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「youtube」でイメトレ。アジアカップ未出場の太田宏介が備えるヒーローの条件

河治良幸スポーツジャーナリスト

3連勝でグループリーグ首位突破を果たした日本代表はUAEと準々決勝を戦う。ここまで出場が無い選手たちもチーム一丸の意思を示す中で、太田宏介も前向きに闘志を燃やしている。

前日会見に出席した長友佑都が「明日もチームのために走ります」と宣言した練習後、ミックスゾーンの一番最初のエリアで同じ左サイドバックの太田を呼び止めた。「はい!」と返事し、柵の前にやってきたレフティに「ここまで出番はないけれど、4年前も準々決勝からサブの選手たちが勝利に貢献した。ここから3試合に臨む心境は?」と質問してみると、待っていたかの様に回答してきた。

「ずっと見ていたし、ベスト8の時に伊野波くんが決めたシーンを今日の昼にもyoutubeで見たりして・・・今のところ出番は無いですけど、常に出たい気持ちは持っていますし、いつチャンスが来てもいい様に準備はしているつもりです」

開催国カタールと対戦した前回の準々決勝は厳しい試合となった。吉田麻也が退場し、2−2で迎えた89分に右サイドバックのポジションからするすると上がり、香川真司がドリブルを仕掛けて生じたこぼれ球をゴールに押し込んだ。伊野波本人も「自分がなぜそこにいたか分からない」と語る決勝ゴールが、土壇場でチームを救ったのだ。

太田はそのシーンをそのまま、具体的なプレーイメージとして意識しているわけではない。どういう形であれ、それまで出場機会の無かった選手がチームを救い、ヒーローになる。その成功イメージを描きながら、試合のモチベーションを高めていたのだろう。

具体的なイメージをあげるならば、やはり太田の武器である左足のクロスによるアシストだ。「守備のバランスをしっかり保ちつつも、タイミング良く上がった時に・・・自分はクロスが武器だと思っているので」と太田は頭の中でそれを思い描く様に語る。

「アーリーで上げるのも1つの選択肢だと思うし、岡ちゃん(岡崎)とかも味方が外で持った時に動き出しているのを見ているから、自分が出た時は上がった時にクロスで終わるというのを出していきたい」

その意気込みが言葉だけでないのは、UAEに対する彼なりの分析からも明らかだ。左サイドバックというポジションだけに、途中からでもどれだけ出場の可能性があるか分からない。それで、いざ投入された時にそのチャンスをものにする、チームを勝利に導くという意識を折れずに持ち続けている。

アギーレ監督は基本的なチームの方向性を繰り返し強調する代わりに、試合中の判断は選手に委ねている。それは現在の日本代表に国際経験が豊富な選手が多いことも起因しているが、太田は「僕はそんな繊細なタイプではないから、何も考えずにシンプルにゲームに入れる自信はあります」と主張する。

「活かしてくれる選手がたくさんいるので、自分がタイミング良く上がればしっかりパスは出て来ると思うし、そういうイメージもできている」

サブの選手がどれだけ試合のイメージを高め、闘志を燃やしていても、彼らにいつ出番がやってくるかは分からない。もしかしたら、出場チャンスが無いまま6試合を終えるかもしれない。しかし、いざ出場した時にチームの勝利に貢献し、ヒーローになれる選手というのは、そうした状況でも腐らず、折れず、前向きにトレーニングを続け、ベンチからも試合に気持ちを入れていける選手なのではないか。

おそらく、それぞれの選手がチームの勝利を願いながら、強い気持ちで出番を待ち続けているはずだが、太田もヒーローの条件を持った1人だろう。そういえば少し前に太田が『ドラゴンボール』の登場キャラクターに似ているという意見を目にした。左足のクロスという"必殺技”を備える太田が、日本を勝利に導くヒーローになる姿を思い浮かべた前日練習後の取材だった。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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