検査なし・オンライン診療でインフルエンザの遠隔診断が可能に 同時流行時の注意点
海外でもインフルエンザの流行がみられたことから、今シーズンの日本でもインフルエンザの流行が起こる懸念があります。新型コロナとの同時流行時において、医療逼迫を回避するためにオンライン診療を活用する案が提示されました。検査なし・オンラインでインフルエンザの遠隔診断が可能とされていますが、本当でしょうか。
遠隔のインフルエンザ診断
「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」から、重症化リスクが低い人は、まずは新型コロナの自己検査をおこない、その後オンライン診療・電話診療・かかりつけ医等によってインフルエンザらしいかどうか判断を仰ぐというフローが提案されています(図)(1)。
現時点ではインフルエンザの抗原検査キットは市販が解禁されておらず、自己検査できません。軽症者の場合、新型コロナは自己検査・インフルエンザは他己検査となります。
あまり知られていませんが、突然の発症、高熱、上気道炎症状、全身倦怠感などの全身症状の4項目がそろっていれば、検査をおこなわずとも医師の判断でインフルエンザの診断が可能でした(表)(2,3)。
「でした」と書いたのは、この基準はコロナ禍前に作られたものだからです。症状だけで判別が難しい現状、こうしたざっくりした基準を適用することは、特に遠隔診療においては限界があります。
事細かに問診すれば疾患をしぼっていくことは可能ですが、その他の疾患を見逃すリスクはあります。たとえば、扁桃腺の炎症は、口を開けて診察しないと分かりません。また、呼吸器系以外の感染症については、身体診察が重要なことが多いです。
提示されたフローは「新型コロナとインフルエンザ」に偏っているため、あくまで両疾患の疑いが強い場合にのみ適用すべきでしょう。
オンライン診療が可能な医療機関
ウェブカメラなどを使ったオンライン診療をおこなっている医療機関もありますが、正式には「電話や情報通信機器を用いて診療を実施する医療機関」とされており、実際のところ電話診療が多いと思います。
厚労省では、自治体ごとにオンライン診療が可能な医療機関を掲示しています。
■厚労省:新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえたオンライン診療について(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html)
インフルエンザ治療薬も遠隔処方が可能に
新型コロナが陰性の場合、オンライン診療でインフルエンザと診断すれば、インフルエンザ治療薬を処方することも可能になります。
ただ、あまりこの点を前面に出しすぎると、安易な抗ウイルス薬処方が増えるのではないかと懸念しています。
重症化リスクが低い若年~成人では、インフルエンザ治療薬は、症状期間を少し短縮させる効果はありますが、重症化を抑制する効果はありません(4)。軽症例にインフルエンザ治療薬が積極的に使用されている国は日本をおいて他になく、「抗ウイルス薬=インフルエンザの特効薬」という認識をあまり広めるべきではないと個人的に考えています。
専門家が医学書にも書いておられますが、得られる効果や診療後に悪化した場合の受診目安の「説明を処方すること」のほうが実は重要です(5)。
医療逼迫を避けるという点で意義のあるフローですが、そもそも重症化リスクが低い新型コロナ陰性の軽症者に、オンライン診療を整備してまでインフルエンザ治療薬を積極的に処方する必要はないかもしれません。
まとめ
医療逼迫を避けるため、オンライン診療を活用したフローを紹介しました。ただし、「新型コロナとインフルエンザ」以外の疾患を看過しないよう注意する必要があります。
また、検査なし・オンライン診療のインフルエンザ診断については慎重を期するべきで、特にインフルエンザ治療薬の処方閾値が低い日本では、無用な処方が増えないことを願うばかりです。
(参考資料)
(1) 第1回新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース(令和4年10月13日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00400.html#h2_free20)
(2) 国立感染症研究所. インフルエンザ診断マニュアル(第4版)(URL:https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/influenza20190116.pdf)
(3) インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)の届け出基準(URL:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-28.html)
(4) Jefferson T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Apr 10;2014(4):CD008965.
(5) 山本舜悟. かぜ診療マニュアル 第3版. 日本医事新報社.