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アトピー性皮膚炎は糖尿病のリスクを高める?低める?皮膚科医が解説する複雑な関係性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎と糖尿病の複雑な相互作用】

アトピー性皮膚炎と糖尿病、一見関係なさそうに見えるこの2つの病気ですが、実は密接に関わっていることが最新の研究で明らかになっています。アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下や慢性的な炎症を特徴とする皮膚疾患です。一方、糖尿病は血糖値が高くなる代謝性疾患です。

興味深いことに、アトピー性皮膚炎は糖尿病のリスクを高める可能性があります。韓国での大規模な調査では、アトピー性皮膚炎患者は1型糖尿病と2型糖尿病のリスクが高いことが示されました。特に重症のアトピー性皮膚炎患者では、そのリスクが顕著に高くなっています。

しかし一方で、アトピー性皮膚炎が糖尿病のリスクを低下させるという報告もあります。デンマークの双子を対象とした研究では、1型糖尿病患者ではアトピー性皮膚炎の有病率が低いことが分かりました。カナダの成人を対象とした別の研究でも、アトピー性皮膚炎患者で2型糖尿病のリスクが低いという結果が出ています。

このように、アトピー性皮膚炎と糖尿病の関係は一様ではありません。個人差や遺伝的要因、環境要因などが複雑に絡み合っているのかもしれません。ただ、両者の関連性が示唆されている以上、アトピー性皮膚炎患者は糖尿病のリスクを意識し、予防に努めることが大切だと言えるでしょう。

【炎症が関わる病態の類似性】

アトピー性皮膚炎と糖尿病、この2つの病気に共通しているのが「炎症」の存在です。アトピー性皮膚炎では、IL-4やIL-13などのサイトカインが皮膚の炎症を引き起こします。一方、2型糖尿病ではTNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインがインスリン抵抗性を引き起こし、血糖コントロールを悪化させます。

この炎症という共通点が、アトピー性皮膚炎と糖尿病の関係性を生み出している可能性があります。実際、アトピー性皮膚炎患者の血中では、インスリン抵抗性を引き起こすサイトカインが増加していることが報告されています。つまり、アトピー性皮膚炎による慢性的な炎症が、糖尿病発症のリスクを高めているのかもしれません。

炎症は現代人の多くが抱える健康リスクであり、生活習慣病の温床になっていると考えられます。アトピー性皮膚炎のような炎症性皮膚疾患を適切にコントロールすることは、糖尿病をはじめとする全身疾患の予防につながる可能性があるでしょう。皮膚の健康が、全身の健康につながっているのです。

【治療薬の影響にも注目】

アトピー性皮膚炎の治療には、ステロイド外用薬が広く使われています。しかし、このステロイド外用薬が糖尿病のリスクを高める可能性があることが分かってきました。オランダの研究では、ステロイド外用薬を使用した患者で糖尿病の発症率が高くなることが示されています。

ステロイドは炎症を抑える効果がある一方で、インスリン抵抗性を引き起こす作用もあります。そのため、長期的なステロイド外用薬の使用は、糖尿病発症のリスクにつながる可能性があるのです。アトピー性皮膚炎の治療においては、ステロイド外用薬の使用を最小限に抑え、保湿剤などを併用しながら皮膚バリア機能の回復を目指すことが大切だと考えられます。

また、アトピー性皮膚炎患者ではシクロスポリンなどの免疫抑制剤が使われることもあります。シクロスポリンも血糖コントロールに影響を与える可能性が指摘されています。アトピー性皮膚炎の治療薬選択においては、糖尿病への影響も考慮に入れる必要があるでしょう。

以上のように、アトピー性皮膚炎と糖尿病の関係は複雑で、一概には言えません。しかし、両者の関連性が示唆されている以上、アトピー性皮膚炎患者は糖尿病のリスクを意識し、生活習慣の改善や治療薬の選択に注意を払うことが大切です。また、皮膚科医と内科医が連携し、全身を見据えた治療を行うことも重要だと考えられます。

参考文献:

Exp Dermatol. 2024 Jun;33(6):e15116. doi: 10.1111/exd.15116.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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