24歳から高校生役で主演が続く渡邉美穂 「制服が似合うように頑張って今しかできない役を楽しみます」
『ヒロイン失格』や『センセイ君主』に続く幸田もも子の人気マンガ『あたしの!』が実写映画化された。思ったことは即行動に移し、ウソをつけないド直球ガールの関川あこ子役で、渡邉美穂が初の映画にしてW主演を務めている。日向坂46を卒業して2年。朝ドラ『虎に翼』など着実に出演作を重ねてきた中で、24歳から高校生役で主演も続く。昨年夏に撮影したこの作品は大きな転機になったそうだ。
人生は何が起こるかわからないと思いました
――映画は高校生の頃からよく観ていたそうですが、ラブコメも好きでした?
渡邉 もともと幸田もも子先生のマンガが大好きで、お仕事を始める前の学生だったとき、『ヒロイン失格』や『センセイ君主』を映画館で観ていました。そういう映画は、学校の友だちともよく「観に行こう」という話になったんです。
――『あたしの!』の原作も知っていたんですか?
渡邉 ずっと読んでいたマンガです。自分がW主演で出させていただけるなんて、嬉しかったしビックリしました。そもそも普通に映画を観ていたときは、まさか自分が出る側になるとは思っていなかったし、幸田先生の作品のヒロインを演じるなんて想像もしていなくて。人生、何が起こるのかわかりませんね。
――あこ子も好きなキャラクターでした?
渡邉 かわいいなーと思っていました。幸田先生が描く女の子は元気いっぱいで表情豊かなことが多くて、あこ子もパワフルでインパクトがありました。
――思ったら即行動でド直球なところは、美穂さんにもある部分?
渡邉 私はド直球ではないですけど、思い立ったら行動を起こすのは似ています。あこ子はそれを全部表に出して、私は秘めておくタイプ。あんなストレートには言えません(笑)。
大げさでも不自然にならないように
渡邉が木村柾哉(INI)とW主演する『あたしの!』。高2の新学期、学校イチの超人気者の先輩・御共直己(木村)が留年により、あこ子と同学年に。ひと目惚れしたあこ子はド直球なアプローチを開始。小3からの親友の谷口充希(齊藤なぎさ)は彼を好きでないと言いながら、怪しい動きを見せる。
――これまでの出演作ではナチュラルな演技が多かったですが、『あたしの!』ではオーバーアクションを見せていました。
渡邉 私ももともと元気いっぱいなので、わりと演じやすかったです。いつもの自分よりちょっとギアを上げたら、あこ子になれる感じ。ただ、大きい声を出して叫んだり、表情豊かなのは、いつものお芝居とは違っていて。大げさにしないといけないけど、不自然になってもいけない。周りの皆さんのお芝居とのバランスもあって、結構悩みました。
――直己に告白してフラれたあと、グラウンドから屋上に向かって「諦めないから!」と叫んでいました。
渡邉 あのシーンは大声を出さないと届かなかったこともありますけど、常に叫んでいる感じは、あこ子に合うかなと思って。大きい声でハキハキしゃべることは意識していました。
――エネルギーを使う撮影でした?
渡邉 撮影が夏だったこともあって、毎日体力を吸い取られた感じです。でも楽しくて、その時期は家に帰るとよく眠れました。
人間に可能な範囲で顔をすごく動かしました
――直己たちと会うとき、充希がおしゃれなオフショルで現れて、目を見開いて口をあんぐりさせた表情も面白かったです。
渡邉 オーバーなリアクションですけど、変顔みたいにしたくもなくて。現場で1回1回モニターを観ながら、こうしよう、ああしようと横堀(光範)監督と話し合いました。顔がすごく動くところは見せたかったので、絶妙なラインを調節しています。
――表情筋をフル稼働させた感じですか?
