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毎日新聞の無人島で「スマホ断ち」記事に異議あり。本当に効果があるのか?

藤代裕之ジャーナリスト
仕組みを学べばスマートフォンやソーシャルメディアは楽しい使い方もできる(写真:アフロ)

兵庫県が、小中高校生を対象に瀬戸内海の無人島でスマートフォン、インターネット断ちする4泊5日の合宿を開くという記事が毎日新聞に記事が掲載されています。なかなかインパクトがあるため、「極端すぎる」「自然に触れることとスマホ依存がどう関係するのか」「まずは大人が合宿へ」「素晴らしい」など、さまざまな反応が出ているのですが、元の調査をみるとずいぶんズレがあるように見えます。効果に疑問があるのでしょうか。

インターネットがやめられず依存気味の小中高校生向けに、兵庫県が瀬戸内海の無人島でスマートフォン断ちする合宿を開く。8月に自然体験施設で4泊5日過ごす計画だ。スマホに没頭して成績が下がったりトラブルに巻き込まれたりする生徒は県内でも増えており、思い切った対策が必要と判断した。

出典:スマホ断ち 「依存」小中高生向け、無人島で野外体験(毎日新聞)

記事の書き出しを見ると、この合宿は成績が下がったり、(ソーシャルメディアがらみの)トラブルに関係する小中高校生に関連した、幅が広い対策のように思われます。ですが、記事中に紹介されている国立青少年教育振興機構の御殿場市で集団キャンプについて調べてみると、治療キャンプ ( レスキュースクール ) の効果を検証するために行われていることがわかります。

ネット断ちに直接的効果は認められず

ウェブ上に「青少年教育施設を活用したネット依存対策研究事業」~ネット依存傾向の青少年が、キャンプを通して日常生活を改善するきっかけ作り〜という報告書が公開されています。冒頭のサマリーには以下のように書かれており、このプログラムは治療が基本であり、それに教育的視点を取り入れたこと、そしてネット使用時間が短くなったことは直接的効果が認められない、と書かれています。

近年、スマートフォン等の新たな情報機器の普及に伴い、インターネットの長時間利用による生活習慣の乱れ等が指摘されており、いわゆる「ネット依存」への対応が求められている。

このため、国立青少年教育振興機構では、文部科学省の委託を受けて、ネット依存の青少年を対象に、昨年8月に8泊9日の宿泊体験事業を実施し、どのような効果があるかを調査研究した。

本事業は、国立青少年教育振興機構が国立久里浜医療センターと連携することで、治療としてだけでなく、教育的観点も取り入れた体験活動プログラムを実施し、医療と教育の融合を図った。

なお、ネット使用時間が短くなったことはキャンプ全体の効果として捉えられるものの、直接的効果が認められないことから、今後引き続き、プログラムの効果について検証が必要である。

出典:「青少年教育施設を活用した ネット依存対策研究事業」

対象者10人のうち3人が入院状態であること、キャンプ参加前の1日あたりのゲーム・ネットサービス時間は10時間、それが6.78時間に減少したこと、も報告書を読めばわかります。このプログラムは、成績が下がったりトラブルに巻き込まれたりするというスマホ、ソーシャルにまつわる小中高の保護者が心配とは異なる次元です。

しかし、元の毎日新聞の記事には治療という言葉は一切出てこず、教育的なアプローチのように読めてしまいます。元のプログラムと対象が異なること、さらに合宿の日数も短くなっており、効果についての根拠も不十分です。これは、兵庫県が元の事業を拡大解釈したか(その場合は問題提起するのが新聞の役割でしょう)、もしくは兵庫県の事業も元と同じ治療キャンプなのですが、記者がそう書かなかったかのどちらかの可能性があり、誠実な記事とは言えません。

先送りした結果がトラブルを生む

依存とトラブルという異なる問題をひとつにまとめた記事は、スマホ、ソーシャルに詳しくなく、子どもたちを心配している保護者に対して恐怖を煽りたて、適切な対応を困難にします。また、治療キャンプに対する研究の理解や推進を妨げることにもなります。

大学でソーシャルメディアを教えていると、仕組みなどは教えてもらったことがない、という大学生がほとんどです。小中高が問題を先送りしたことで、仕組みを知らないまま日々使い続けているわけです。免許の学科も教習もないまま、車を猛スピードで運転しているようなもので、事故が起きて当然の環境が出来上がり、その結果ソーシャルで炎上したり、プライバシーを晒されたり、してしまうわけです。

昨年仲間と出版した『ソーシャルメディア論: つながりを再設計する』 は、学生に対して仕組みを教える必要があるという強い危機感から生まれたものです。しかし、大学だけでは新しいメディア環境への対応はできません。既に中高生、場合によっては小学生からスマホ、ソーシャルメディアを使っているからです。

分からない、怖いから、触らせない、というアプローチは学校現場も保護者も勉強しなくてよいので楽な選択肢です。この記事はそのような人たちに格好の資料となるでしょう。そして、問題は先送りされ、子どもたちの利用は大人から見えない地下に潜ってしまいます。

マスメディアは適切な利用の後押しを

スマホやソーシャルは多くの人が利用し、災害時のインフラとしても期待されています。毎日新聞は編集幹部も活用している時代です。スマホ、ソーシャルは、ツールに過ぎず使い方次第で問題も起こすし、人生を豊かにもしてくれます。そのためには、まず利用方法・仕組みを理解しないと始まりません。マスメディアは、いじめ、依存、犯罪やトラブルに絡めたニュースを取り上げるばかりでなく、適切な利用を後押しするニュースにより、問題を解決していくアプローチがあってもよいのではないでしょうか。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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