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塩試合となった、UFCスターのボクシングマッチ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Esther Lin/Fanmio

 7月6日の夜、カリフォルニア州アナハイムのホンダセンターで行われたプロボクシング、ライトヘビー級10回戦で、ネイト・ディアスがホルヘ・マスヴィダルを2-0の判定で下した。採点は、98-92、97-93、95-95であった。

 両者はUFCの舞台で2019年11月2日に対戦し、マスヴィダルが3回でTKO勝ちを収めている。この白星でマスヴィダルは、UFCの初代BMF王者となった。あの日から、今回の再戦まで、実に5年近い時間を要した。

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 興行のメインイベント、しかもPPVで放送された同ファイトだが、ボクシングとしてはかなりお寒い内容だった。彼らはUFCではトップ選手かもしれないが、ボクシングは素人の域を出ず、両者が放つパンチは終始手打ちだった。また、腹の贅肉が絞り切れておらず、39歳の両選手が黄昏時のファイターであることも隠せなかった。

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 それでも勝者となったディアスは言った。

「仕事を確実にやり遂げることができて気分がいい。任務完了」と。

 一方のマスヴィダルも話した。

「勝ったと思った。俺の方が難しいショットを打った。間違いなく、自分は正しい方法で、はるかに良いパンチをヒットしたと思った」

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 ディアスにとって、ボクサーとしてリングに上がるのは、これが2度目だった。デビュー戦は2023年の8月5日、対戦相手はYouTuberのジェイク・ポールで、10回判定負けを喫した。

 そして今、再戦だ何だと舌戦を展開中だ。

 ディアスの「俺はポールを打ち負かすつもりだ」という発言に、ファンは歓声をあげているが、純粋なボクシング好きが興味を覚える試合ではない。単なるエンターテイメントであり、ショーに成り下がっている。

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 マイク・タイソンも、このYouTuberと11月に2分×8ラウンドのボクシングマッチで対戦するとアナウンスしている。米国の元世界チャンピオンたちは、一様にポールの存在を疑問視する。

 カネがあるというだけで、前座ファイターという苦労もせずに檜舞台に上がれてしまうYouTuberを見れば「俺が退治してやる!」と考えるのも無理はない。

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 ディアスvs.マスヴィダル戦は、見るべきものの無い茶番だった。こうした現象は、いつ止まるのだろうか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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