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「完成マンション」に一瞬の脚光

櫻井幸雄住宅評論家
すでに建物ができあがり、販売を継続しているのが「完成マンション」。筆者撮影

 今、新築分譲マンションで人気が高いのは「完成マンション」。建物ができあがっているのに、まだ販売を続けている分譲マンションだ。

 なんで、完成マンション?と不思議がる人は多いだろう。日本は、建物が完成する前に販売終了となるマンションが多く、完成してもまだ販売しているマンションは売れ残りとみなされてきた。その売れ残りが人気と聞けば、首をかしげて当然である。しかし、注目度が高まっているのは、紛れもない事実だ。

人気指数が示す完成マンションの注目度

 私は、分譲マンションの資料請求数と販売センター来場者数で人気度を計る「マンション人気指数」を考案。東日本大震災が起きた2011年3月以降、経済誌の誌面で発表しはじめた。

 以後7年あまり、人気マンションを知るバロメーターとして3ヶ月もしくは4ヶ月に1度の割合で経済誌に発表し続けている。

 その最新版を9月頭に週刊ダイヤモンド別冊に発表したのだが、そこで「完成マンション」の人気ぶりが明らかになった。内容の一部を紹介したい。

 今回の調査で「人気が高い」と認められた新築マンションは全国で209。そのうち73物件が完成マンションだった。人気マンションの約35%が完成済みとなる。今年中に完成する予定の“完成間近マンション”を含めると、人気物件のじつに4割が以前から販売を続けているマンションということになる。

 これは、従来にはなかった現象だ。

 これまで、建物が完成しても販売を続けるマンション自体数が少なかった。販売中マンションの1割かせいぜい2割程度だ。その完成マンションが人気物件となる確率はさらに低かった。

 マンションは完成してから時間が経つほど売りにくくなるのが普通。そこで、完成マンションは最後の手段として、「値下げ」を行う。値下げは通常1割程度。希に3割引とか4割引というような大幅値下げを行ったマンションもあるのだが、そこまで下げると注目度は一気に跳ね上がり、短期間に販売終了となるのが常だった。

 が、今回高人気となった完成マンションは値下げを行っていない。

 値段を下げていないのに、人気がじわじわと上がってきたのである。

3年前は高いと思われたが……

 完成マンションの人気度が高まっている理由は、まず価格にある。

 今、人気を高めている完成マンションは、2年前、3年前から販売を行っている物件だ。そして、販売が始まった当初、値段が高いとみなされた物件が多い。しかし、2年、3年の間にマンション相場が上昇を続けた結果、「高い」とみなされた価格が、「そうでもない」と思えるようになってきた。

 たとえば、JR中央線の国分寺駅に直結するシティタワー国分寺ザ・ツインは、2LDKが5998万円、3LDKが7798万円というような価格で分譲されている。決して安くはないが、分譲が始まった3年ほど前と比べれば、価格に対する驚愕度は低い。

 3年前は、あまりの高さにみんながびっくりしたものである。が、今は、駅徒歩1分でエリア最高層であることを考え合わせれば、これくらいの価格になるのも仕方ない、と思えるようになった。

 価格の妥当性を感じられるようになったことが、完成マンションが注目度を高める最大の理由だろう。

今となっては、内容がよい

 今、注目度の高い完成マンションは、「際立つ長所」を備えているものが目立つ。それが再評価されている2つめの理由だ。

 たとえば、品川イーストシティタワーは品川駅から直線距離で1.3キロであり、歩くことも可能。その品川駅周辺では、現在、新規分譲マンションが途絶えており、同マンションは希少な品川駅最寄り物件とみなされるようになった。

 別の完成マンション、シティタワー品川パークフロントは、設備仕様のレベルが高い。

 各住戸の玄関前にドアカメラが設置され、室内の廊下と洗面、トイレの床はタイル張り。キッチンではディスポーザーと食器洗い乾燥機が標準設置となり、天井高はリビング部分で2メートル50センチ、キッチン部分でも2メートル30センチを確保する。キッチン部分にはダウンライトが多いなど、建物にお金をかけた仕様となる。

 現在のような価格上昇期、分譲マンションは人気がある場所に建設しにくく(土地が値上がりしているため)、設備仕様のレベルを下げざるを得ない(レベルを上げると、分譲価格がさらに高くなるため)。

 その点、2年前、3年前に建設されたマンションは、立地も内容もよい。「昔のほうが、よかった」と思える状況が生まれているため、完成マンションへの関心が高まったわけだ。

 さらに、完成マンションは、実物を見て購入を検討できるという長所がある。

 窓からの眺望や日当たり、騒音の有無などを実際に検討する住戸に入って確認できる。これは、失敗のない購入方法となる。

 完成マンションであれば、最短1ヶ月くらいで入居が可能となり、賃貸に住んでいる人は入居までの家賃負担が抑えられるというメリットもある。

 このように考えてゆくと、完成マンションには、「売れ残り」と切り捨てるには惜しい長所がいくつもある。そのことに気づいた人が増えたので、完成マンションに対する関心が高まったのだろう。

 ただし、完成マンションの人気はブームと呼ばれるほどには盛り上がらない。なぜなら、完成マンションの数は限られており、今ある住戸が売り切れれば、それで終了となってしまうからだ。

 完成マンション人気は、価格上昇期のほんの一時期に起こる特別な現象なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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