渡邉 そうですね。目をグッと見開いたり、口がカーンと思い切り開くような表情が多いので、いい顔の運動になりました(笑)。
――原作の絵だと、文字通り目ん玉が飛び出したりもしています。
渡邉 人間が物理的にできない顔が多いですよね(笑)。実写化するとなって、最初はどうするんだろうと思いましたけど、人間が可能な範囲で手は抜かず、原作の良さを大事にしました。
――撮影を見学に来た幸田先生が「歩き方もあこ子っぽい」とおっしゃったとか。
渡邉 そこは意識してなかったんですけど、後になってよく言われました。あこ子は結構ガニ股で少し脇が開いていて、いつでも走り出せる感じの体勢のイメージで歩いていました。
ツインテールがギアを上げるスイッチに
――そういった面白いシーンは、完成して自分で観ても笑えました?
渡邉 はい。私がすごい顔をするところは、カメラもグッと寄ってきていて。今回、監督がカメラマンもされていたんです。息の合わせ方も相まって、印象の強いシーンになって良かったです。
――先ほど出たように、普段よりギアを何コか上げていたわけですね。
渡邉 自分で意図的に上げるというより、あのツインテールにしたら自然とあこ子になって、ひとつのスイッチだったのかなと。普段しない髪型でグッと結ぶと、元気になれる感じでした。
――一方で、直己とのシーンではトロンとした目をしたり、浮かれ顔になったり。
渡邉 あこ子にとって、直己くんは特別な人なので。しっかりと乙女なところを見せました。ただガサツでうるさい女の子で終わらないように、いつものあこ子とのギャップを大切にしようと思って。原作でもそこはすっごくかわいく描かれていたので、恥ずかしがらずに頑張りました。
――一途に恋する乙女の気持ちもイメージできました?
渡邉 好きな人の前だとキュンとするし、かわいく見てほしいと思うものなので。上目づかいをしてみたり、キュルルンって気持ちを大事にしました(笑)。
バチバチのケンカができる関係は羨ましい
――あこ子にとっての充希のような親友は、美穂さんにもいますか?
渡邉 幼なじみはいますけど穏やかな関係性で、ケンカはまったくしたことがありません。あそこまでバチバチにケンカができるあこ子を羨ましいと思います。充希と何でも言える関係だからこそ、できることなので。
――あの2人のように、友だちと回転ずしに行ったりは?
渡邉 友だちと回転ずしは行ったことないです(笑)。楽しそうですね。
――定番の質問になりますが、劇中のように親友と同じ人を好きになったら、どうしますか?
渡邉 私は譲る派です。もめごとが嫌いなので、自分がグッと我慢すればいいと思ってしまうタイプです。
私は恋も友情も諦めそうです
――恋より友情を取るわけですか。
渡邉 全然そっちですね。特に学生の恋は短い印象があるので。
――すぐ別れる前提(笑)?
渡邉 そういうイメージが強かったです。一瞬で終わる恋より、一生の友だちを残しておいたほうがいいかなと。とは言え、実際に好きな人を取られたら、やっぱり妬みはあると思うので、難しいですよね。私だったら、たぶん好きな人も諦めるし、友だちのほうも「もういいや」と切ってしまう気がします。
――友情も恋も「あたしの!」ではなくて。
渡邉 どっちも「あたしのじゃない!」となってしまいそう(笑)。私はあっさりしているので。だからこそ、あこ子はすごいなと思います。あの状況に耐えられるのは、よほどの我慢の強さですよね。
――演じていて気持ちいいところもありませんでした?
渡邉 なかなか珍しい子で新鮮でした。自分との共通点を重ねられる役もありますけど、あこ子みたいに思ったことをストレートに言った経験はないので。演じながら「こういう人もいるんだな」と、客観的になっている自分もいました。
騎馬戦で女子の一体感が生まれました
――ホラー映画を観ていて、手に持っていたケチャップが飛び出て顔面にかかったり、コミカルなシーンもありました。
渡邉 あそこは緊張感がありました。部屋を汚したらいけないので。手加減してもケチャップが飛ばないし、思い切り押したら天井ギリギリまで飛んでしまって。どうにかきれいに顔にかかって良かったです(笑)。
――充希と騎馬戦をするイメージシーンは?
