ビットコインEC革命?OpenBazaarのアナーキーさに頭がクラクラ
特定の管理者を排除した完全P2P型システムの暗号通貨以外への様々な応用が試みられています。そのようなシステムのひつとつに、eBay、ヤフオク、メルカリのようなユーザー間の売買をP2P型で直接行なえるサービスOpenBazaarがあります。一部では、”eBayキラー”、”ビットコインによるEC革命”とも呼ばれているようです。同サービスは2014年にトロントで行なわれたハッカソンの優勝プロジェクトに起源を持ち、100万ドル級のVC投資も受けています。
システムはIPFS(InterPlanetary File System)というBitTorrent的なファイルシステム上で動いており、ブロックチェーンは直接関係ありません(支払いにビットコインが必要という点では間接的に関係していますが)。完全にP2P型で動いていますので、管理者(運営)は存在しません。取引手数料は無料(そもそも支払う対象がいません)ですが、トラブルがあっても誰も助けてくれません。仮に誰かがこのシステムを止めようと思ってもBitTorrentを止められないとの同様に止めることはできません。
既に稼働中なので実際に動かしてみました。ブラウザでは動きませんのでアプリのインストールが必要です(公式サイト)。ビットコインのウォレットを持ってなくても見るだけならできます。
デジタルの商品と物理的な商品があります。品揃えはかなりカオスで、ビットコインのノベルティグッズ、ハードウェアのパーツ、動画コンテンツ、植物の種、衣料品等々なんでもありです。メールアドレスリスト100万件分、Windows 10ライセンス(約1,000円)等、明らかに怪しい出品もありますが、削除してくれる管理者がいないのでどうしようもありません。
物理的な商品はエスクロー的な機能により、商品が届くまで支払いが完結しないようにできます(ビットコインの暗号鍵を分割することで実現しているようです)。とは言え、ブランド商品かと思ったらよく見たら偽物だったとか、荷物を送ったのに相手が送られてないと主張して金が払われないリスク等はあります。通常のオークションサイトであれば、このような問題があれば「運営」が介入して返金等の対応が取られますが、OpenBazaarは「運営レス」なのでどうしようもありません。当事者同士が訴訟するなりして解決するしかありません。
OpenBazaarは完全P2Pなので売り手のストアのIPはこちらから見えます。ただし、最近のリリースでTORとの統合が行なわれていますので売り手の特定が困難な可能性があります。また、支払いはビットコインで行なわれますので追跡はできますが、ミキサーにかけられているとこれまた使用者の特定は困難です。
要は、「運営レス」の状態で匿名性が高い取引が可能であるということで、ドラッグ、拳銃、マルウェア作成キット、著作権侵害コンテンツ等々、違法な商品を売り放題になる可能性があります。「ダークウェブ」が表のインターネットに出てきたようなものと思われる方もいるかもしれません。
この問題に対してOpenBazaarの開発元(「運営」ではありません)は、開発者ブログで「テクノロジーは中立であり、合法か違法になるかはそれを使う人次第、世間と同じように善良な人もいれば邪悪な人もいるでしょう」と回答しています(要は「知らんがな」ということでしょう)。
ということで、「eBayキラー」、「EC革命」と呼ぶにはずいぶんアナーキーな世界です。まあ、それを言えば政府にコントロールされない通貨を作ることがそもそもの目的であったビットコインもアナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)というアナーキーなイデオロギーがその根幹にあるわけですが。
個人的には「興味深く」はあるのですが、これが来たるべき世界だと諸手を挙げて受け入れる感じではないというのが正直なところです。何でもビットコイン的なP2P系のシステムでやればバラ色の未来が開けるというような夢を語る人もいますが、実はそういう未来は相当アナーキーなものであることは認識しておいた方がよいでしょう。