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「加熱式タバコ」に新たな健康リスク、「心血管疾患」と関係が

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 喫煙が健康に悪影響をおよぼすのは広く知られているが、加熱式タバコにも健康リスクがあるという研究が新たに出された。紙巻きタバコと同様の代謝系への影響から、研究者は心血管疾患を引き起こす危険性を指摘する。

喫煙とグルタミン酸の関係は

 喫煙は、心臓や血管の病気、心血管疾患と関係がある。血管の内側を傷つけ、高血圧を引き起こす。さらに喫煙は、アテローム性動脈硬化症、心不全、心房細動、脳卒中、腹部大動脈瘤などのリスクを高める(※1)。

 最近、慶応大学などの研究グループが、大規模なコホート(集団)調査(※2)を使い、加熱式タバコの健康リスクを調べた論文を発表した(※3)。同研究グループは、研究対象である集団の代謝物を網羅的に調べ(メタボローム解析)、喫煙習慣と血液中の代謝物の関連性を分析した。

 それによると、喫煙者は非喫煙者とは異なる代謝物の特徴があり、加熱式タバコの喫煙者は紙巻きタバコの喫煙者に近い代謝物の特徴を持っていることがわかった。同研究グループは、代謝物の中でグルタミン酸の濃度に注目し、加熱式タバコを含む喫煙がグルタミン酸の代謝経路(パスウェイ)に関係している可能性があることが示唆されたという。

 そして、代謝のネットワークとパスウェイを解析するソフト(Ingenuity Pathway Analysis)を使って分析したところ、喫煙に関係するグルタミン酸の代謝経路の変化によって血管の内側の機能不全やアテローム性動脈硬化症を引き起こす危険性があることが示された。同研究グループは、加熱式タバコもグルタミン酸の代謝経路に影響を及ぼすため、加熱式タバコも心血管疾患のリスクに関係しているのではないかと考えている。

 グルタミン酸が心血管疾患と関係しているのは最近わかってきたことのようだが(※4)、今回の慶応大学のコホート研究によって喫煙とグルタミン酸の関係が示されたことになる。

ニコチンはアテローム性動脈硬化症を悪化させる

 ところで、加熱式タバコには、ニコチンが紙巻きタバコと同じくらい含まれている(※5)。

 中国の上海交通大学の研究グループが2021年に発表した論文は、ニコチンがアテローム性動脈硬化症を悪化させると指摘している(※6)。

 また、米国テキサスA&M大学の研究グループが、加熱式タバコや電子タバコなどの新型タバコについて網羅的に調べた2022年のレビュー論文によると、これらの新型タバコからの有害な化学物質に血栓症を引き起こす危険性があるようだ(※7)。同様の研究は、2023年にドイツのドレスデン工科大学の研究グループも出している(※8)。

 さらに、2023年11月に発表されたイタリアの研究グループの論文は、加熱式タバコが心臓の組織を線維化させ、心房細動のリスクを高めることを示唆している(※9)。これは加熱式タバコだけを吸っている喫煙者の血液を調べた研究で、紙巻きタバコと同じくらいの悪影響があるようだ。

 以上をまとめると、加熱式タバコは喫煙者の代謝に紙巻きタバコと同様の作用をおよぼし、心血管疾患にかかる危険性があり、加熱式タバコにも含まれるニコチンはアテローム性動脈硬化症を悪化させる。また、加熱式タバコを含む新型タバコには血栓症のリスクを高め、加熱式タバコには紙巻きタバコと同じくらい心房細動のリスクがある。

 いずれにしても、禁煙サポートや有害性の低減によるハームリダクションが期待されている加熱式タバコなどの新型タバコだが、紙巻きタバコと同等かそれ以上の健康へのリスクがあるようだ。やはり、健康のためには、紙巻きタバコも加熱式タバコもやめるのが最もいいということになる。

※1:Takahisa Kondo, et al., "Effects of Tobacco Smoking on Cardiovascular Disease" Circulation Journal, Vol.83, No.10, 2019

※2:山形県鶴岡市で2012年から2015年にかけて実施し、1万1002人の市民を現在も追跡調査している「鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)」。心血管疾患、脳卒中、がん、加齢による機能低下を含む多因子複合疾患への予防医療のために行われている。

※3:Sei Harada, et al., "Metabolomics profiles alterations in cigarette smokers and heated tobacco product users" Journal of Epidemiology, doi.org/10.2188/jea.JE20230170, 4, November, 2023

※4-1:Yan Zheng, et al., "Metabolites of Glutamate Metabolism Are Associated With Incident Cardiovascular Events in the PREDIMED PREvención con DIeta MEDiterránea (PREDIMED) Trial" Journal of the American Heart Association, Vol.5(9), e003755, September, 2016

※4-2:William Durante, "The Emerging Role of L-Glutamine in Cardiovascular Health and Disease" nutrients, Vol.11(9), 2092, 4, September, 2019

※5:Rola Salman, et al., "Free-Base and Total Nicotine, Reactive Oxygen Species, and Carbonyl Emissions From IQOS, a Heated Tobacco Product" NICOTINE & TOBACCO RESEARCH, Vol.21, Issue9, 1285-1288, 23, September, 2018

※6:Cheng Yu Mao, et al., "Nicotine exacerbates atherosclerosis through a macrophage-mediated endothelial injury pathway" Open-Access Impact Journal on Aging, Vol.13(5), 7627-7643, 15, March, 2021

※7:Ahmed B. Alarabi, et al., "The effect of emerging tobacco related products and their toxic constituents on thrombosis" Life Sciences, Vol.290, 1, February, 2022

※8:Justus Klein, et al., "Regulation of endothelial function by cigarette smoke and next-generation tobacco and nicotine products" Pflugers Archiv European Journal of Physiology, Vol.475, 835-844, 7, June, 2023

※9:Vittorio Picchio, et al., "Exposure to Serum From Exclusive Heated Tobacco Product Smokers Induces mTOR Activation and Fibrotic Features in Human Cardiac Fibroblasts" Circulation, Vol.148, Issue Suppl_1, 7, November, 2023

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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