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なぜ大名古屋ビルヂングは“ビルヂング”なのか?

大竹敏之名古屋ネタライター

人気のファッション&グルメを集めた大型商業施設

3月9日に名古屋駅前に「大名古屋ビルヂング」が新装オープンしました。

1~5階は全74店舗が集まった大型商業施設。キーテナントはセレクトストア「イセタンハウス」で、おしゃれな伊勢丹が名古屋初出店ということでも大いに話題に。柱や天井などに現代アートを配するなど、空間もまたおしゃれ。レストラン街「大名古屋ダイニング」では東京の人気店や、地元のツウ好みの店がピックアップされ、これまた話題性豊か。オープン初日には開店前から300人が列をなすなど人出を集めています。

ファッション、雑貨などセンスのいいセレクトが光る
ファッション、雑貨などセンスのいいセレクトが光る

名古屋駅はこのところ巨大ビルの建設ラッシュ。中でも大名古屋ビルヂングのオープンは大きな目玉で、名駅エリアの盛り上がりをけん引する役割を担っています。

ダサい名古屋の象徴だった旧ビルの名をなぜ・・・?

ビアガーデンマイアミにパネル展示されていた旧ビルの全容
ビアガーデンマイアミにパネル展示されていた旧ビルの全容

さて、それはそうと、こんなおしゃれなビルなのになぜ名前が「大名古屋ビルヂング」なのか?

これは昭和37年、現在と同じ場所に建てられた旧「大名古屋ビルヂング」の名称を受け継いだもの。「ビルディング」ではなく「ビルヂング」とは、何だか古臭くて野暮ったい印象を受ける人も多いのではないでしょうか。事実、旧ビルはこの名前の文字板をてっぺんに冠し、名古屋のあか抜けなさ・・・もっとあからさまにいうとダサさの象徴と揶揄されることもしばしばでした。

しかし、実はこのビルヂングという表記、名古屋だけのものではありませんでした。三菱地所が昭和の時代に建てたビルは「丸の内ビルヂング」など、同様の名称だったのです。

とは言え、「丸の内ビルヂング」は2002年の建て替えの際に「丸の内ビルディング」とあらためられました。なぜ名古屋はそのままだったのでしょう?

三菱地所はこう答えます。

「旧ビルは、この地域に甚大な被害をもたらした昭和34年の伊勢湾台風からの復興を目指して建てられました。ビル建設における安全性がより重視される今、最新の防災性・耐震性を備えて完成したこのビルには、復興のシンボルだった大名古屋ビルヂングの名前がふさわしいと考えたのです」

親しまれた名の継承で地元っ子の愛着も継承

旧ビルと同じ書体の「大名古屋ビルヂング」の文字板
旧ビルと同じ書体の「大名古屋ビルヂング」の文字板

また地元の人にとっては、大名古屋ビルヂングは半世紀にわたって慣れ親しんできた駅前のランドマーク。夏のビアガーデンを毎年楽しみにしていた人も少なくありませんでした。

そんな名古屋人の思いを察してか、新ビルには、旧ビルと同じデザインの「大名古屋ビルヂング」という文字板が低層階に取り付けられています。しかも、低層階は旧ビルがモチーフとなっていて、それを丘に見立てて、その上に高層階が大樹のように大空へ伸びています。何とも心憎い設計。これによって新ビルは、単なる新築の巨大ビルではなく、気心の知れた町のシンボルがパワーアップしてよみがえったものとなったのです。

「大名古屋ビルヂングだから出店した」とソロピッツァ ナポレターナの牧島昭成さん
「大名古屋ビルヂングだから出店した」とソロピッツァ ナポレターナの牧島昭成さん

地元発のテナントの中には、商業施設初出店の店舗も多く、旧ビルへの愛着を出店の決め手としたオーナーも少なからずいたようです。

「学生時代に名古屋駅に通っていたので、大名古屋ビルヂングの地下でよくカレーを食べたりしていました。出店のお話をいただいた時、“僕がやらなきゃ誰がやる”という気にさせられたんです」と飲食店の目玉のひとつ、ソロピッツァ ナポレターナの牧島昭成さん。

“大名古屋ビルヂング”でなかったら出店を決断できたか分からないといいます。

大名古屋ビルヂングが照らす“これからの名古屋”の道筋

リブレット ナゴヤの大名古屋文具店謹製ツバメノート。ちょっとダサいのが愛らしい
リブレット ナゴヤの大名古屋文具店謹製ツバメノート。ちょっとダサいのが愛らしい

“大いなる田舎”“文化不毛の地”など、ありがたくないレッテルを貼られ続けてきた名古屋ですが、最近はローカルゆえの独自性を他にはない個性ととらえ、肯定的に受け止めていこうと、市民の意識も周囲の見方も変わりつつあると感じます(このあたりの変化は当コラム第1回「なぜ名古屋はバカにされなくなったのか?」をご参照ください)。

そして、従来の名古屋らしさを守りながら、おしゃれかつ威風堂々と進化した新・大名古屋ビルヂングは、これからの名古屋が取るべき姿勢を体現しているとさえ言えます。この名前だったからこそ、名古屋人が愛着を感じ、地元メディアも大々的に取り上げ、また他府県の人にも強く印象を残すことができる。「大名古屋ビルヂング」の名称継承は英断であり、大正解だったと言えるのではないでしょうか。

□ 大名古屋ビルヂング

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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