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ジビエの生食はたいへん危険です

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

日本には生魚を食べる文化があり、中でも刺身や寿司などは諸外国にもよく知られた人気の料理となっております。最近は、お店でも獣鳥肉も魚と同様に提供されることがあり、食品衛生上の問題からしばしば話題になることがあります。

魚を生で食べる場合にも食中毒や寄生虫症の危険はありますが、命にかかわるような食中毒のリスクが低いことや衛生的な調理手順を踏むことで、一般の方も比較的安心して食べることができます。

日本人は刺身で慣れているせいか、肉を生で食べることに抵抗が少ないようですが、一般的に肉は生食をするのがたいへん危険な食材であるということが十分伝わっていないように思います。

牛のレバ刺しで食中毒が起こったことは記憶に新しいですが、生食できるように育てた馬肉など一部を除いて、豚や鶏肉も同じく生で食べるのは危険な食材です。法律で禁止されているかいないか以前に生で食べることを想定していない食品と考えて欲しいと思います。

■何が危険なのか

豚肉は寄生虫がいるので生食は不向きだということは知っている人は多いと思います。中には寄生虫や食中毒があることはわかっているが、それを承知で個人の自由だから食べても良いだろうという意見もあるようです。確かに、個人の責任の範囲で個人だけが危害にあうのであればもしかしたら許されるのかも知れません。しかし、肉の生食は個人の責任だけで済まないことがあるということを多くの方に知っていただきたいと思います。

牛肉は O157をはじめとした病原性大腸菌に汚染されていることがありますが、この細菌は少ない病原菌数でも食中毒を引き起こすという特徴があります。症状も深刻で子どもや体の弱い人では命に関わるようなこともあります。また、鶏肉ではカンピロバクターという細菌も少ない菌数で発症し、感染後しばらくしてから神経に障害をおこすギランバレー症候群を引き起こす事もあります。

O157 やカンピロバクターは動物の腸内に住んでいる細菌であり、汚染された食材を食べることで発症するのですが、菌が増殖して食中毒を起こす細菌とは異なり、屠殺後の新鮮な肉であっても(むしろ新鮮なほうが危険かも知れない)食中毒のリスクは低くならないという特徴があります。

なので、新鮮な生肉を選ぶ刺身のような調理法は食中毒予防上たいへん危険な食べ方なのです。

そして、ここが一番大切なことなのですが、これらの食中毒は人から人への感染の危険性があり、自己責任ではすまないという問題があるのです。大人が肉を生食し食中毒となり、それが身近な子どもに感染し、命を失う・・・そういう危険性があるのです。なので、安易に肉の生食をすすめるようなことがあってはならないと私は考えます。

■野生動物の肉は更に危険

衛生管理に気を遣っている家畜の肉でも危険なのですから、野生動物の肉を生で食べるのはより危険な行為であると考えて良いでしょう。 最近はジビエが比較的楽に手に入るようになってきておりますが、誰かが生で食べている姿をみてもマネをしないようにして欲しいと思います。

厚生労働省では以前よりジビエの生食に対して次のような注意喚起を行っております。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032628.html

ジビエ(野生鳥獣の肉)はよく加熱して食べましょう

お知らせ

・ジビエとは、シカ、イノシシなど狩猟の対象となり食用とする野生鳥獣、又はその肉のことです。

・生または加熱不十分な野生のシカ肉やイノシシ肉を食べると、E型肝炎や腸管出血性大腸菌症の食中毒のリスクがあるほか、寄生虫の感染も知られています。

・ジビエは中心部まで火が通るようしっかり加熱して食べましょう。また、接触した器具の消毒など、取扱いには十分に注意してください。

肉の生食は危険であり、個人の健康に留まらず周囲に迷惑をかけることもあるというのを是非多くの方に知っていただきたいと思います。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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