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教員の働き方改革「タイムカード導入」で得するのは管理する側だけかもしれない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 長時間労働が問題になっている教員の働き方について中央教育審議会(中教審)の特別部会は29日、緊急提言をまとめた。翌日30日付けで新聞各紙が報じているのが、いずれも「タイムカード」の文字が見出しを飾っている。緊急提言の目玉はタイムカード、ということらしい。

 しかし、タイムカードは教員の長時間労働の解消に、ほんとうに効果があるのだろうか。効果があるから導入をすすめようとしているのだろうか。

 文部科学省(文科省)の教員勤務実態調査(2016年度 速報値)によれば、タイムカードで退勤時刻を記録している学校は小学校で10.3%、中学校では13.3%となっている。すでに導入している学校があるのだ。その実態からの効果を検証したうえでの提言なのか。どうも、そうではないらしい。

 提言は、上記の導入状況を示し、それに対して「いまだ限定的である」と指摘している。そして、「こうした実態も踏まえ、服務監督権者である教育委員会は、自己申告方式ではなく、ICTやタイムカードなど勤務時間を客観的に把握し、集計するシステムが直ちに構築されるよう努めること」と続けている。

 タイムカードの導入で教員の労働時間が減ったのかどうかについては、まったく触れていない。労働時間の短縮が期待できる、とも述べていない。

 提言がタイムカード導入に期待しているのは、「集計システムが直ちに構築される」ことでしかない。つまり、管理の強化である。

 それによって何が起きるのか想像するのは、難しくない。タイムカードの記録で退校時間が遅くなっている教員がいれば、校長は「早く帰れ」と命令するようになるだろう。

 教員の長時間労働是正を検討している自民党の議員連盟は昨年、午後6時までに退校できる体制づくりを求める提言を行っている。6時に退校していない教員がいれば、強制的に帰らせ、「6時退校を実行している」と胸をはれることになる。タイムカードに記録される教員の労働時間は、簡単に減らすことが可能にになるのだ。

 ただし、ほんとうに労働時間は減るのか。教員が長時間労働をしているのは、長時間でなければ片付かない仕事があるからだ。その仕事量が減らなければ、長時間労働の問題は解消しない。

 文科省は8月23日、教員の負担を軽減するために、配布物の印刷や会議の準備などの事務作業を代行する「スクール・サポート・スタッフ」を全国の公立小中学校に配置するための予算を概算要求に盛り込んだ。しかし、その数は3600人にすぎない。公立小中学校は、全国に約2万校ある。2万校に対して3600人なのだから「焼け石に水」でしかなく、教員の長時間労働を解消することはできない。

 こんな対策しかないにもかかわらず、タイムカードを導入して退校時間を厳しく守らせろ、というのだ。それで何が起きるか。教員は仕事を自宅に持ち帰ってやるしかなくなる。長時間労働は、なくならない。

 得をするのは、校長や教育委員会など管理する側だけだ。長時間労働による過労死が起きたとしても、「タイムカードの記録では長時間労働にはなっていない」と自らの責任は回避できるからだ。

 過労死で残された家族にしてみれば、公務災害を訴えても、タイムカード記録を理由に、ますます認定されにくくなる。教員側にとっては不利な状況となりかねない。

 はたして、誰のための提言なのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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