Yahoo!ニュース

「結束」と「計算」で強敵に勝てるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
リオ五輪本大会出場を決めたUー23日本代表(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

カタール、ドーハで行われたリオ五輪最終予選(アジア最終予選を兼ねたU23アジア選手権)。Uー23日本代表は決勝戦で韓国を逆転の末、3-2と下し、リオ五輪出場権を手にしている。サッカー男子は96年のアトランタ大会以来、6大会連続の出場となる。

「今回は五輪出場は厳しい」と下馬評は低かったにかかわらず、しぶとく勝ち上がった。選手たちは一躍、脚光を浴びることになり、「手倉森監督を代表監督に!」という報道まで出た。

しかし、後者の論調は浮かれすぎだろう。

サッカーは他のスポーツ競技と違い、年齢制限もある五輪は頂点ではない。サッカー選手は、”世界の強豪が集うワールドカップ、もしくは欧州トップのクラブでプレーする”、そこに到達する成長、進化が求められる。五輪と言えでも、サッカーではその試練の一つでしかない。

予選だけ無敵だったスペイン代表、その監督の教訓

Uー23日本代表の手倉森誠監督は、”慣れ親しんできた選手”を最終予選に選考している。つまりは、チーム立ち上げからアジア予選を戦ってきたメンバーが中心。また、走る、跳ぶなど数字で能力が見えるフィジカル、スピードに優れた選手を要所に選んでいる。その決断は決して悪ではない。失敗の許されない立場の指揮官として、「集団として結束力の高い、計算できる選手」を選んだのだろう。

一方、選出された選手よりも2015年シーズンを通じ、活躍を遂げていた選手たちはいた。浦和レッズの関根貴大、サガン鳥栖の鎌田大地、FC東京の橋本拳人、柏レイソルの小林祐介らはJ1で出場機会をつかみ、選考されるにふさわしい成績を残している。今が旬と言うべきか、ボールプレーヤーとして成長の勢いを感じさせる選手たちだ。

その点、手倉森監督は賭けに出た。

仲間意識が高く、計算できる集団ということは、裏を返せば、仲良しで競争意識が薄く、ボールプレーヤーとしての爆発力にも欠ける集団にもなり得る。お互いが切磋琢磨し、進化、成長を遂げるような組織とならない可能性があった。

結果、手倉森監督は一つの賭に勝ったわけだが――。

かつてスペイン代表に無敵艦隊の称号を授けたハビエル・クレメンテ監督は、勝利の効率を上げるため、家族意識を植え付けようとメンバーを固定化している。さらに選考メンバーの特徴として、とにかくフィジカルインテンシティに優れ、前線は強さとスピードのあるプレーヤーを重んじた。

「慣れ親しんだ選手同士はお互いストレスなくプレーできる。また、身体能力の高さはスランプに入る可能性が低く、戦力として容易に計算できる」

その考え方は、最終予選での手倉森監督と似ているかもしれない。

クレメンテは負けにくいチームを作り、予選においては連戦連勝だった。同等以下の相手には、自分たちの強みを出すことができた。

ところが、強豪が集まる本大会では状況が一変してしまう。競争力の高い相手の前には甘さをさらけ出し、メンバー内でしのぎを削る敵に歯が立たなかった。当時、無敵艦隊は予選にだけ強いスペインを揶揄する言葉だったのである。

翻って、日本の選手たちは世界を相手に勝ち進めるだろうか?

「ここ20年では最弱の五輪代表」

そう揶揄される声に、選手たちは憤慨し、反骨心で挑み、歴史を作った。それは見ている者に「感動」を与え、彼らはそれも力に換えた。なにより、選手たち自身が勝つことにより、自信を深めていった。不安げだったプレーに、確信が芽生えた。豊川雄太、中島翔哉、原川力、矢島慎也、浅野拓磨らの劇的なゴールはその証だった。自信が地力になったことは間違いない。

先発メンバーはターンオーバーを繰り返し、誰が出ても波がなかった。「結束」と「計算」が感じられ、チームとしてまとまっていた。例えばFWのオナイウ阿道はゴールの予感は乏しかったが、前線から中盤まで身体能力と献身を発揮。お互いが助け合い、足りないところを補い合った。それによって一人の力に頼ることなく、得点者が複数出て、相手を苦しめた。

「選手たちの力を信じていた」

手倉森監督は最終予選で五輪出場を決めたときに語っているが、宿敵、韓国戦の逆転劇はその結実と言えるだろう。

しかし一方、アジアレベルの拙守拙攻に助けられた大会だった、とも見てとれた。

初戦の北朝鮮戦は、完全に押し込まれる形になったにもかかわらず、ラッキーパンチでノックアウトできた。準々決勝のイラン戦も、二人のセンターバックが何度も不用意に飛び込んで裏を取られ、前半に失点しなかったことは天佑に近かった。準決勝のイラク戦も、何度かの決定機を相手が決められず、後半は押し込まれる時間が長く続いた挙げ句、アディショナルタイムに劇的なミドルシュートが決まった。決勝の韓国戦は、前半に飛ばしすぎて足が止まった相手を滅多打ちにできた。

勝利はどれも輝かしい。展開はドラマチックだった。運も実力のうちだろう。

だが、相手に助けられた部分も冷静に分析するべきだ。単純なコントロールやパスでミスが多く、自分の首を絞める瞬間も少なくなかった。トラップが乱れてしまってシュートを外す、もたついてカウンターに持ち込めない、ロングキックのサイドチェンジがむしろ手詰まり感に・・・頭を抱えるようなシーンがいくつもあった。

世界の強敵を相手にするには、結束と計算を軽々と逸脱するような選手が出てこなければ、日本サッカーの未来は危うい。ボールプレーに長けた若い選手を引き上げる必要もあるだろう。リオ五輪まで、さらにボリュームアップできるか。

手倉森ジャパンに問われるのは、“未来を作る今“なのである。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事