渡邉 あれは体を張って大変でした。グリーンバックで、あこ子と同じ格好をした子たちと充希と同じ格好をした子たちで、何人も軍団がいて。みんな若くて、騎馬戦なんかやったことがなかったと思うんです。私も小学生以来で「みんなケガだけは気をつけてね」と言いながら、「せーの!」と盛り上げました。キャーキャーして、女子校みたいでしたね。騎馬戦のシーンをまとめて朝から晩まで撮って、一体感も生まれて楽しかったです。
――充希役の齊藤なぎささんとはバチバチにやり合っていました。
渡邉 あんな取っ組み合いは、普段することはなくて。手加減はしたくなかったので、お互い掴み合っていました。
――小学生の頃の騎馬戦でも、そんな感じだったんですか?
渡邉 上に乗っていて、「走れ!走れ!」とか言いながら帽子を取りまくっていました。懐かしいと思いながら、大人になって騎馬戦をしている自分に笑っちゃいました(笑)。
自転車で走るシーンは脚がちぎれるかと
――自転車で爆走するシーンはどうでした?
渡邉 今回の撮影は体力を使うことが多かった中でも、自転車をこぐシーンは本当にキツくて! 高校は自転車通学で今も結構乗ってますけど、大事な場面で長ーい橋でこいだんです。ちょっと上り、ちょっと下りで、太ももが痛すぎて、脚がちぎれるかと思いました(笑)。普通に車も走っていて、撮れるのは2回だけ。カメラが車の中から撮影していて、追いてかれないように必死でした。監督たちが「あこ子、頑張れ!」と応援してくれていたのも、風で全然聞こえないし、1人ぼっちで心細くて。でも、それで必死感が出て、良かったのかなと思います。
――4人でバスケをしているシーンは、元バスケ部としてはお手のものでした?
渡邉 木村さんもバスケ経験者で、カメラが回ってないところでも、普通にずっとやっていました。台詞もアドリブで、学校の休憩時間みたいでした。
――今は普段バスケをすることは?
渡邉 たまにやるくらいです。でも、体を動かすことは好きなので、健康のためにもジムに行ったり、いろいろやっています。
青春をやり直している感じがありました
――他にも撮影で覚えていることはありますか?
渡邉 全体を通して、こういうキラキラした学校生活や青春みたいなものに、憧れがありました。私の学生時代は毎日バスケ漬けで、練習着で過ごしていたので。かわいい制服や浴衣でデートとか一切なく(笑)、そういう人たちがただただ羨ましかったんです。今回の撮影では同世代のみんなと、青春をやり直している感じがありました。2回目の学校生活みたいな気持ちで、ずっと楽しかったです。
――演技に悩むこともなかったですか?
渡邉 ありましたけど、監督に直接「あそこはあれで正解でした?」と聞いたりしました。「もうちょっとできたかも」とモヤモヤしていても、監督が「OKを出したんだから心配しないで」と言ってくださると安心できて。すごく助けられましたし、キャストやスタッフさんも含めて、いいチームだったと思います。
毎回の作品で実力を付けて自信を持てたら
――今年は朝ドラ『虎に翼』に出演して、今月スタートの『ラブライブ!』シリーズの実写ドラマに主演。来年にも主演映画『青春ゲシュタルト崩壊』の公開が控えています。日向坂46を卒業して2年、女優活動が軌道に乗ってきましたね。
渡邉 自分では正直、まだ現実についていけない感じがします。主演もやったことがなかったので、自分が画面に映っている時間がこんなに長いのは新鮮。これから公開されたり、いろいろな作品を撮っていったら、実感が湧くのかもしれません。今はまだフワフワした感覚です。
――役者としてやっていける自信は芽生えていませんか?
渡邉 少しずつ、ですね。アイドル時代もなかなか自信は持てなくて、ずっと不安はあって。ひとり立ちしてから、いろいろな方とお芝居させてもらって勉強中です。毎回の作品で着実に実力を付けて、自信を持てたらと思っているところです。
ちょっとドシッと構えられるように
――主演作の『あたしの!』を撮って、自分の中で変化はありました?
