ちょっと早いアカデミー賞、勝手に予想。候補のひとつはコレ!?
年度前半に公開され、アカデミー賞へ
次回のアカデミー賞の話をするのは、まだまだ時期尚早。毎年、賞狙いの作品は、秋から年末にかけて公開されることが多いので、今の段階で賞の予想をするのは。まったくと言っていいほど不可能だ。とはいえ、一年の前半に秀作が公開されない、というわけではない(※ここで指す「公開」とは、アメリカ公開のこと)。
昨年度のアカデミー賞作品賞候補9作のうち、『ハッシュパピー〜バスタブ島の少女〜』は6月にNYやロサンゼルスで限定公開されている。さらにその前年度では『ツリー・オブ・ライフ』が5月、『ミッドナイト・イン・パリ』が6月、『ヘルプ〜心をつなぐストーリー〜』が8月、『マネーボール』が9月と、比較的、早い時期の公開作が候補を占めることになった。
では今年、すでに公開されている映画の中で年末の賞レースに絡む可能性の作品はあるか? かなり強引に、ひとつ挙げてみたい。それは『42 〜世界を変えた男〜』という作品だ。日本では11月1日公開だが、北米ではすでに4月に公開されている。批評家にも好意的に受け止められただけでなく、観客の口コミも手伝って、ボックスオフィスでも大健闘した。日本語タイトルの中に「〜」が入っているのが、昨年の『ハッシュパピー〜』、一昨年の『ヘルプ〜』と重なるのは偶然だが、吉兆でもある!?
メジャーリーグの歴史に燦然と輝く背番号
タイトルにある「42」とは背番号のことだ。野球好きなら知っているかもしれない。黒人選手として初のメジャーリーガーとなった、ジャッキー・ロビンソン。ブルックリン・ドジャース(現在のロサンゼルス・ドジャース)で彼がつけたこの番号は、メジャーリーグ全球団の永久欠番になっている。それほどジャッキー・ロビンソンの功績はメジャーリーグの歴史でも燦然と輝くものであり、そんな彼の半生を描いた本作が、多くのアメリカ人にとっては「絶対に観ておきたい」作品なのは納得できる。そして期待に違わず、『42〜世界を変えた男〜』は、まっすぐな、清々しい感動作に仕上がっていた。
第二次大戦が終わって間もない、1947年。ブルックリン・ドジャースのGM、リッキー・ブランチは、アフリカ系アメリカ人のジャッキー・ロビンソンと契約する。これは前代未聞の決定で、それまでアフリカ系の野球選手は、彼らだけの専用リーグに加入して、ゲームを行なっていた。本作は、このあたりの当時の事情をテンポよく観せ、映画が始まって20分も経たない、リッキーとジャッキーの面会シーンで、早くも涙腺を激しく刺激してくる。その後は、ジャッキーがチームメートから受ける差別、ゲームで観客や相手チームから容赦なく浴びる罵声、それに耐えるジャッキーのひたむきなプレーなどを織り交ぜながら、余計なエピソードにぶれることなく、きっちりテーマを追いかけていく。観る人によっては、この作りを「あざとい」と感じるかもしれない。しかし、冒頭20分で心をつかまれていれば、あとは映画のひたむきな流れに乗っていける。この感覚は、ジャンルこそ違うが、昨年のアカデミー賞作品賞『アルゴ』に近い。
これは演技なのか? ハリソン・フォードのイメージが…
中盤からは、ジャッキーに対するチームメートの心境の変化、観客、とくに子どもたちの反応など、感動のツボを押しまくるエピソードが怒濤のごとく続き、涙が止まらない。ひとつ気になったのは、GMのリッキーを演じるハリソン・フォードの老けっぷりである。セリフもどこか弱々しいのだが、よく考えると、これはハリソンの「演技」ではないか! ある意味で、彼のヒーロー役のイメージを壊すこの演技は、もしかしたらハリソンに助演男優賞ノミネートをもたらすかもしれない。
さまざまな苦境を乗り越え、自分を信じて新たな道を切り開く…。作品に貫かれたこのメッセージは、まさにアカデミー賞向き。映画宣伝用キャッチコピーでは常套句で、聞くだけで気恥ずかしくなる「勇気と感動の」という形容詞が、この作品では素直に、ぴたりと当てはまってしまう。『42 〜世界を変えた男〜』の賞レースの席巻を期待したい。
『42 〜世界を変えた男〜』 (c)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.