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イブラヒモビッチは「理想の上司」 知性と矜持、男気でミランを照らす太陽に

中村大晃カルチョ・ライター
10月26日、セリエA第5節ローマ戦でのイブラヒモビッチ(写真:ロイター/アフロ)

ミランのズラタン・イブラヒモビッチが絶好調だ。開幕から6節を消化したセリエAで4試合出場の7ゴールと得点ランク首位。51分ごとに1得点と驚異のペースでネットを揺らしている。

ヨーロッパリーグでも3試合出場で1ゴールを記録しており、公式戦7試合出場で8ゴール。70分ごとに1得点と、出れば必ずゴールを決めるというくらいの存在感を見せつけている。

11月1日のウディネーゼ戦でも、アクロバティックなゴールでチームを2-1の勝利に導いた。

イブラヒモビッチの好調は昨季から続いており、ロックダウン以降のセリエAで19得点関与(14ゴール、5アシスト)はリーグ最多。現在は6試合連続得点中だ。これは1994-95シーズン以降で2001年のアンドリー・シェフチェンコと2012年の自分に続き、ミランで3度目の記録という。

10月で39歳になったことを忘れさせる活躍ぶりに、セリエAで3回目の得点王を期待する声も小さくない『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のアンケートでは、1万人を超えるユーザーのうち、じつに7割ものファンが得点王になれると予想した。

◆望外のスクデットも?

ただ、イブラヒモビッチの影響が得点だけにとどまらないのは周知のとおりだ。1月に復帰した彼がけん引することで、欧州随一の若いチームであるミランは成長してきた。

特にロックダウン以降は圧倒的な強さを見せ、現在は公式戦24試合連続で無敗を保っている。セリエAでは5勝1分けの勝ち点16で2位に2差の首位。14得点はリーグ4位タイ、5失点は2位タイと、攻守両面で好成績を残している。

ヨーロッパリーグでの躍進、そして何よりチャンピオンズリーグ(CL)復帰を目標に臨んだ今季だが、序盤戦の出来から期待値は上がるいっぽうだ。

実際、1994-95シーズン以降で開幕から6試合で5勝を挙げたのは、1995-96シーズン、2003-04シーズン以来であり、過去2シーズンはいずれも優勝している。

『ガゼッタ』のアンケートでも、7000人弱の半数以上が優勝可能と回答した。

◆重圧・責任を一手に

もちろん、リーグ戦はまだ2割も消化していない。これから困難があるのは確実だ。

そのときに焦点となるのは、若いチームの対応力だろう。そこで再び期待されるのが、大ベテランのでっかい背中だ。

ウディネーゼ戦後、イブラヒモビッチは「重圧はオレが負う。責任はオレが背負う」と話した。

「あいつらはそんなこと感じる必要ない。オレに任せろ。あいつらはただ仕事し、信じ、ついてこなきゃいけないだけだ。誰にでも難しい時期は訪れる。普通のことで、それもシーズンのうち。大切なのは、仕事して、ポジティブに考えることだ」

世界を股にかける男のこの言葉に、頼もしさを感じない若手はいないだろう。イブラヒモビッチの背中を追うことで、ミランの若い選手たちが心技体のいずれも成長してきているのは確かだ。

ファブリツィオ・ボッカ記者は『レプッブリカ』で「イブラヒモビッチは今のミランの魂であり、大黒柱だ。その周囲を全惑星が周る太陽だ。すべての選手が彼よりも若く、彼ほど経験がない。だが、イブラヒモビッチの勇気と図太さを糧に育っている」と記した。

ただ、イブラヒモビッチは39歳という自分の年齢も強く自覚している。現在のプレースタイルは、以前のようにはできないことも意識したものに変わった。それでいて影響力は圧倒的だ。こういった点もまた、若手からの敬意を集めているに違いない。

さらに、イブラヒモビッチはステーファノ・ピオーリ監督をリスペクトしている。復帰したときに「あなたが監督で、オレは選手だ」と、役割を尊重する姿勢を最初に示したのは有名だ。

選手としてのイブラヒモビッチと監督としてのピオーリとでは、実績がまったく異なる。もしもイブラヒモビッチに軽んじられたら、ピオーリはチームを掌握できなかっただろう。好調ぶりにたびたび「調和」という言葉を用いる指揮官にとって、致命的となっていたはずだ。

己を知り、敬意を払い、“部下”を先導する。どの組織でも望まれる人物ではないだろうか。

◆40歳までミランで?

ただしもちろん、オレ様キャラは健在だ。ウディネーゼ戦後のインタビューでは「パオロ(・マルディーニ幹部)に契約を延長しないなら次の試合に出ないと言うよ(笑)」とジョークを飛ばした。

契約は今季いっぱいだが、現在の活躍から延長を巡る報道は絶えない。先輩シェフチェンコは『ガゼッタ』のインタビューで契約延長を後押ししている。

昨季、イブラヒモビッチは「最初からオレがいれば優勝していた」と豪語した。近年を考えれば、その言葉にうなずいた人は少ないだろう。だが今、イブラヒモビッチはミランの希望の光となっている。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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