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初体験の五輪に挑む男女セブンズ日本代表!メダルへの思いは果たして「両思い」となるか?

永田洋光スポーツライター
6月29日に内定した男女日本代表。現在は本番に向けて最後の調整中だ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

日本のセブンズは本当にメダルを獲得できるのか?

リオデジャネイロ五輪開会式まであと1ヶ月を切った。

7月6日には、男女7人制ラグビーの日程が発表され、女子日本代表は日本時間8月7日午前0時30分(現地時間6日12時30分=以後時間はすべて日本時間で表記)のカナダ戦で五輪にデビュー。以下、7日午前5時にイギリス(グレート・ブリテン)、8日0時に地元ブラジルと対戦し、以降は順位決定戦に進むことになる。最終的に順位が確定するのは9日になる。

男子は、女子の競技終了翌日の10日にスタート。

日本は午前0時30分にニュージーランドと、5時にイギリスと対戦。11日は0時にケニアと戦って、順位決定戦に進む。基本的な流れは女子と同じで、最終順位は12日に確定する。

開会式までちょうど1ヶ月となった5日には、NHKが女子7人制ラグビー日本代表の中村知春キャプテンのインタビューと練習風景を19時、21時のニュースで放送した。

中村キャプテンは「金メダルしか見ていない」と強気の抱負を述べた。セブンズへの関心と期待を盛り上げてくれて、嬉しい限りだ。

ただ、ラグビーを長く取材してきた人間として、良心に基づいて正直に告白すれば、私は、男女日本代表が「メダルを獲得」するのは非常に難しいと考えている。

男女ともに、ニュージーランドやフィジー、イギリスといった海外列強は、身体的なサイズで日本を上回るだけではなく、さまざまな能力、ワールドラグビーセブンズシリーズで培われた経験などでも大きく日本を上回る。

日本も、そうした差を一気に埋めるべくさまざまな戦略を立てて現在強化に取り組んでいるが、個人的にメダル獲得を期待する気持ちはあっても、彼我の力関係を考えれば「大丈夫、日本はメダルを獲れる!」とは断言できないのだ。

もちろん、同じ私が昨年の9月9日に、村上晃一さん、大友信彦さんとのトークイベントで「日本が南アフリカに勝つことはまず絶対にあり得ない」と発言しているので、私の見識や予想に大いに疑いを持っていただいてかまわないし、私も、自らの予想が覆されればプライドなんかさっさとゴミ箱に捨てて、彼らの健闘をたたえるだろう。

しかし、これだけは書き記しておきたい。

日本と対戦する国々のほとんどが、リオ五輪を見据えてスコッドをしっかりと作り上げ、彼らのなかから“ザ・ベスト&ブライテスト”を選ぶべくセブンズシリーズを戦ってきた。

翻って日本は、男子を例にとれば、昨年のW杯、トップリーグ2015―16、スーパーラグビーといったイベントに力を注いで、セブンズの継続的な強化は傍流に押しやられてきた。

オリンピックにかける意気込みは、瀬川智広ヘッドコーチ(HC)や本城和彦オリンピック・セブンズ部門長を除けば、「国内ラグビーのカレンダーを大幅に変えてでも、何が何でも絶対にメダル確保!」とまでは高くなかったのである。

昨年のW杯でエディー・ジョーンズが率いた日本代表選手たちの活躍があって、日本人はラグビーにも可能性があることをリアルに知ったが、エディー体制下での強化に費やされた時間と、セブンズの強化に費やされた時間には、大きな隔たりが厳然としてある。

男女ともにセブンズは、そうした悪条件にもかかわらず非常に健闘しているのだが、「健闘」と「メダル獲得」の間には「淡い片思い」と「熱烈な両思い」ぐらいの差がある。

前者はいずれも(つまり「淡い片思い」と「健闘」は)、ささやかな手応えや思い込み、そして祈りにも似た願望に裏づけされたものであり、後者は手応えや願望が確実に現実となることを意味している。

だからこそ、私は五輪が開幕する前にこう述べておきたい。

淡い片思いのような期待がかなえられずにメダルを逃したとしても、熱烈な恋愛が裏切られたような糾弾をしないで欲しい――と。

セブンズは本当に過酷な競技

セブンズは3日間にわたって6試合を戦う過酷な競技である。

1試合は7分ハーフと短いが、一度でもプレーしたことのある人間ならば、その7分間がどれほど苦しいかを知っている。試合開始1分で「あれ?」と違和感を感じ、2分を過ぎると、いくら気力を振り絞っても足が動かなくなる。それを、1日2試合、2日間にわたって戦った末に、疲労がたまった最終日に順位決定戦が行なわれる。

だから、たとえば男子がグループリーグ初戦で、3日間の戦いを見据えたニュージーランドに捨て身の勝負を挑んでこの優勝候補を破りながら、その反動が出てメダルに届かなかった、というようなケースだって、かなりリアルに起こり得る。

