『まれ』津村徹と椿鬼奴の夫。「ダメ男」なのに幸せな結婚ができる男性の共通点
NHKの連続テレビ小説史上でも抜群に「ダメ父」なのだと思う。大泉洋が演じる津村徹のことだ。家族を愛する心は強いのだが、とにかく甲斐性がない。地道にコツコツやる仕事は続かず、お人好しで商売センスもないのに「でっかい」ビジネスを常に追い求めている。幼い愛娘(ヒロイン)から「お父さんはそういう人だから仕方ない。家族で支えていくよ」などと憐れまれる体たらくだ。現在は、清掃員として働いているが、仕事に身が入っているようにはとても見えない。
一家の「二本柱」は常盤貴子演じる津村藍子および土屋太鳳が演じるヒロインである。いくつもの仕事を掛け持ちし、下宿先の老夫婦をはじめとする近所付き合いもこまめにして、家事もこなしている。ヒロインが横浜に旅立った後は、藍子が大黒柱として家族を支え続けるのだろう。
実在の人物でも、ダメ男なのに立派な妻と幸せそうな結婚ができた男性がいる。お笑い芸人のグランジ佐藤大だ。妻は、実績も実力も明らかに格上の同業者である椿鬼奴。
借金があってギャンブル癖もあるとされる佐藤が、頭も性格も良くて実は美人の鬼奴をつかまえたことは驚くに値しない。むしろ、劣等感を見せずに平然と結婚を決めて楽しそうにしている姿が素晴らしい。実情はわからないが、結婚発表後にますます伸びやかな芸を披露している鬼奴からは二人の良好な関係しか想像できない。バカにしたり妬んだりする声があるかもしれないが、佐藤はまぎれもない「幸せ者」だと思う。
津村徹と佐藤大には2つの共通点がある。自分からプロポーズをしたこと、結果が出なくてもいじけないこと、だ。
筆者は様々な人たちへの恋愛・結婚模様インタビューをライフワークとしているが、「告白やプロポーズは男性からするべきだ。そうでないと長期的に幸せな関係は築けない」という経験則がある。お膳立ては女性がしてもかまわない。しかし、最後は男性のほうが「みじめにフラれるかもしれない」リスクを背負わなければならない。男性は自ら責任を負わないと一人の女性に誠意を尽くす覚悟が定まらないからだと思う。
勇気を振り絞って告白をし、その後も変わらぬ愛情を示し続けさえすれば、働き者で気立ても良い妻はほとんどそれだけをエネルギー源として活躍してくれる。どんなに優準不断なダメ男であっても、プロポーズだけは男気を見せなければならないのだ。それができないのであれば、津村藍子や椿鬼奴のような立派な女性と一緒になれないだろう。
朗らかさを失わず、いじけないことも重要だ。女性は生き生きと働いている男性を美しい、かわいいと感じるものだ。逆に、卑屈で怠惰でふてくされている男性には嫌悪感を覚える。どんなにダメ男でもDVだけは論外であるが、DV男の根本には「いじけ根性」があることを指摘しておきたい。女性としては、どんなに見た目や肩書が良くても卑屈さを感じさせる男性だけは避けるべきだ。
津村徹はちょっとバカっぽいほど前向きだ。妻や子供たちから罵詈雑言を浴びせられても縁側で泣くだけで、DVなどとは無縁である。すぐに元気になり、おそらく結果が出ない夢を再び追いかけ始める。佐藤大にも同じような素質を感じる。鬼奴としては「愛おしくて仕方ない」存在なのだと思う。
安泰な将来など誰も確信できない時代である。専業主婦は絶滅危惧種となり、夫婦がダブルエンジンで稼いで助け合っていくのが当たり前になりつつある。男性の生存戦略も変わっていくはずだ。「優秀なオレ様が家族を養っていく」などという気概よりも、「立派な女性に愛される人間になろう」と心がけるほうが人生を豊かにする気がする。ひたすら情けない津村徹と佐藤大を笑いつつも、密かにうらやましく思う既婚男性も多いのではないだろうか。