渡邉 ちょっとドシッと構えられるようになったところはあります。この撮影のあとに『SHUT UP』があって、プレッシャーを感じるより現場を楽しめたので、やっぱり『あたしの!』は大きかったと思います。
――その後に続いている作品でも、そんなふうに臨んでいるんですね。
渡邉 「どうしよう? あれで良かったのかな?」と悩まなくなりました。わからなかったり不安があったら、全部監督に聞きに行きます。いろいろ教えていただけるし、自分の意見も伝えられるので。それは『あたしの!』で監督と密にコミュニケーションを取って学んだので、その後の作品に活かされています。
――以前は悩みがちだったわけですか。
渡邉 正解がわからなくて、「私がやっていいのか?」とまで思ったりもしていました。
どこにでもハマる人になりたくて
――そんな中で、ここに来て高校生役が続いていて。
渡邉 もう25歳になるので、制服はコスプレになってしまって、「まだ着てるの?」と言われないか気にしていました。でも、制服が似合ってフレッシュに見えるように、自分が頑張ればいいんだと気づいたので。逆に言えば、制服を着られるのは今のうちだけ。この年代でしかできないことを楽しみたいです。学園ものは自分にとって必要なものだと思います。
――今のトップ女優の人たちも通ってきた道ですからね。主役をどんどんやることも目指しているんですか?
渡邉 もちろん主演という響きは素敵だと思いますけど、私の目標としては、どこにでもハマる人になりたくて。真ん中に立ったら作品を素晴らしいものにできる。脇にいたら物語をいい雰囲気に持っていける。その場その場で自分ができることをまっとうする役者でありたいと思っています。必ずしも自分が一番前に立ちたいわけではないですね。
20歳を越えてから埼玉はいいところだなと
――美穂さんは文化放送の埼玉県応援キャンペーンキャラクターも務めています。地元への愛着は強いですか?
渡邉 ありますね。でも、地元が好きになったのは最近です。お仕事を始めた頃は正直、離れたい時期がありました。過去を振り返りたくないというか。別に悪いことは何もしていませんけど(笑)。でも、20歳を越えた辺りから、急に地元の友だちとよく会うようになって。学生時代の関係が大人になっても続くものだと感じましたし、何より家族が大好きなんです。実家にしょっちゅう帰っているうちに、やっぱり埼玉はいいところだと気づきました。キャンペーンのお仕事をしていても、ここで育って良かったと今になって思います。
――『あたしの!』では八景島でのWデート的なシーンがありましたが、埼玉で秋のデートにおすすめのスポットというと?
渡邉 飯能にあるムーミンバレーパークは、一度ロケで行って、すごく楽しかったです。ムーミンの世界観も北欧ふうの建物もかわいくて。アトラクションでは、全長何百メートルもあるジップラインで、湖の上をザーッと行くのが最高でした。カップルで来たらきっと楽しいので、おすすめです。
――美穂さんはこの秋のお楽しみはありますか?
渡邉 夏は暑すぎて冬は寒すぎて、その間で一番過ごしやすいから、早く秋が来てほしいと思っていました。食べ物がおいしいですよね。焼きいももさんまも大好き。そういうものがいっぱいあるのは嬉しい季節です(笑)。
撮影/松下茜
Profile
渡邉美穂(わたなべ・みほ)
2000年2月24日生まれ、埼玉県出身。2017年にけやき坂46(現・日向坂46)に加入して、2022年に卒業。主な出演作はドラマ『ブラザー・トラップ』、『SHUT UP』、『あなたの恋人、強奪します。』、『虎に翼』、舞台『逃げろ! ~モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテ~』、『SUNNY』など。11月8日公開の映画『あたしの!』、22日スタートのドラマ『ラブライブ!スクールアイドルミュージカル the DRAMA』(MBSほか)、2025年公開の映画『青春ゲシュタルト崩壊』に主演。
『あたしの!』
原作/幸田もも子 監督/横堀光範 脚本/おかざきさとこ
出演/渡邉美穂、木村柾哉(INI)、齊藤なぎさ、山中柔太朗ほか
11月8日より公開