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ラリー王者、ローブ&シトロエンが喧嘩レースに殴り込み【WTCC】

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
シトロエンはWRCとWTCCに参戦 【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】

2014年はモータースポーツ界にとって、どんな1年が待っているのだろうか。自動車メーカー、バイクメーカー共に本格的なモータースポーツ活動再開に積極的な動きを見せ始めている2014年は業界が「V字回復」する1年になるか。今年のモータースポーツ界を沸かせてくれそうな話題をピックアップする「Go! for 2014」。Vol.2はシトロエン参戦で必見の「WTCC(世界ツーリングカー選手権)」を取り上げる。

WTCC(世界ツーリングカー選手権) 【写真:WTCC】
WTCC(世界ツーリングカー選手権) 【写真:WTCC】

ラリーのシトロエンがワークス参戦!

「WTCC」は2005年から始まったツーリングカー(乗用車ベースのレーシングカー)によるFIA(国際自動車連盟)の世界選手権だ。これまで、BMW(ドイツ)、アルファロメオ(イタリア)、セアト(スペイン)、シボレー(アメリカ)、ラーダ(ロシア)、そして日本のホンダなどがワークス体制を敷いて参戦してきた選手権に2014年は新たなマニュファクチャラー(自動車メーカー)として、フランスの「シトロエン」がワークス参戦する。

シトロエン・Cエリーゼ WTCC 【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】
シトロエン・Cエリーゼ WTCC 【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】

「シトロエン」といえば、ラリーを主なモータースポーツ活動の舞台としてきたメーカー。2001年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦し、8度の世界チャンピオン(マニュファクチャーらズタイトル)を獲得するなど、近年のラリー界で王朝を築いてきた自動車メーカーだ。シトロエンのモータースポーツ活動を担う「シトロエンレーシング」は2014年、WRCのラリー出場に加えて、レースの世界にも挑戦し、世界選手権のダブルタイトルを狙う。

9度の世界チャンピオン、ローブが殴り込み!

セバスチャン・ローブ【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】
セバスチャン・ローブ【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】

「シトロエン」のWTCC参戦にあたって、エースドライバーとして起用されるのが、ラリードライバーとしてWRCで9度のワールドチャンピオンを獲得したラリーの帝王、セバスチャン・ローブ(フランス出身・39歳)だ。

フランス生まれでフランスの自動車メーカー「シトロエン」一筋でラリーを戦ってきたローブ。9度ワールドラリーチャンピオン(しかも9連覇!)を獲得した名手のWTCC参戦は2014年のモータースポーツ界で最も関心の高いトピックスの一つと言える。

ラリー王者のレース挑戦。その実力や如何に?という所だが、ローブは既に2005年〜06年にルマン24時間耐久レースに総合優勝を争うプロトタイプカーのクラスで参戦。2006年には総合2位表彰台を獲得するほどの腕前の持ち主だ。さらに、F1やルマンなどサーキットレースのトップドライバーやラリー界のスターがドライビングスキルを競う大会「レース・オブ・チャンピオンズ」ではF1ドライバーやルマン王者を相手に3度優勝を飾っており、4輪ドライバーの中で「セバスチャン・ローブこそ最高のドライバー」という呼び声が高い。

豪快なローブの走り【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】
豪快なローブの走り【写真:プジョー・シトロエン・ジャポン】

そんなドライバーの参戦だけに、本人にとってはルーキーイヤーながら否が応でもモータースポーツファンの注目が集まるし、興味は尽きない。果たして、レーシングドライバーとしてどこまでの可能性を披露してくれるのか楽しみで仕方がない。

実はWTCCに他にも居る、ラリードライバー

接触上等、アクセルはベタっ踏みでどこまでも攻める走りが見所のWTCCは「喧嘩レース」の異名をもつ。WTCCはF1では考えられないぶつけ合い、押し合いも許されてしまうアグレッシブなレースで、テレビ放送における面白いコンテンツ作りをコンセプトにしているため、接触やクラッシュシーンはこのレースの売りの一つになっている。

