がいいでしょう。
意外と知られていないのが既卒者就活です。しかし、広く見ていけばきっと合う企業は既卒者にもあるはず。本稿が参考になれば幸いです。
付記(2018年4月28日・修正)
Yahoo!ニュース個人編集部の指摘を受け、誤字を修正しました。