23日に横浜アリーナで、ボクシングトリプル世界戦が行われた。

メインイベントにWBA世界ミドル級王者の村田諒太（33=帝拳）が、同級8位のスティーブン・バトラー（24=カナダ）と初防衛戦を戦った。

パンチの応酬

村田は序盤からプレッシャーを掛け、挑戦者のバトラーを追い詰めていく。

KO率８割を超えるバトラーは、力強いパンチを降ってくるが、村田のガードが高くクリーンヒットを許さない。

長距離が得意なバトラーは、距離を取ろうとするが、村田の圧力が強くて距離が詰まっていく。

3Rからは村田のボディが効果的に決まり、バトラーは勢いを失っていった。

それを見越して、村田もさらに攻勢を強めていく。

バトラーが下がり始めたのをチャンスと見て、村田が一気に攻勢を仕掛ける。フックやボディなど多彩なパンチを浴びせペースを掴んでいった。

第5R。村田がプレッシャーを掛けて近い距離で、パンチを打ち分ける。

村田の右のクロス気味のパンチが入ったところで、バトラーが下がった。

そして、コーナーに追い詰めたところで、左フックの返しのパンチがバトラーの顎を捉える。

その一撃でバトラーが一気に崩れ落ち、レフリーがそこで試合をストップ。

村田が初防衛戦をKO勝利で飾った。

絶妙な緊張感

私は試合前に控え室を訪れたが、村田は非常にいい緊張感を保ってた。

試合でパフォーマンスを最大限発揮するには、メンタルの状態が不可欠だ。

緊張し過ぎてもダメだし、リラックスし過ぎても力は出ない。緊張感のコントロールが必要になる。

私も経験があるが、試合直前は物凄いプレッシャーに襲われる。自分の背中に全てがのしかかり、その場から逃げたくなるほどだ。

そんな重圧の中でも、村田は時折笑顔で、冗談を言いながらリラックスしていた。

そして、試合が近づくにつれて顔つきが変わり、気持ちを高めていった。

前回の試合では、一度負けている相手に直接のリベンジマッチ。

大きなプレッシャーがかかるなか、自分の持ち味を発揮して見事なKO勝利。

それが良い経験となり、今回の試合でも自分のスタイルを貫き、見事なパフォーマンスを見せた。

村田は大舞台で力を発揮できる、「気持ちの強さ」も兼ね備えている。

試合後のインタビューでも「控え室でも調子がよかった。倒せると思ったし、その思いのままリングに上がった」と話している。

また、村田はパワー系の選手に思われがちだが、技術的にも非常に優れている。

今回の試合でも、前に出てプレッシャーを掛けながら、アッパー、フック、ボディと多彩なパンチを打って相手を苦しめた。

バトラーからしても、強いパンチが様々な角度で放たれるので、対応できなかったのだろう。

特に自分の得意な距離（接近戦）での攻撃の多彩さには、目を見張るものがあった。

逆境から這い上がり、気持ちの強さも見せ、更なる進化を遂げた。

ビッグマッチに向けて

試合後のヒーローインタビューではリラックスした表情を見せ、

「今年は激動でした。自分のボクシングが確立できたと思う」と振り返った。

前回の試合から、自分のボクシングの完成系がイメージできたようだ。

村田のフィジカルの強さとパンチの破壊力は、世界でもトップクラスになるだろう。

また、会場のファンに向けて

「皆さん、井上尚弥の試合を見て思ったと思うけど、リアルと戦ってほしいと思うんですよ。なのでリアルな試合をお願いします！」

と、ビッグマッチを熱望した。

この階級には、カネロ・アルバレス（WBAスーパー＆WBC王者）と、ゲンナジー・ゴロフキン（IBF王者）の、２人のビッグネームがいる。

今回の試合には、村田をプロモートするトップランク社のCEOのボブ・アラム氏も観戦に訪れていた。

試合後にアラム氏は、「来年の東京五輪前に、東京ドームでカネロかゴロフキンを呼びたい。できるなら五輪前と五輪後に１試合ずつやりたい」と構想を明かした。

村田は世界的なビッグネームと、肩を並べる存在となった。

日本人には無理だと言われたこの階級で、ここまで登りつめるボクサーが現れるとは、誰が予想しただろうか。

村田は今後の抱負として「東京（オリンピック）に花を添えられるように頑張りたい」と決意を述べた。

来年のボクシング界は東京五輪も控え、大きなビッグイベントが目白押しとなりそうだ。

村田を含めた、日本人ボクサーの更なる活躍に期待したい。