ある日、突然、スーパーが無くなった~露わになる深刻な問題とは
・突然の閉店
京都市、京田辺市、茨木市、交野市に4店舗を運営していたスーパーマーケット「ツジトミ」が2022年10月1日に全店を閉店した。 ネット上には、1日以降のチラシも掲載されており、突然の閉店だった。
10月5日午後に訪れた茨木市の山手台にあるサニータウン店には、店内に野菜や果物、冷凍食品など生鮮品も多くの商品がそのまま残され、レジなど機器類が物悲しく点滅していた。まるで人だけが消えうせたSF映画のような店内の光景が、突然の閉店をうかがわせる状態だった。
・車がないと生活できない環境
「ツジトミ」サニータウン店がある茨木サニータウンは、茨木市山手台1丁目から7丁目を指すニュータウンである。1970年代に入り造成が進み、1978年にまちびらきが行われた。計画人口1万2000人で開発造成が進められた。
海抜100メーター前後の高台の南向き斜面に、戸建て住宅や集合住宅が建てられた。1994年には、隣接する地域を「彩都(国際文化公園都市)」として都市再生機構(当時は都市基盤整備公団)が開発を始め、当初計画では、茨木サニータウンに接続するエリアである彩都東部地域にまで、大阪モノレールが延伸されるという計画だった。
両親が、1980年代に茨木サニータウンに住宅を購入したという50歳代の男性は、「うちの親が家を購入した直後には、バブル景気となり、モノレールの駅が出来ると言うので、住宅価格も高騰したが、計画が白紙撤回され、居住人口の減少や高齢化が問題になっていった」と話す。
近年では、新名神(第二名神)高速道路のインターチェンジが完成し、物流施設や製造工場が進出し、雇用も増加しているため、新たな住宅建設も進み、若い住民が増加しつつある。人口は約8千600人となっている。
ただし、最寄り駅であるJR京都線の茨木駅までは、路線バスで約30分、片道380円である。また、ニュータウン内は用途制限が厳格に適応されており、ショッピングセンター以外での商業施設の進出はできない。
そのため、戸建て住宅の前には2台から3台の自家用車が止まっている。先の男性は、「免許返上した両親でも、近所のスーパーで食品を調達できるからと思っていましたが、無くなると非常に困りますよね。親たちはここでずっと住むと言っていたけれど、今回のスーパーの閉店で、親たちのここでの生活も終わりになるかも。新名神のインターもできて、彩都の間の道路工事も進み、山手新町には新しい家が並んで若い人も増えていたので、ちょっと期待していたのだけど残念」と言う。
・ニュータウンの唯一の買い物場所が無くなった
「このスーパーは、サニータウン唯一の買い物場所だったから。ここには、コンビニもドラッグストアもないでしょ。ここが閉まると、バスで国道沿いのところまで行かなきゃいけなくて。」サニータウン内のバス停で路線バスを降りた70歳代の男性が話す。ご夫婦で茨木市内までバスで買い物に行った帰りだと言う。駅まで片道380円というバス運賃も、高齢者にとっては負担だとも指摘する。
ニュータウン内の唯一の買い物場所であったスーパーが突如として、閉店したために、今後は自家用車かバスで約15分ほどの国道沿いまででる必要がある。最も最寄りのコンビニエンスストアも、斜面を降りたニュータウン外まで行かねばならない。先の男性は、「とても歩いて行ける距離ではない。コンビニくらいニュータウンの中にあってもいいと思うのだけど」と言う。
「ツジトミ」のある場所から、最も近いスーパーまで約2.5キロ。それも急な斜面の昇り降りがある。徒歩や自転車では困難だ。
・「超」高齢化したニュータウン
実は茨木サニータウンのある茨木市山手台は、新たに造成され若い世代の居住の多い山手台新町以外の地域では、高齢化率が深刻であり、40%を超している「超」高齢化の街となっている。
「ツジトミの閉店はショックですねえ。買い物をどうするか、ご近所の方とも、これからが不安だねと言っています。ここで生活を続けられるのか、私たちにとっては深刻です」先の男性と一緒に買い物袋を持ってバスを降りてきた、奥様もそう話す。
交野市幾野の「ツジトミ」交野店の閉店に対して、交野市の山本けい市長は、10月5日にツイッターに「令和4年10月3日、市長として、買い物難民対策にとくし丸に出動を依頼しました」と投稿した。「とくし丸」とは、徳島県に本社のある株式会社とくし丸が経営する移動スーパーである。市長が、特定企業を指名したことに批判的な意見も見られるが、高齢者を中心とした買い物難民の発生への対応を評価する意見もみられる。この交野店の半径約1キロには、スーパー、ドラッグストア、コンビニなどが複数あり、さらに平坦地である。それでも、買い物難民の発生は社会問題として市民生活に大きな影響を及ぼすと認識されていることが判る。
一方の閉店した「ツジトミ」サニータウン店の店内には、地区の福祉委員会が主催していた「ツジトミ買い物お届け隊」の掲示が残されていた。坂道が多く、商品を自宅に持って帰るのが困難な高齢者の顧客に週一回、支援を行うものだ。なんとか住民同士で支え合った生活を守ろうという取り組みを行っていたことが理解される。逆に言えば、今回の閉店が、この地区の高齢者に及ぼす影響の大きさを示している。
大都市郊外に大規模造成されたニュータウンは、同時期にほぼ同世代が入居するため、高齢化も同時に深刻化する。それは既存市街地よりも深刻だ。
・スーパーの倒産が露わにする問題
テレビのコメンテーターが、このスーパーの電子マネーを利用していた高齢者を揶揄したと話題になっている。しかし、閉店した店舗を見ても、「怪しい」雰囲気などない。むしろ、人々が日常の生活をしていた場所であったことを感じさせる。
突然の倒産と、それに伴う電子マネーの問題。確かに、今後、こうした中小流通小売企業の倒産が増加する可能性がある中で、電子マネーやポイントの扱いに不安を持つ人が増えることは確かである。
しかし、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどが徒歩圏内に複数あるような都市部で生活している人たちには理解できないかもしれないが、高齢化が深刻化する大都市郊外のニュータウンや地方部では、地元資本の中小スーパーが徒歩圏内唯一の買い物場所になっていることが多い。
こうしたスーパーの廃業が、多くの人の日常生活の継続に、大きな支障を生みかねない事態が拡がりつつある点にも注意が必要だ。都市部では依然として、1980年代後半のやり方を継続し、大規模開発を進め、無秩序とも見える大手チェーンの出店が継続している。しかし、40年前の継続の先に、本当に未来はあるのだろうか。「持続可能な生活」というのは、自然環境の問題だけではないことを、閉店したスーパーの前に立つと実感させられる。
*高齢化などの資料・・・【直近12か月】町丁字別5歳階級別人口・世帯数(住民基本台帳)茨木市役所 更新日:2022年09月15日