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圧倒的有効性を示した新型コロナの新薬サビザブリン 「中等症」の死亡率が半減

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

日本では、新型コロナは軽症・中等症・重症の3つに分類されています。肺炎がある新型コロナを「中等症I」、酸素療法を要するような中等症を「中等症II」としています。重症度がこれ以上になると、致死率が高くなり、軽症者向けの治療では力不足です。現場でも治療に難渋することが多いです。

新型コロナ治療薬の種類

コロナ禍当初から炎症を抑える薬剤が用いられています。抗ウイルス薬だけでは体の炎症を抑えることができないため、「中等症II」以上では全身性ステロイド(デキサメタゾンなど)バリシチニブ(商品名オルミエント)トシリズマブ(商品名アクテムラ)といった消火器のような薬剤を併用します(図1)。

図1. 新型コロナ治療薬の分類(筆者作成)
図1. 新型コロナ治療薬の分類(筆者作成)

さて、これらの薬剤に上乗せすることで中等症の患者さんの死亡率が半減するという薬剤が登場し、海外で話題になっています。その名を、サビザブリンといいます。

高い有効性により臨床試験が早期中止

「あなたは治療薬か偽薬(プラセボ)のどちらかに割り付けられます、でもどちらに割り付けられているかは分かりません」という臨床試験のデザインを「ランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験」と言います。「新しい治療薬を投与されている」と分かってしまうと、患者も医師もその有効性を過剰評価してしまう現象が起こりえます。ゆえに、医学的信頼性が高い試験デザインとされています。

人工呼吸器を装着される直前の中等症の患者さんには、抗ウイルス薬や抗炎症薬などを投与します。この集団に対して、サビザブリンという新薬か偽薬(プラセボ)のいずれかを経口で追加投与する臨床試験が行われました(※)。

※サビザブリンに関する海外ニュースの翻訳では「重症」と記載されるかもしれませんが、国際的な「重症」は日本では「中等症II」に該当します。人工呼吸器装着などを要する重症度は、国際的には「重篤」と呼び、日本では「重症」に該当します。

予定登録患者数に到達する前に、サビザブリン群で高い有効性が確認され、試験は早期に中止されました。「明確な有効性があり、もはや継続の必要がない」と判断された場合、このような決断にいたることがあります。

サビザブリンと偽薬(プラセボ)のどちらが投与されているか分からない状況で、偽薬(プラセボ)群の死亡率45%に対して、サビザブリン群の死亡率は20%と、半減する有効性が確認されたのです(図2)。

図2. 中等症IIの新型コロナに対するサビザブリンの有効性(筆者作成)
図2. 中等症IIの新型コロナに対するサビザブリンの有効性(筆者作成)

アメリカ食品医薬品局(FDA)から優先審査制度(ファストトラック)の対象指定を受けており、早期に承認される可能性もあります。

サビザブリンとはどういう薬か?

サビザブリンは、「微小管」を阻害する薬です。「微小管」というのは、細胞の中のウイルス複製工場にウイルスを効率的に運ぶ役割を持っている「配送トラック」であり、このはたらきをおさえることでウイルスの複製が始まらないようにします(図3)。

図3. 新型コロナに対する微小管阻害薬のメカニズム(筆者作成)
図3. 新型コロナに対する微小管阻害薬のメカニズム(筆者作成)

また、炎症の暴走をおさえるはたらきもあり、抗ウイルス薬としての側面と、抗炎症薬としての側面の2つを併せ持っています。

これまでの抗ウイルス薬や抗炎症薬とは異なる作用機序であるため、既存の薬剤に併用することで死亡が大きく減ったのかもしれません。

なお、ウイルスに直接作用するわけではないため、理論的には耐性は起こらないと考えられます。

詳細なデータ分析が必要

現時点で出ている情報は開発元のヴェル社のプレスリリースで(1)、いささかドラマティックに書かれているため、注意が必要です。今後公開されるデータを冷静に分析する必要があります。

有効性が示され試験が早期中止されているため、登録症例数が少なく結果が過大解釈されてしまう可能性が残ります。

また、死亡率は半減しているのですが、偽薬(プラセボ群)の死亡率が高すぎる気がします。この重症度の患者層の死亡率は高くても20%くらいなので(2-4)、ちょっとこのあたりが気になります。

まとめ

新型コロナに対して、新しい経口薬サビザブリンは理にかなったメカニズムであることは確かです。

中等症に陥ってしまった患者さんの死亡率を半減させるのが本当であれば、重症病床のひっ迫も半減させることができるかもしれません。

今後の新型コロナ診療の光明になるとよいですね。

(参考)

(1) Veru’s Novel COVID-19 Drug Candidate Reduces Deaths by 55% in Hospitalized Patients in Interim Analysis of Phase 3 Study; Independent Data Monitoring Committee Halts Study Early for Overwhelming Efficacy(URL:https://verupharma.com/news/verus-novel-covid-19-drug-candidate-reduces-deaths-by-55-in-hospitalized-patients-in-interim-analysis-of-phase-3-study-independent-data-monitoring-committee-halts-study-early-for-overwhelmin/

(2) Rosas I, et al. N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1503-1516.

(3) Marconi VC, et al. Lancet Respir Med. 2021 Dec;9(12):1407-1418.

(4) Beigel JH, et al. N Engl J Med. 2020 Nov 5;383(19):1813-1826.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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