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鈴木彩艶が演出の「クレイジーな6分」 セリエAも感嘆、パルマを悪夢から救った超絶守備

中村大晃カルチョ・ライター
9月21日、セリエA第5節レッチェ戦でのパルマGK鈴木彩艶(写真:アフロ)

鈴木彩艶のセリエAデビューシーズンは、嫌な流れになりつつあった。それを、自らの力で変えられたかもしれない。それだけのビッグセーブだった。

9月21日、鈴木が所属するパルマは、敵地でレッチェと2-2で引き分けた。先制を許し、後半序盤で数的優位に立つも、10分後に自分たちも退場者を出し、直後に追加点を献上。その後もピンチを迎えた。だが、アディショナルタイムの2得点で勝ち点1をもぎ取っている。

■鈴木を機に9年ぶりの3試合連続退場

パルマは開幕から魅力的なサッカーで称賛された。第2節では名門ミランに勝利。今季のサプライズ候補と評価は右肩上がりだった。その勢いを失ったのが、鈴木が退場した第3節ナポリ戦だ。

議論を呼んだ判定はともかく、鈴木の退場を機に、結果はパルマに味方しなくなっていく。

強豪相手に優位だったナポリ戦は、アディショナルタイムの2失点で1-2と敗れた。鈴木が出場停止だった続くウディネーゼ戦も、前半に2得点しながら退場者を出し、後半に3失点して逆転負け。そしてレッチェ戦も前述のように退場者を出し、2点のビハインドを背負った。

パルマがセリエAの3試合連続で退場者を出したのは、2015年3月以来、9年半ぶりのことだ。

ウディネーゼ戦の黒星も、レッチェ戦の2失点も、鈴木に責任はない。それでも、順調だったナポリ戦で鈴木が退場して以降、パルマが厳しい状況に陥ったのも事実だ。さらに3試合連続で退場者を出し、3連敗ともなれば、パルマにとっては悪夢だっただろう。

鈴木退場が、結果的にチームの今季を悪く変えてしまうのか。大きく懸念された。

■「ワイルドなエンディング」を演出

だが、レッチェ戦で先発復帰を果たした鈴木は、今度はパルマを悪夢から救った。

アディショナルタイムの92分、パルマはカウンターからレッチェに決定機をつくられる。鈴木とニコラ・クルストビッチの1対1となり、誰もがレッチェの追加点を確信した。その絶体絶命のピンチに、鈴木は白旗を上げることなく、冷静かつ懸命な対応でシュートを阻んだのだ。

さらに鈴木はすぐ立ち上がり、ラインを割ったボールを拾いに行く。少しでも早くプレーを再開し、ゴールにつなげるために。そしてその姿勢が実る。直後に1点を返したパルマは、さらに3分後に追加点。クラブ史上2回目というアディショナルタイムの2得点で、3連敗を回避したのだ。

あまりに劇的な同点劇は、鈴木のビッグセーブから始まった。YouTubeのセリエA公式チャンネルは、「クレイジーな最後の6分間」「ワイルドなエンディング」と紹介している。

■安定へのターニングポイントとなるか

鈴木の守備がなければ、パルマは0-3で敗れていただろう。もちろん、勝ったわけではない。パルマが14位と安心できない位置にいるのは確かだ。それでも、勝ち点1をもぎ取り、残留を争うライバルになるかもしれないレッチェの白星を阻んだのは大きい。

なにより、ナポリ戦を境に下降気味だったパルマは、再び浮上できるかもしれない。ナポリ戦での鈴木退場は、悪い意味でターニングポイントになる恐れがあった。だが今度は、レッチェ戦での超絶守備が、良い意味でのターニングポイントになることが期待される。

若いチームに浮き沈みはつきものだ。開幕からわずか5試合で、彼らはすでに「浮き」も「沈み」も経験した。鈴木もチームも、次はこの経験値を生かして再浮上し、そして安定することが課題だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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