そうしたときに正当な評価を逸脱しないで欲しいと願っているのだ。

今回、リオでメダルを獲得することよりも重要なのは、初めて踏む五輪の舞台で心を打つような試合を繰り広げることであり、その経験をもとに、4年後の2020年東京五輪に向けてどう強化すればいいのか、方向性を見つけることだろう。

日本が20年にセブンズで有力なメダル候補となるために、15人制と7人制の棲み分けをどうするのか、選手の適性をどの段階で判断するのか、セブンズに専念したい選手の生活をどう保証するのかといった問題がきちんと議論され、セブンズ代表が心置きなくメダルにチャレンジできるような環境を整えられて初めて、“片思い”ではないメダルへの期待は生まれるのだ。

もちろん、スーパーラグビーで9トライを挙げた山田章仁がどんなパフォーマンスを見せるのか、15人制のW杯アメリカ戦で“ラッキーボーイ”的存在となった藤田慶和が、五輪の場でもラッキーボーイとなれるのかなど楽しみはいくつもある。

別な言い方をすれば、そうした期待を持って純粋に彼らのパフォーマンスを楽しみたいからこそ、私はメダル云々を考えないようにしているのだ。

この気持ち、ご理解いただけるだろうか?

ところで今、リオはどうなっているのか?

さて、そのリオ五輪だが、5日11時30分のTBSニュースでは、現地で警官が未払いの給与支払いを求めてデモ行進を行ない、しかも、空港では「ようこそ、地獄へ!(WELCOME TO HELL)」という非常に気になる横断幕が掲げられたことを報じていた。

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2813514.htm

ゴルフの松山英樹が、ジカ熱や治安の問題を理由に五輪出場を辞退したのは記憶に新しいが、現地は“開幕祝福モード”全開では決してなく、むしろ不安をかき立てるような要因も多い。

ところが、同じ5日のNHKニュースは「五輪開幕まで1ヶ月」を前面に押し立てて、「ようこそ、地獄へ!」の横断幕は、19時21時いずれのニュースでも流さなかった。

まさか天下のNHKが、五輪ムードに水を差さないためにネガティブな情報をネグレクトしたとは思わないが、今リオデジャネイロがどういう状況なのかは包み隠さず報道されるべきだと思う。

その代わりにNHKが伝えたのは、開会式が日本時間8月6日午前8時に開始されることを受けて、1945年のこの日午前8時15分に広島に投下された原爆で亡くなった犠牲者を追悼するための「1分間の黙祷」が、プランとして用意されていたというニュースだった。

これは、NHKが、開会式の演出を手がけるフェルナンド・メイレリス氏(映画監督)に単独インタビューしたなかかで明かされたもの。以下はNHK NEWS WEBからの引用だ。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160705/k10010584591000.html

『メイレリス氏は、開会式が来月5日(日本時間6日午前8時)から始まることを踏まえ、「原爆が投下された8時15分に、世界中の人たちと一緒に1分間の黙とうをささげたかった。平和のメッセージをショーに盛り込み、人類最大の悲劇について共有したかった」と述べ、開会式で追悼を行う計画だったことを明らかにしました。しかし、組織委員会で検討した結果、「アメリカに対する批判だと受け取られかねない」と懸念する意見が出され、最終的には見送られたということです』

組織委員会がどういう議論を踏まえてこの素晴らしいアイディアに“ダメだし”したのかについてはメイレリス氏が明かさなかったが、実に残念だ。

21年前の1995年、私はケープタウンのニューランズ競技場で、第3回ラグビー・ワールドカップ南アフリカ大会の開会式を見た。

前年に大統領に就任したばかりのネルソン・マンデラ大統領臨席のもと行なわれたこの開会式で南アフリカは、20人程度の小さなグループがさまざまな衣装に身を包み、自国の歴史を群舞の形で再現した。ヨーロッパから移り住んだ白人が、現地の人間を過酷な奴隷労働に追いやった、いわば自国の恥部まで織り込んだ群舞は圧倒的で、そのあとのマンデラ大統領のスピーチを引き立てた。

シドニー、北京、ロンドンと、五輪開会式に自国の歴史を物語るパフォーマンスが行なわれているが、これらの源は、この95年W杯開会式のフォーマットなのである。

そのオリジナルを現場で見た私には、こうしたパフォーマンスが持つ力がいかに強いかがよくわかる。だからこそ、なんとしても黙祷を行なって欲しかった。

もし黙祷が行なわれれば、治安の悪化やジカ熱などの不安要素を吹き飛ばすような強烈なインパクトを全世界に与えることになっただろうに――というのが、リオ五輪を地球の裏側でテレビにかじりついて観戦せざるを得ない私の、ささやかなボヤキである。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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