接近戦はWTCC最大の魅力! 【写真:WTCC】
接近戦はWTCC最大の魅力! 【写真:WTCC】

そんなWTCCには元F1ドライバーなども居るが、実はラリー出身のドライバーも数多く参戦している。セバスチャン・ローブのチームメイトで、「シボレー」から移籍するイヴァン・ミュラーはダ・カールラリーやWRCに参戦した経験を持つ他、フランスの氷上レースでは10回のチャンピオン経験を持つ巧みなコントロール能力を持ったドライバーだ。他にもステファノ・ダステ(イタリア)やレネ・ミュニッヒ(ドイツ)などサーキットレースに出る前にラリーに挑戦していたドライバーも居る。

ラリー経験者は接触で押し出されても、皆一様にアクセルを緩めず無理矢理コースに戻ってくるので、セバスチャン・ローブはその速さだけでなくラリー仕込みのダート走行も見所になってくるだろう。実はこれを結構楽しみにしている人は多いはず!

セバスチャン・ローブは「シトロエン」で、WTCC王者イヴァン・ミューラー、そして昨年スポット参戦ながら優勝した若き新鋭、ホセ・マリア・ロペス(アルゼンチン)と共に初年度からワールドチャンピオンを狙ってWTCCを戦う。

シトロエン参戦に立ち向かうホンダ

2014年はWTCCの車両規定が大きく変更される。タイヤの幅が広くなる他、最低地上高も昨年比で20mm下げられ、車体の重量も軽くなる。そしてエアロパーツで武装したスパルタンなフォルムになる他、エンジンは自由度が増し、エアリストリクターの径が3mm広くなることでパワーアップする。昨年までは市販車により近いルックスのマシンだったが、2014年からのマシンはよりレーシーになるので楽しみだ。

2014年用シビックWTCCのイメージスケッチ 【写真:本田技研工業】
2014年用シビックWTCCのイメージスケッチ 【写真:本田技研工業】

そんな中、昨年から本格参戦した「ホンダ」は新規定に合わせて「シビックWTCC」をイチから作り直し、「シトロエン」を迎え撃つことに。昨年はマニュファクチャラーズタイトルは獲得できたものの、ドライバーズタイトルはイヴァン・ミューラーに奪われてしまっただけに、今年は新参者のシトロエンに負けるわけにはいかない。1月末に行われるシェイクダウンから気の抜けないシーズンになりそうだ。

喧嘩レース新時代、鈴鹿はなんと初のフルコース開催

「ホンダ」「シトロエン」「ラーダ」のワークスに加えて、プライベート体制で「シボレー」「セアト」「BMW」などのマシンが参戦予定の2014年シーズン。ここ数年は実力のあるワークスチームが1メーカーだけというシーズンが続き、お世辞にもF1と並ぶ世界選手権とは言えないものだったが、WTCCは「シトロエン」とセバスチャン・ローブの参戦を機に新しい規定の下、新たな戦国時代の幕開けを告げる。

2014年シーズンは4月にモロッコのマラケシュ市街地コースで開幕し、11月のマカオ市街地コースの最終戦まで全12ラウンド24戦で戦われる。日本ラウンドは今年も10月25日(土)26日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開催されるが、今年はこれまでの東ショートコースでの開催ではなく、何とF1と同じフルコース(1周約5.8km)での開催となる。よりエキサイティングなレースが期待できるWTCC新時代!レースファンもラリーファンも今年の日本ラウンドのレースウィークは予定を開けておいた方が良さそうだ。

【WTCC】

FIA世界ツーリングカー選手権。2005年から現在のWTCCとして開催されている。テレビ中継、コンテンツ製作をヨーロッパのスポーツ専門局「Eurosport」が担う。1レースはレース距離が50km前後と短いため、スタートからゴールまでエキサイティングなレース展開が魅力。アグレッシブなドライバーの限界を超えたドライビングが魅力であり、喧嘩レースと形容されている。

公式サイト

「シトロエン」公式サイト

「ホンダ」WTCC公式サイト

「鈴鹿サーキット」WTCC公式サイト

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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