食料品・年間35000品目値上げ、低所得層への影響、食料安全保障との関係
食料品価格の高騰が続いている。物価対策に取り組む内閣官房の「物価・賃金・生活総合対策本部」(※)によると、昨年6月から今年の5月までの食料品の値上げの品目は、12か月間で約35000品目に及んだということだ(2月28日時点の推計)。消費者における物価の現状としては、電気・都市ガス料金は負担軽減策の効果もあり 2月の上昇幅が1月に比べ少し縮小した一方、食料品の価格は原材料の価格上昇や円安の影響により値上がりが続いているという。
問題と感じるのは、同資料で言及された食料とエネルギー価格上昇による家計負担の増加額が収入に占める割合が、所得水準が低い層ほど大きいというデータ結果が出ている点だ。食料品価格の値上がりは、低所得層に影響を与えているのだ。
日本の食料・農業政策においては、ウクライナ戦争を契機とした国内外の食料供給の不安定化を契機として、「農政の憲法」と呼ばれてきた法律、「食料・農業・農村基本法(以下、基本法)」の改訂作業が行われている。国際食料価格高騰により食料輸入を前提とした日本の食料安全保障政策が変更せざるをえなくなっている。
注目したいのは、基本法改正における最近の情勢として平時の食料安全保障が検討され、さらに経済的弱者問題が取り上げられたことだ。その議論のポイントとしては、経済的弱者が増加し、個人レベルで健康的な食生活を維持できない者が増加しており、政府は国民の健康的な食生活を確保するため、経済的弱者への対策をする必要があるとされている。
基本法改正に向けた検証部会では、「国民健康・栄養調査報告(平成30年)」の調査結果である「所得と食生活に関する状況」も検討された。その結果の一つである「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上食べる頻度の状況」では、世帯の所得が600万円以上は高く200万円未満では低い現状が明らかにされている(図)。またその結果への理由としては「食費の余裕がない」「時間がない」「手間がかかる」等が挙げられ、所得が低い世帯ほど、栄養バランスに配慮した食生活を実践できていない現状も垣間見られた。
食料品価格の値上がりが続き、低所得層への影響が深刻化する中で、政府が世界の食料生産の不安定化などの食料輸入リスクが増加している点、一人ひとりの健康な食生活を食料安全保障の問題として捉え、食料へのアクセスと経済的弱者への影響と健康な食生活の関係つまり食の格差を検討し始めた点は、これまでにない方向性として評価されるべきであろう。
ただしここでの問題は、そもそも食料へのアクセスや経済的弱者の食生活への悪影響を生み出す構造に踏み込めていない点だ。そこでは大手食品小売やオンラインサイトなどが拡張する一方で買物難民が生まれていること、不健康な食生活が資本の影響下で展開していることなどの構造的問題が放置されている点が指摘される。
今後に早急に取り組むべき課題としては、すでに具体的に影響を受けている人々への対策を多様な形で展開していくこと(一時的な金銭支援ではなく)、そして問題構造の解明に踏み込んでいくことが問題解決に向けた歩みとして必要と言えるだろう。
(※)「第8回物価・賃金・生活総合対策本部」資料(2023年3月24日開催)。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】