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ネット甲子園 第9日 ベスト16決定! 3回戦の大注目は奥川vs智弁打線

楊順行スポーツライター
16校のうち最直近の甲子園優勝は、2016年夏の作新学院(写真:岡沢克郎/アフロ)

 1、2回戦が終わって出そろったベスト16の顔ぶれのうち、春夏ともに優勝経験があるのが作新学院(栃木)、東海大相模(神奈川)、智弁和歌山。春を優勝しているのが敦賀気比(福井)。準優勝となると八戸学院光星(青森)、履正社(大阪)、星稜(石川)、仙台育英(宮城)、関東一(東京)がある。つまり16校中9校が、甲子園の決勝を経験しているわけだ。

東海大相模のアグレッシブ走塁は見もの

 で、3回戦の対戦のうちもっとも楽しみなのは、星稜と智弁和歌山の激突だろう。大会ナンバーワンの奥川恭伸は、旭川大高(北北海道)との1回戦を完封し、救援登板した立命館宇治(京都)との2回戦では、自己最速の154キロをマークした。台風10号の影響で、3回戦での登板は中3日と恵まれたから、万全の状態で臨めるだろう。一方の智弁。明徳義塾(高知)との2回戦では7回、細川凌平、根来塁、東妻純平の3人がアーチを架け(根来、東妻は連続)、チーム1イニング最多本塁打3の大会タイ記録を達成。これは史上2度目のことで、1度目もやはり智弁和歌山が2008年夏に記録したもの。強力打線は健在だ。しかも智弁は伝統的に、160キロ近くに設定したマシンを打ち込んでいるから、速球にはめっぽう強い。とはいえ奥川は、スピードだけではなく抜群の制球力と投球術がある。果たして、軍配はどちらに……。

 強く推したいのが、東海大相模のアグレッシブな走塁だ。好投手・林優樹を持つ近江(滋賀)との初戦、神奈川大会で打率4割近かった打線が5安打と手こずりながら、6対1で快勝した。理由は、「相手が足でかけてくるプレッシャーに守備陣が焦り、ミスを連発してしまったこと。それだけすばらしい走塁技術」(近江・多賀章仁監督)にある。東海大相模の主将・井上恵輔は、こう話す。

「打者は打ったら、打球を見ずに一塁まで全力疾走。打球の行方を見たって結果はなにも変わりませんから、わき目もふらず、です。また走者は、打球を処理した外野手がたとえばホームに返球するとき、その送球が"高い"と判断したら即、次の塁を狙う。高い返球ならカットできませんから、こちらに時間をもらえるんです。ふだんの練習でも、打球の飛んだ位置、相手のポジションと肩の強さ、自分の走力を頭に入れ、打者走者としてどこまでオーバーランできるか、という空間認識力は鍛えているつもりです」

 なるほど。この試合なら、相模の打者走者が、相手野手の送球間に次の塁を陥れたのが2度(記録上は単打だが、送球の間に二塁まで達する)。あるいは井上も6回、捕手がファウルフライをダイビングキャッチするのを見てすかさずタッチアップし、抜け目なく一塁から二塁に達すると結果的に後続の安打でホームインしている。こうしたアグレッシブさは、目に見えないプレッシャーとなる。近江の内野手は「できるだけ前で捕って早く投げなきゃ」と前のめりになり、結果6つの失策を犯すことになった。これが、好投手・林を削ったのだ。相模の3回戦は、中京学院大中京(岐阜)が相手である。

大記録づく敦賀気比打線

 2回戦では、智弁の1イニング3本塁打のほかにも大記録があった。国学院久我山(西東京)に大勝した敦賀気比・杉田翔太郎が達成した、サイクル安打だ。第1打席の単打から始まり二塁打、単打、三塁打、凡退、そして9回の第6打席に右翼席にアーチ……。「まさか自分ができるとは」と杉田は満面の笑みだが、なにしろこの記録、甲子園の長い歴史のなかで過去に春1回、夏5回しか達成されていないのだ。つまり杉田は、夏6人目の快挙。ちょっとそのウンチクを……。

 初めて達成されたのは1949年夏だ。平安(現龍谷大平安、京都)の杉山慎二郎が盛岡(現盛岡一、岩手)戦で6打数5安打して記録した。75年夏には、土佐(高知)の2年生・玉川寿が桂(京都)戦で5打数4安打。2打席目から本塁打→三塁打→二塁打→単打の順だった。79年春には、決勝の大舞台で箕島(和歌山)の北野敏史が、浪商(現大体大浪商、大阪)の牛島和彦(元ロッテなど)から記録。センバツではこの北野ただ一人だが、三塁を狙っての走塁死が二塁打となったのがなんとも味わい深い。

 91年夏には、優勝した大阪桐蔭の沢村通。秋田との3回戦は、2点差の9回2死から自らの三塁打をきっかけに同点に追いつき、延長11回、自身のホームランで決着をつけている。もし9回に追いつかなかったら延長の打席もなかったわけだから、自作自演の快挙といえるだろう。98年夏は、明徳義塾(高知)の藤本敏也が横浜(神奈川)との準決勝で達成。8回表の三塁打で達成した時点で、チームは6対0と圧倒的にリードしていたが、横浜はその裏と9回で7点を返し、奇跡的な逆転サヨナラ勝ちをおさめた。サイクル安打が生まれたチームは当然優位に試合を進めるから、これが唯一、負け試合での達成だ。

 04年は、優勝する駒大苫小牧(南北海道)の林裕也が、横浜(神奈川)との準々決勝で涌井秀章(現ロッテ)から記録。このとき2年生の林は、達成者のうちただ一人の5打数5安打だ。達成自体が数少ないのに、強豪の横浜が2回お膳立てしているのもおもしろい。そして、杉田の敦賀気比といえば……優勝した15年センバツ、大阪桐蔭との準決勝で、松本哲幣が2打席連続満塁ホームランという破天荒な打棒を見せている。サイクルヒットと2打席連続グランドスラム。まるで何十年に1回の天体ショーのようだが、敦賀気比というチーム、なにか大記録と縁があるのかもしれない。

 勝負どころの3回戦。台風一過の(はずの)甲子園で、16〜17日に行われる予定だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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