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新型コロナ禍や千葉県北西部の地震を教訓に東京を小さくしませんか

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:maroke/イメージマート)

総選挙の争点にならない防災・減災と国土利用の在り方

 オリパラが無事終了し、新型コロナウィルスの新規感染者も減少して、社会が多少落ち着きを取り戻しつつある中、総選挙が行われています。主たる争点は新型コロナ対策や「成長と分配」などの経済政策にあるようで、各党の公約を見ても社会保障、教育・子育て、外交・安保、環境・エネルギー、憲法問題などの言葉がおどっています。

 第2次安倍政権の誕生につながった2012年や2014年の総選挙では、東日本大震災の復興や、福島原発事故後の原子力政策など、防災・減災や国土の在り方が議論されましたが、今回は様変わりです。気象災害が増加し、南海トラフ地震や首都直下地震が切迫する中、防災・減災や、首都一極集中の是正などが議論されないことは残念です。

新型コロナで課題になった三密の首都圏

 10月20日現在、新型コロナウィルスの感染者は、全国で171万人余りです。そのうち東京が38万人弱を占めています。人口10万人当たりの感染者は、全国1,357人程度に対し、東京は2,729人と、沖縄県の3,459人に次いで多くなっています。最も少ない秋田県の193人と比べると10倍以上です。調べてみると、人口密度と感染者率には高い相関があります。

 とくに、東京は人口密度の高さに加え、密な状態で通勤・通学する人が多く、繁華街での飲食率も高いので、感染しやすいようです。ちなみに人口当たりの飲食店数の上位4都府県は、沖縄、高知、東京、大阪です。車での移動が主体の地方とでは通勤手段も大きく異なります。大都市での生活の在り方を見直すときではないでしょうか。

繰り返し発生する千葉県北西部の地震での被害

 10月7日に起きた千葉県北西部の地震は、M5.9、震源深さ75kmとやや深い地震でした。そんなに大きな地震ではなかったのに、旧利根川沿いや干拓地・埋立地などの軟弱な地盤で強い揺れが観測され、最大震度は5強でした。揺れは余り強くありませんでしたが、7万台を超えるエレベーターが緊急停止し、水道管の空気弁が原因の漏水や、鉄道の運行停止による帰宅困難など、大都市ゆえの被害が報じられました。

 千葉県北西部での同様な地震は、2005年、1980年、1956年、1928年と繰り返し発生しています。当時の新聞紙面と比べてみると、被害地域は共通しています。ですが、紙面の扱いはどんどん大きくなっています。とくに、鉄道の運行停止、高層ビルの揺れとエレベーター停止、漏水の記事は過去に比べ多くなっているように思います。一方で、ガスや電気の被害は微少でした。過去の地震と比べ、東京一極集中による危険地域の居住人口と高層ビルの増加、公共インフラの老朽化などの深刻さが分かります。

 カーボンニュートラルの動きなども活用し、ライフラインに過度に依存する現状を見直す時期のようです。

再保険会社に世界一危険と烙印を押された首都圏

 2013年に、スイスの再保険会社スイス・リーが「自然災害リスクの高い都市ランキング」を公表しました。世界の616都市を対象に、洪水、暴風、高潮、地震、津波の5つの自然災害リスクで被災する人口を推計しています。残念ながら、1位は東京・横浜地区、4位が大阪・神戸地区、6位が名古屋地区で、日本の三大都市圏が上位を占めました。ちなみに2位はフィリピンのマニラ、3位は中国の珠江デルタです。上位10都市のうち、9都市はアジアの都市で、欧米の都市は9位のロサンゼルスだけでした。東京は、5つのリスクを合わせて5710万人もの人が影響を受け、中でも地震による影響が突出しています。また、労働損失日数についても、日本の三大都市圏がワースト3になっています。

 1923年関東大震災、1959年伊勢湾台風、1995年阪神淡路大震災などで壊滅的な被害を出したことからもわかるように、過度な人口と産業の集中、災害危険度の高い沿岸低地への都市の拡大などが原因です。中でも首都圏の現状は深刻です。自然災害による社会破綻を回避するためにも首都の大きさを適正規模にすべきだと思います。

「日本沈没」のリメイク版に見る首都圏の特殊性

 何という絶妙のタイミングか、首都圏が揺れた千葉県北西部の地震の3日後に、TBS系列で日曜劇場「日本沈没ー希望のひとー」が始まりました。1973年に刊行された小松左京による日本沈没のリメイク版です。小栗旬演じる官僚の天海啓示と、香川照之演じる地球物理学者の田所雄介、杏演じる週刊誌記者の椎名実梨が絡み合いながらドラマが展開していきます。

 関東地域は、フィリピン海プレート、太平洋プレート、北アメリカプレートの3つのプレートが重なる世界でも稀に見る場所です。過去には、相模トラフ沿いでの関東地震、1855年安政江戸地震のような直下地震が繰り返し起きており、富士山や箱根の火山の噴出物の上にまちが広がっています。ドラマでは、プレート境界にある地下エネルギーを採掘するCOMS計画をきっかけに、スロースリップが始まり、日之島の水没などの地殻変動を起こし、最後には首都が消えていくようです。

 このドラマをきっかけに、多くの人が関東地域の地学的なリスクを理解し、首都の将来像を考えてほしいと思います。

豊かではない東京での生活

 国土交通省の「企業等の東京一極集中に関する懇談会」が本年1月にまとめた資料の中に、都道府県別の経済的豊かさに関するデータが示されています。東京についてみると、可処分所得は全世帯だと3位(1~2位は富山、福井、下位3県は沖縄、大分、青森)ですが、可処分所得の上位40~60%の中央世帯でみると12位(上位3県は富山、三重、山形、下位3県は同じ)、中央世帯の基礎支出は1位(2~3位は神奈川、埼玉、下位3県は大分、宮崎、沖縄)になっています。両者の差額が中央世帯の経済的豊かさになりますが、東京は42位(上位3県は三重、富山、茨城、下位3県は沖縄、青森、宮崎)と、余り豊かではありません。

 ちなみに、通勤時間の機会費用は1位(2~3位は神奈川、千葉、下位3県は鳥取、山形、秋田)なので、通勤による損失も考慮すると、東京は最下位の47位になるようです(上位3県は、三重、富山、山形、46~45位は沖縄、大阪)。真の豊かさとは何なのかとの議論はありそうですが、東京での生活は余り豊かではないようです。

東京一極集中の是正の兆しが見えはじめた

 新型コロナ禍の中、人々の価値観にも変化があるようです。私の勤める大学でも、学生たちは対面講義を受けられず、自宅で遠隔講義を受けており、部活動にも制約があります。新入生たちは友人を作ることができず、精神的に苦しんでいます。新入社員や単身赴任者も同じような境遇にあるようです。とくに、地方から多くの若者が集まる東京では、事態が深刻のようです。このため、東京の人口動態にも新たな兆しが見えてきました。

 東京都が発表する「東京都の人口(推計)」の概要(令和3年6月1日現在)によると、令和3年6月1日現在の東京都の人口は13,957,977人で、前年同月比でみると41,591人も減りました。地方に移住する人が増えたようです。DXやGXの機運や、テレワークやワーケーションの普及もあり、東京のオフィスを縮小したり、単身赴任を廃止したりする会社も出てきました。

 狭隘な家屋から高層ビルが林立する都心に遠距離通勤する時代から、自然に溢れた広い家屋で、元気に育つ子どもたちに囲まれてテレワークする時代へと転換する予感がします。懸案の東京一極集中の是正ができれば、「コロナ禍転じて福となす」ことができそうです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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